巻き込み、巻き込まれ (2)
イザベラ宛にハロルド殿下のお名前で大きなプレゼントの箱が届いたのは翌日の夕方だった。家族で夕食を食べた後に、皆が私の部屋に運ばれたというプレゼントを見にきた。
これだけ集まっても窮屈にならないってやっぱり広いお部屋よね。
箱の中身は控えめについたレースが上品な濃い青色のドレスと、同じ色合いのアクセサリーで、どちらもイザベラのクローゼットには無い色だった。淡い色のフリフリしたドレスばかりが並んでいる。それらはいつもイザベラの好みを揃えられていた。
送られてきたドレスを見たお母様は、まあ、まあ!と嬉しそうに声を上げていた。
「私達がいない間に二人ですっかり仲を深めたのね!お茶会の時はどうなるかと思ったけれど、無事に夜会に出られるようで良かったわ」
あの時、部屋にはシャルもダニエル様もルージュ達もいたのだけど、お母様の中では私と殿下がニ人で会ったことに変換されている。何故かしら。喜んでくれるのは嬉しいけれど、複雑な気分だ。
「そうか…ハロルド殿下か、賢く聡明な方だ。一途に思っても下さっているのだろう…しかしこんなに早くイザベラが…!」
「ウィリアム様、その時がきたら笑顔で見送ってあげないと、イザベラが可哀想ですわよ」
「……うっ」
泣き出しそうなお父様とお母様はまるで娘の結婚式前夜のそれだ。後ろでメイドさん達も少し感極まっている──本人を置き去りにして。
ちょっと大袈裟過ぎるんじゃないかな。
「あの、お父様もお母様も…昨日お話したとおり夜会に誘われただけですよ。お話したのも僅かな時間です。恐らく殿下はセントフォード家への義理を通してくださっただけだと思うんですが」
「イザベラには言っていなかったが、ハロルド殿下は何度もイザベラに会いたいと家を訪ねてこられていたんだよ。夜会のお誘いもずっと前からきてたんだ。是非にってね」
「えっ」
それは他の貴族のご令嬢を誘ったら、セントフォード公爵家に悪いから、一回目だけでもと気を遣って下さっていると思うんだけど。お父様もお母様もそうは思わないのかしら。
「そうですよ。あんまりにもイザベラが会おうとしないから、先日のお茶会で機会を作ったのに、あんなことになってしまって…」
お母様の目から涙が溢れた。
「私の教育が甘かったのがいけないんです」
「クロエ、もういいじゃないか。こうしてイザベラも元気に、お誘いを受けるような素敵な子に育ってくれたんだ」
「ええ、本当に、良かったですわ。1ヶ月後に向けて教えて上げないといけないことが沢山ありますものね」
「私お勉強もダンスも頑張りますわ。でもそれとハロルド殿下の件は別だと思います…」
期待されるのは嬉しいけれど、ハロルド殿下のお心を私がどうにか出来るわけもないし、あまり落胆させたくない。
「イザベラがそこまで言うなら、殿下のことは置いておきましょう。まずは今まで溜めている課題をこなして、どこに出ても恥ずかしくないレディに仕上げなくちゃ」
お母様の涙は止まっていた。
「そうだな、シャーロットも一緒に練習したらどうだろう」
「えっっ」
それまで両親の後ろでにこにことしていたシャーロットは突然自分に会話の矛先が向けられ、大きな声をあげた。
「シャルはまだ夜会に出る年齢ではないから大丈夫だって…!」
お母様が言ったもの!とお父様に抗議する。
両目には涙が溜まり始めている。涙脆いところはきっとお母様に似たんだろう。
「シャーロットにも沢山お手紙がきていてね。我が家のお茶会にはご子息を呼ぶのを嫌がるだろう? だから、遊びに来ないかってお誘いが来てるんだよ。だから今からでも…」
「シャルはお家が好きなんです!どこにもいきません!」
「お姉様がお嫁に行っても、私はこの家に残るんです!」
「お母様とお父様とエマとずっとずっと一緒にいます!」
「だから出会いなんてまったく必要ないんですぅぅう!」
シャーロットはひとしきり叫ぶと、嫌だぁあと泣き崩れてしまった。お父様の言葉が何か彼女の心の地雷を踏んだのだろうか。
酷い泣きようにお父様もお母様もびっくりしてしまったようだ。
私もなんて声をかけていいかわからない。まだお嫁に行くつもりはないんだけど。シャーロットの中でも私はもうお嫁に行くところまで話が進んでしまっているようだ。
「ウィリアム様、シャーロットにはまだ早いですわ。それにこんなに私達のことを考えてくれて、なんて素晴らしい子でしょう」
「そうか、シャーロットにはまだ少し早かったかな」
「お勉強は頑張りますから、お誘いは断ってくださいぃ」
うわーんと絨毯に突っ伏して泣き続けるシャーロットを、お母様の指示でエマが抱きかかえ部屋を出ていった。
「イザベラ、明日から先生達もいらっしゃるから、しっかりお勉強頑張りましょうね。シャーロットにもなるべく一緒にさせるわ」
「はい」
「ゆっくり休みなさい」
「おやすみなさい」
お父様とお母様を見送ったあと、開けっ放しだったドレスは、ルージュに綺麗に仕舞ってもらった。
身支度を終えてベッドに入り、シャーロットの泣き言を思い出す。私だってこの家と家族が好きだ。まだまだこれからも一緒にいたい。でも、家のために嫁ぐ必要があるなら受け入れる。今すぐってのは早すぎるけど。
ハロルド殿下ももしかして両親の期待に応えるために頑張っているのかしら。本当なら婚約者は選び放題の筈だ。相手が平民でも、爵位をあげて結婚した方も過去にはいる。あんなに綺麗なお顔をしていて言葉遣いも丁寧だし、引く手あまただろうに。古い習わしなんて気にしなければいいのに、真面目な方なのかな。
翌日から、午前中はお勉強、午後からはダンスの練習が始まった。今日が月曜日なので殿下とのダンスレッスンがある土曜日まで、あと5日ある。それから夜会まではあと20日。
この世界では28日間で1ヶ月と数える。1週間が7日なのは前世と一緒だ。月曜~金曜が平日で、土曜日は外のお店は開いてるけれど家庭教師の先生達はお休みが多いみたい。日曜日は完全にお休みのようだ。日付と曜日がずれることがないので覚えやすい。それから1日の月曜日は必ず新月で、満月の日は15日である。本に書いてあった。
驚くことに1度聞いたことや読んだ本のことはよく覚えていた。
若いって素晴らしい。するすると頭に入っていく。算数はもちろん前世の記憶があるから楽勝なんだけど、それ以外の科目も一度聞けば理解できた。それになかなか忘れない。凄い凄いと先生が褒めるものだから、調子にのって色々と挑戦してみた。
科学のお勉強のときに魔法が出来るか試してみたら、なんと、そよ風を起こすことに成功した。
治癒魔法を掛けられた後に魔法が使えるようになることが稀にあるそうだ。
「お嬢様は天才です…!これからでも遅くありません!真面目に勉強すれば学園は飛び級して魔法院も夢じゃありません!」
「そんなことないわ。先生の教え方が上手だからですよ」
子供はだいたい14歳から学校に入る。いくつかあるけど、だいたい○○学園という名前がついているらしい。それまでは家庭教師の先生に教えてもらったり、平民の子は近所の年上の子に教えてもらったりする。私は今年13歳だから、来年の4月からは貴族の子達が通うローズ学園に通うことになっている。
魔法院とは、3年間の学園を卒業して、その後も更に難しい勉強を続けながら、魔法の研究をするところだ。この世界に魔法はあるが、生活に根付くほどありふれたものではなく、魔法を使える人は極稀だという。
勉強もダンスも全然苦にならなくて寧ろ楽しかった。魔法の練習もしたし、色々できることが増えるのは楽しくて、褒めてもらえるのも嬉しかった。あっという間に1週間がたってしまった。
土曜日は、殿下に会うことを考えると憂鬱な朝だったが、その前にひとつ楽しみもあった。
「おはようございます、ジャック」
「ああ、お嬢様本当にきたんだな」
「約束しましたから」
朝食後にお庭に出ると、すぐにジャックが見つかった。
お母様のお庭のあたりで仕事をしながら待ってくれていたみたいだ。残念ながら手軽なメモとペンがなかったので、教えてくれることをしっかり覚える。ジャックは意外にも名前や育て方だけじゃなく、花言葉にも詳しかった。図鑑にのってないけど世間で言われていることなんかも教えてくれた。
「薔薇は本数や色で花言葉が変わるんだ。愛とか美とかそういうのが多いんだけど、このピンク色はしとやか、上品、とかっていうな。あとは白だと…」
お母様のお庭にはピンクの薔薇がたくさん咲いていた。ジャック曰く薔薇は育てるのが大変だと聞いた。それをこんなにもたくさん、立派に育てるなんて大変だったろうな。
“しとやか”、“上品”か…きっとお母様がイザベラに求めている理想像もそうだろうな。顔も綺麗だし、ちゃんと勉強すれば賢い子だ。おしとやかにしていれば、王子様かもしくはそれなりの公爵家に嫁げただろう。
しかしこれまでのイザベラは正反対。今さら取り繕っても、過去に流れた噂は消えない。無理を言ってルージュに教えてもらったら、世間では私は我儘令嬢として名を馳せていたらしい。勿論お城にもその噂は届いている。
ハロルド殿下はそんな私のことをどう思っているのかしら。
私はどうするのが皆にとって良くなるのかしら。
「お嬢様?」
「あっ、すみません、ボーッとしてました」
「いいけど…体調が優れないなら今日はもう部屋に戻ったらどうだ?」
「そうね…ジャックにも無理を言ってるのに」
「俺は楽しいよ」
「ありがとう。はやいけど終わりにしましょうか」
「俺、日曜日以外はほとんど庭にいるし、いつでも声かけてください」
「そうだ、異性の知り合いってジャックしかいなくて。最後にちょっと変なこと聞いてもいいかしら」
「どうぞ」
「一度も会ったことのない人と結婚しなければならないとしたら、どう思いますか?」
予想外の質問だったのか、ううーん、とジャックは考え込んだ。
「貴族はそういうの多いから、特に気にしてないんじゃないかな?」
「では一度会ってみて、その方が、お茶を飲む間はしかめっ面をしているし、お庭を案内していたら逃げ出してしまうし、お庭の木を傷付けてしまったり、怪我をしてご迷惑をおかけしたら…どう思うかしら」
「それだけ聞くと、酷いやつだなあとは思うよ」
「やっぱり…」
そうよね。普通に考えてそうだ。"なし"だわ。
私が逆の立場なら、お父様にお相手の方がどのような方なのか説明して、お断りできないか聞いていただくわ。きっとあの方は私のことが嫌いなのです、と。お転婆が酷くて一緒にはいられません、と。家族といる方が良いと言って駄々をこねてしまうだろう。そのくらい信じられない行動だ。
「それって、お嬢様のことだよな?」
「ご存じでしたか」
「みんな噂してるよ。でもこの間ちゃんと謝ったんだろ?メイド達がお嬢様は立派だったって言ってたよ」
「立派だなんて!本当にご迷惑をおかけしたから、平謝りしただけです!それも押し付けがましかったし…」
「前はそりゃ、ちょっと酷かったけど。今のお嬢様は一生懸命やってるし、使用人の俺達にも声かけてくれるしさ。自信もっていいと思うよ」
ジャックはそういってくれるけど、それは私が屋敷の皆さんと仲良くしたいからであって、別に誰に見せるものではない。それに自慢気に話すことでもない。
殿下がこのことを知る由もないし、やっぱり、今までの凡例に則って、セントフォード公爵家に気を遣って声をかけているだけなんだわ。客観的に見て酷いやつなんだもの。皆が勘違いしているのよ。私だけは勘違いしないように冷静でいなくちゃ、殿下がお可哀想だわ。
「ありがとう、元気が出ました」
「あんまり気負わず、がんばれよ」
「ええ。ジャックもお仕事頑張って下さいね、ではまた」
「また」
軽くお辞儀をすると、植木の陰に黒い尻尾が一瞬見えた。
黒猫が玄関の方へ向かって優雅に尻尾を振りながら歩いていた。
「あ、黒猫」
「え!わー!どこから入ったんだ、あっち行け!」
私の思わず呟いた声に反応して後ろを振り返ると、目に入った黒猫を追いかけてジャックは走っていってしまった。
走り去る後ろ姿を見送ってから屋敷の方を見るとルージュが少し離れて待っていた。
屋敷に戻る道中で少し疑問に思ったことを尋ねてみる。
「ねえ、ルージュ、猫は嫌われてるの?」
「お庭を荒らしたり、良くないことが起きたりするといいますからね」
現在進行形で良くないことが起きているのは黒猫のせいかもしれない。なんて責任転嫁をしながら、お庭を後にする。9時を知らせる鐘の音が遠くに聞こえた。
お部屋には張り切ってお母様が選んでくれたドレスが準備されていた。ルージュ達メイドさんも気合いが入っていて、身体を洗うところから始まり、いつも以上に着替えに時間がかかった。
様子を見にシャルを連れたお母様が来て、あれやこれやと更に指示を出すものだから、立ったり座ったりしながらお人形役をやるのも大変だった。
どうしてお母様が来たかというと、時間を決めて待ち合わせというのが難しいからだ。この大きな屋敷でさえ時計は1つ。お父様の書斎に飾ってある。あまり時計を見る習慣もなく、鐘の音とだいたいの感覚で生活している。鐘は、お城に併設された教会が3、6、9、12時にそれぞれその回数分の音を鳴らす。夜中は控えめにならしているようでこれまでに音で起こされたことはない。
先週と同じ時間なら、たぶんハロルド殿下は13時過ぎくらいに来られる。はやめの昼食をとってからお城を出発すればそのくらいになる筈だ。
髪の毛をしっかり結い上げたところで、やっとお母様が満足してくれたので、12時の鐘がなる前に昼食をはじめた。今日はお父様も一緒だった。家族で昼食をとれることは嬉しいけど、私が逃げないように監視されているような気もする。食事後にお茶を飲んでいると暫くしてメイドさんが訪問者を知らせにきた。
「こんにちは、ウィリアム様」
「ハロルド殿下、今日は娘を宜しくお願いいたします」
ハロルド殿下とダニエル様が来ていた。玄関の外で馬車から降りてきていた。殿下は見送りにきたお父様とお母様、そしてシャーロットに、丁寧に挨拶をしていた。勿論私にも挨拶してくれた。本当に爽やかな王子様だ。一緒にいるダニエル様があまり喋らないから余計にそう感じるのかもしれない。
馬車の中では、私の体調は大丈夫かとか、ダンスはどのくらい踊れるかとかそんな話をした。素敵な微笑みを浮かべながらイケメンに話しかけられるものだから、勘違いしないようにと、心を冷静に保ちながら会話していると、移動時間は一瞬に過ぎ去った。お城の中を三人で歩き、練習場まで辿り着くと、ダニエル様は仕事があるからと去っていった。
セントフォード家のホールも広いが、それよりも広くて立派な練習場だった。というか、本当に練習場だろうか?お城の中のものはスケールが大きすぎて圧倒される。
王室のダンスの先生はそれはもう上品な出で立ちだった。この髪型はなんというのか、音楽室に飾ってあった絵にそっくりだ。
「まずは1曲踊ってみますか」
どのくらいできるか確認して、はやめに終わらせたいのかな。上手に踊れたらもう練習しなくていいですってなるかしら。
「お願いします」
先生がピアノを弾いてくれて、二人で、向き合い挨拶をするところから始める。
踊り始めて暫くしても、ハロルド殿下は黙ったままだった。練習したかいもあり、きちんと踊れていると思うんだけど、殿下は何を考えているだろうか。
あ、そうか。
“なし”だと思った相手だけど、家柄的に無下にはできない。前の私だったら逃げ出したり、きちんと踊らなかったりするだろう。もしかして、断る理由を探しているのかも。皆の前で失態を起こせば、王子には相応しくないと周りが言ってくれるかも。
「ハロルド殿下。私、本番ではどうしたらよいのでしょうか」
「上手に踊れてますよ」
「…失敗したり、曲の途中で帰ったりとか、した方が良いでしょうか?」
「ふふ…何故そんな必要があるんですか?」
「その方が殿下としては今後がやり易い等ありましたら、何なりとお申し付けください」
「夜会でも一緒にダンスを踊って下さると嬉しいです」
「それでは殿下に恥をかかせないように、努めます」
「そんなに気負わずとも大丈夫ですよ、はじめてでこんなに息がピッタリなんですから」
確かにハロルド殿下とは踊りやすかった。殿下がお上手だから、私に合わせてくれているのもあるだろう。それに身長差が丁度いいくらいだった。お父様と踊ったときは身長差を埋めるために高いヒールを履いていたのと、それでも差があったから踊りづらかったのかも。ハロルド殿下との身長差はヒールを履いて10㎝くらいだろうか。踊りながらお顔を見ると少し上目遣いになる。
ハロルド殿下は微笑んでいた。
何を考えているのかわからない。ポーカーフェイスだな。いつもニコニコしている。だからこれは別に私に向けられた笑みではなく、殿下の通常の顔なのだと自分に言い聞かせる。
時折、先生からのアドバイスを貰いながら、何曲か踊った。
先生からは流石セントフォード公爵家ですね、と褒められて、誇らしかった。私が頑張ることでお家が褒められるのは嬉しい。
「イザベラ様は教えることがないくらいお上手です。ハロルド殿下とも息があっていて夜会が楽しみですね」
「殿下が合わせて下さるので、なんとか踊れています」
「では来週も練習しましょうね」
うーん、また言葉選びを失敗したかしら。謙遜せずに高慢な令嬢を演じている方が良いのかな。でもそれだとセントフォード公爵家の名前に傷がつくかもしれないし、もうどうしたらいいのかわからない。
「殿下はお忙しいのではないですか? 私ひとりでもきちんと練習してきますわ」
「二人で練習したいのです」
嫌ですか?と可愛い顔で聞かれたら、「滅相もございません光栄です」と返すしかない。殿下の真意が掴めたような気がしたのに、また雲のように消えてしまった。早急に練習を済ませて終らせたいのかと思えば、次も練習するという。失敗して欲しいのかと思えば、本番も踊って欲しいという。
何か認識の相違があるのかしら。もしくは、私が言葉の裏を読めていないだけ?
先生にお礼を言って、また来週もお願いしますと不本意ながら伝え、部屋を出ようとすると、ドアノブに手をかけた殿下がくるりと私を振り返った。ピアノの楽譜を片付けている先生には聞こえないような小声で、こっそりと殿下が言った。
「本当はイザベラ様とお話しする機会が欲しかったんです。だからダンスは名目です」
えーっと?なんと返したらいいか分からず微笑んで流した。
もう少し見極めてからじゃないと本当のことは言えませんと、そう言うことかしら。また私が急ぎすぎたようだ。
部屋を出るとダニエル様が待っていた。予定通りの時間に終わったようだ。1時間ちょっとだろうか。疑問は残るけど無事に1回目を終えてよかった。2回目があるのが憂鬱だけど、このくらいの時間しなら何とかなりそうだ。
帰りの馬車では、またハロルド殿下とダニエル様と三人で夜会に準備する料理やお菓子、飾り付けのことなどを話した。といってもダニエル様はあまり口を開かないので、行きと同じくほとんど二人で話をしていた。時折相槌を打ってくれるだけでも居てくれて助かった。行きはダンスのことが心配過ぎて気付いてなかったけど、広くない密室に二人は流石に緊張する。帰り際の意味深な言葉も気になる。
シャーロットが最近お気に入りだという流行りのお菓子と、甘いのが苦手なルージュが好きだというお菓子を勧めてみた。