5.捕らわれる少女、その過去――。
村の入り口にある広場には、十余体のオークが群れを成していた。
そして先頭に立つ奴の手には、意識を失ったエルフの女性がぶら下がっている。他の村人たちはみな、家の中や物陰に隠れて怯えていた。
俺はそこに滑り込むような勢いで辿り着き、正面からオークたちに相対する。
「――待て! その人のことを放せ!」
アディアを引き抜き、構えて叫んだ。
そうするとオークたちはようやく俺の存在に気付いたのか、視線をこちらに投げてくる。巨体の魔族に一斉に目を向けられるのは慣れていないが、そこはぐっと堪えた。ここで自分が怖気づいたら被害はさらに広まってしまう。
だが、すぐにあることに気付いた。
おかしい。オークたちは基本、短絡的だ。
先日のミレイナ救出時のように、挑発すれば簡単に釣れる。だから、こうやって剣をちらつかせ、声を上げればすべてとは言わずとも、数体は襲いかかってきてもおかしくはなかった。――やっぱり、おかしい。
「どうした! どいつも腰抜けなのか!!」
改めてオークたちを煽ってみる。
しかし、そいつらは不気味な笑みを浮かべて立っているだけ。
決して隊列を乱さず、女性からも意識を離さず、ただただじっとしていた。
「……統率が取れている?」
そこで俺は気付く。先ほどから覚える違和感の正体に。
それは知能の低いオークが、まるで人間の軍隊のように行動していることだった。そうなってくると、話が大きく変わってくる。それぞれに隙だらけな動きをするなら、容易な話だった。しかし、指示を出している者がいるとなると、人質となった女性に注意を払わなければならない。
安易に手を出せば、最悪の事態に陥ってしまう。
俺は一度、深呼吸をした。
「がっははははははっ! お前が元四天王のレクロムか!」
「――誰だっ!?」
その時だった。
村全体に轟くような哄笑があったのは。
俺の名を呼んだその声の主は、地響きを起こしながら現われた。
他のオークの大きさが三メイル弱だとするなら、そいつはおおよそ五メイル程だっただろう。明らかに纏う覇気の異なる怪物だった。頭には金の冠を被り、牙は口の中に収まっていない。そして、手には大剣を持っていた。
「俺様の名は、ゴルザーク。オークの王だ!」
俺の問いかけに、その巨大な魔族は名乗りを上げる。
オークの王――ゴルザークは俺をマジマジと見つめて、一つ鼻を鳴らした。
「へっ……。人型の元四天王と聞いたから、いったいどんな豪傑かと思えば――単なるヒョロッとした優男じゃねぇか。とんだお笑い種だなぁ!!」
次いで、俺に対する挑発を行う。
それだけで分かる。このオークはその身体つきだけではなく、人間と同程度の思考をする敵だった。他のオークの下卑た笑いを聞きながら、気を引き締める。
すると面白くなさそうに、ゴルザークはこちらを見下ろした。
「けっ、詰まらねぇな。簡単に挑発には乗らねぇか――おい!」
黙ったままでいると、彼は女性を拘束するオークになにか指示を出す。
それを受けた奴はおもむろに刃物を取り出し、
「お、おい! やめろ!!」
もう一方の手に掴んだ女性にあてがった。
そこまでされると、さすがの俺も叫んでしまう。頬に冷や汗が伝い、呼吸が少しずつ荒くなっていった。固い唾を呑み込み――再び沈黙が訪れる。
ジリ、ジリと肌がひりつくような緊張感。
それが永遠に続くように思われた時だった――。
「――その女性のことを解放してあげてください!」
そんな、少女の声が聞こえたのは。
振り返るとそこにいたのは、よく知った少女だった。
「ミレイナ!? 来るなって言っただろ!!」
少女――ミレイナは、凛とした表情を浮かべている。
そこにあるのは、覚悟か。いいや、もしかしたらもっと別の感情か。
どちらにせよ、今この場で彼女が声を上げるのは不味かった。下手に刺激をしては、人質がどうなるか分からない。
だが、少女はこちらの制止も聞かずに近付いてきた。
「なにをやってるんだ、ミレイナ! すぐに隠れるんだ!!」
「すみません、レクロムさん。それでも、わたしは――」
俺の言葉に、微笑んで答えるミレイナ。
そんな彼女は次に、ゴルザークのことを睨み上げる。そして、
「――その人の代わりに、わたしを連れていきなさい!」
「ミレイ、ナ……?」
そう言った。
それは、あまりに予想外のこと。
俺は思わず呆けてしまい、声を失ってしまった。
「ほほう? なるほど、な……」
ゴルザークは少女のことを見て、ニタリと気色の悪い笑みを浮かべる。
そして一つ、大きく頷いてからこう答えた。
「面白い! それなら、お前と交換だ!」
瞬間――オークたちが、前に歩いて行った少女を拘束する。
女性は解放され、俺の方へと投げられた。とっさにそれを抱きとめると、その隙にゴルザークたちは踵を返す。その背中に、俺は叫んだ。
「待て! ミレイナを返せっ!!」
すると他のオークを先に行かせ、ゴルザークだけが振り返る。
そして、奴はこちらにこう言うのだ。
「返してほしければ、俺様のところにくるんだな! 元四天王サマよ!」――と。
そして、彼らは去って行った。
俺は何も出来ず、ただただその後ろ姿を見送る。
残されたのは沈黙。
そして、激しい苛立ちだった。
◆◇◆
女性を休ませると、俺は長老に呼び出された。
その家を訪れるとそこには、難しい顔をしたリガドの姿。
彼は椅子に腰かけながらこちらを認めると、こう話し始めた。
「ミレイナの、母親の時と同じじゃな……」――と。
それは、ミレイナの過去について。
俺の知らない、少女の辛い生い立ちについてだった――。
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