2.エルフの村での出来事
――エリフィナは地図にも載らない、森の奥深くにあった。
湖があり、そこに板を浮かべて橋としている。それを渡るといよいよ目的地が見えてきた。すべてが木造建築。樹の上に造られている家もあり、自然と共に生きている。そう思わせる場所だった。
俺はその独特の雰囲気に圧倒され、思わず息を呑む。
「凄いな。空気も澄んでいて綺麗だ……」
「えへへ。この村の唯一といっても良い自慢ですよっ!」
そして感嘆の声を上げる。
すると、隣で案内をしてくれていたミレイナが笑った。
だいぶ緊張も解れてきたのか、無邪気な笑みを見せてくれる。
「こっちです。長老の家に案内しますね!」
「あぁ、頼むよ」
パタパタと駆けていく少女。
その後ろをゆっくり歩きながら、俺はあることを考えていた。
先ほどのオークたちはおそらく魔王軍の魔族だ。だとすると、この近くには魔王軍の支部があるはず。それこそ、この村のすぐそばに――。
「ミレイナ、何ということをしてくれたのだ!!」
「ん……?」
――そこまで考えた時だった。
ミレイナの駆けて行った先から、彼女を叱るような声がしたのは。
見れば、村の奥には人だかりが出来ていた。背伸びをして覗き込むと、一人の初老の男性エルフが少女の前で腕組みしながら憤慨している。
周囲の人々は皆、口々になにか言っていた。
俺はそれにそっと聞き耳を立てる。すると聞こえてきたのは――。
「村に魔族を入れるなんて」
「空気が穢れてしまう……」
「森の神の怒りを買うぞ」
――そんな、俺を連れ込んだことに対するモノであった。
そして、改めてミレイナの方へと目を向ける。すると少女は今にも泣き出しそうな表情になり、小さな身体をさらに小さくしていた。
見ていられず、俺は手を挙げて大声を出す。
「すまない! 通してくれないか!!」
すると、衆目がすべてこちらへと集まった。
ザッと十数人に見られるのは、なかなかに気圧される。
だがしかし、俺はぐっとこらえて開かれた道を進むのであった。
「お前か、ミレイナが連れ込んだ魔族というのは」
「レクロムさん、すみません……」
男性エルフは難しい顔をしながら、俺のことを値踏みするように見てくる。
そして一つ、忌々しげに舌を打った。ミレイナに至っては、どこか申し訳なさそうに頭を垂れてしまっている。俺はそれを見ていられずに、男性に話しかけた。
「初めまして。俺はレクロムと言いま――」
「――名前など聞いていない。悪いが、出て行ってくれ」
しかし、会話に持ち込むより先に門前払いされてしまう。
俺は少し呆気に取られた。だが、それでも何とか取り合ってもらおうと考える。すると、その時に声を発したのは――。
「もし、そこのエルフの殿方。お話させていただいても?」
「なに……?」
――ここまで、不自然に沈黙を続けていたアディアだった。
聖剣から聞こえた声に、男性は眉をひそめる。その一瞬の間を逃さずに、アディアは立て続けにこう名乗るのであった。
「私の名はアディア――神によって創造されし、聖剣です」
聖剣が名乗りを上げると、周囲はどよめく。
それは俺も同じく。コイツの存在がどうして、ここまで驚きを持って迎えられているのか。その理由が分からなかった。しかし、確実に空気は変わった。
俺はここぞとばかりに、男性へ再び話しかける。
「すみません。少しだけ、お話よろしいでしょうか」
「……………………」
男性は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
その時だ。
「ほっほっほ。そこまでにしておけ、マクルスよ。聖剣を携えし者が現れた以上、その者が魔族であろうと無碍には扱えぬ。お通しせよ」
「…………分かり、ました。長老様」
奥にある家の中から声がして、マクルスと呼ばれた男性がうつむいたのは。
俺は唖然とするが、先ほどまでこちらを邪険に扱っていた彼に、家の中に入るように促される。どうやら、この中にいる人物がこの村の長らしい。
ミレイナに一緒に来るよう手招きし、中へと足を踏み入れた。
「ほっほ。魔族の若者よ――先ほどは村の者が失礼したな」
すると、入ってすぐの部屋。
その暖炉の前にある椅子に腰かけていたのは、一人の老エルフだった。
長い髭と眉。それらは各々に口と目を隠しており、表情はうかがい知れなかった。だがこちらを歓迎している様子は、その所作から感じ取れる。
そして何よりも、次に飛び出したこんな言葉だった。
「いや、魔族の若者、などと呼ぶのは失礼というものか」
老エルフは重い腰を上げ、恭しく礼をしてこう言った。
「儂はこの村の長老を務めております、リガド・エヴィアンと申します」
静かな、口調で。
「お待ちしておりました。勇者様」――と。
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