表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

5.捕らわれる少女、その過去――。







 村の入り口にある広場には、十余体のオークが群れを成していた。

 そして先頭に立つ奴の手には、意識を失ったエルフの女性がぶら下がっている。他の村人たちはみな、家の中や物陰に隠れて怯えていた。

 俺はそこに滑り込むような勢いで辿り着き、正面からオークたちに相対する。


「――待て! その人のことを放せ!」


 アディアを引き抜き、構えて叫んだ。

 そうするとオークたちはようやく俺の存在に気付いたのか、視線をこちらに投げてくる。巨体の魔族に一斉に目を向けられるのは慣れていないが、そこはぐっと堪えた。ここで自分が怖気づいたら被害はさらに広まってしまう。


 だが、すぐにあることに気付いた。

 おかしい。オークたちは基本、短絡的だ。

 先日のミレイナ救出時のように、挑発すれば簡単に釣れる。だから、こうやって剣をちらつかせ、声を上げればすべてとは言わずとも、数体は襲いかかってきてもおかしくはなかった。――やっぱり、おかしい。


「どうした! どいつも腰抜けなのか!!」


 改めてオークたちを煽ってみる。

 しかし、そいつらは不気味な笑みを浮かべて立っているだけ。

 決して隊列を乱さず、女性からも意識を離さず、ただただじっとしていた。


「……統率が取れている?」


 そこで俺は気付く。先ほどから覚える違和感の正体に。

 それは知能の低いオークが、まるで人間の軍隊のように行動していることだった。そうなってくると、話が大きく変わってくる。それぞれに隙だらけな動きをするなら、容易な話だった。しかし、指示を出している者がいるとなると、人質となった女性に注意を払わなければならない。


 安易に手を出せば、最悪の事態に陥ってしまう。

 俺は一度、深呼吸をした。


「がっははははははっ! お前が元四天王のレクロムか!」

「――誰だっ!?」


 その時だった。

 村全体に轟くような哄笑があったのは。

 俺の名を呼んだその声の主は、地響きを起こしながら現われた。

 他のオークの大きさが三メイル弱だとするなら、そいつはおおよそ五メイル程だっただろう。明らかに纏う覇気の異なる怪物だった。頭には金の冠を被り、牙は口の中に収まっていない。そして、手には大剣を持っていた。


「俺様の名は、ゴルザーク。オークの王だ!」


 俺の問いかけに、その巨大な魔族は名乗りを上げる。

 オークの王――ゴルザークは俺をマジマジと見つめて、一つ鼻を鳴らした。


「へっ……。人型の元四天王と聞いたから、いったいどんな豪傑かと思えば――単なるヒョロッとした優男じゃねぇか。とんだお笑い種だなぁ!!」


 次いで、俺に対する挑発を行う。

 それだけで分かる。このオークはその身体つきだけではなく、人間と同程度の思考をする敵だった。他のオークの下卑た笑いを聞きながら、気を引き締める。

 すると面白くなさそうに、ゴルザークはこちらを見下ろした。


「けっ、詰まらねぇな。簡単に挑発には乗らねぇか――おい!」


 黙ったままでいると、彼は女性を拘束するオークになにか指示を出す。

 それを受けた奴はおもむろに刃物を取り出し、


「お、おい! やめろ!!」


 もう一方の手に掴んだ女性にあてがった。

 そこまでされると、さすがの俺も叫んでしまう。頬に冷や汗が伝い、呼吸が少しずつ荒くなっていった。固い唾を呑み込み――再び沈黙が訪れる。

 ジリ、ジリと肌がひりつくような緊張感。

 それが永遠に続くように思われた時だった――。


「――その女性のことを解放してあげてください!」


 そんな、少女の声が聞こえたのは。

 振り返るとそこにいたのは、よく知った少女だった。


「ミレイナ!? 来るなって言っただろ!!」


 少女――ミレイナは、凛とした表情を浮かべている。

 そこにあるのは、覚悟か。いいや、もしかしたらもっと別の感情か。

 どちらにせよ、今この場で彼女が声を上げるのは不味かった。下手に刺激をしては、人質がどうなるか分からない。

 だが、少女はこちらの制止も聞かずに近付いてきた。


「なにをやってるんだ、ミレイナ! すぐに隠れるんだ!!」

「すみません、レクロムさん。それでも、わたしは――」


 俺の言葉に、微笑んで答えるミレイナ。

 そんな彼女は次に、ゴルザークのことを睨み上げる。そして、


「――その人の代わりに、わたしを連れていきなさい!」

「ミレイ、ナ……?」


 そう言った。

 それは、あまりに予想外のこと。

 俺は思わず呆けてしまい、声を失ってしまった。


「ほほう? なるほど、な……」


 ゴルザークは少女のことを見て、ニタリと気色の悪い笑みを浮かべる。

 そして一つ、大きく頷いてからこう答えた。


「面白い! それなら、お前と交換だ!」


 瞬間――オークたちが、前に歩いて行った少女を拘束する。

 女性は解放され、俺の方へと投げられた。とっさにそれを抱きとめると、その隙にゴルザークたちは踵を返す。その背中に、俺は叫んだ。


「待て! ミレイナを返せっ!!」


 すると他のオークを先に行かせ、ゴルザークだけが振り返る。

 そして、奴はこちらにこう言うのだ。


「返してほしければ、俺様のところにくるんだな! 元四天王サマよ!」――と。


 そして、彼らは去って行った。

 俺は何も出来ず、ただただその後ろ姿を見送る。


 残されたのは沈黙。

 そして、激しい苛立ちだった。



◆◇◆



 女性を休ませると、俺は長老に呼び出された。

 その家を訪れるとそこには、難しい顔をしたリガドの姿。

 彼は椅子に腰かけながらこちらを認めると、こう話し始めた。


「ミレイナの、母親の時と同じじゃな……」――と。





 それは、ミレイナの過去について。

 俺の知らない、少女の辛い生い立ちについてだった――。



 


もしよろしければ、ブクマ。

面白ければ評価等、よろしくお願い致します!!


応援お願い致します!!


<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ