プロローグ 四天王最弱の俺、勇者になる
「レクロム、お前は明日から来なくていいよ」
「え……? どういうことだよ!?」
俺――レクロムは、自分にそう言い渡した角のある魔族に目を向けた。
するとその魔族ではない、もう一人の魔族――こちらは三つ目のそれだ――が静かな口調でこう答える。
「お前は、我ら魔王軍四天王の中で最弱だ。平凡な人型であり、能力値も平凡――強いて言えば事務処理能力だけは、我々よりも優れていたかもしれんがな」
「はははっ! よわっちい魔族なんて、お笑い種だよねっ!」
言葉を引き継いで、漆黒の翼を持つ女魔族が笑った。
彼らは俺と同じ魔王軍に属する魔族――その中でも四天王と呼ばれる存在。今まで仲間だと思っていた、そんな奴らだった。
しかしこの度、俺がそいつらから受けたのは戦力外通告。
必死に努力して魔王様に認められて、やっとの思いで四天王にまで上り詰めたのに。そんなことお構いなしに、彼らは無慈悲にそう言ってきたのだ。
「で、でも……! 俺がいなくなった後は、どうするんだ!?」
すがり付くように、俺はそう叫ぶ。
そうだった。俺がいなくなれば、今までやってきたこと――雑用や事務仕事ばかりだが――をする者がいなくなる。それに、魔王様だって認めないはず……。
そう思っていたが、次に出たのはこんな言葉だった。
「お前の代わりなんて、どこにでもいる。魔王様も納得されるだろう……」
「そ、そんな……っ!」
俺の言葉など、もはや届かない。
そう思わせる響きだった。そうとなれば、もう――。
「――――くっ!?」
お終いだ。俺は彼らに背を向けた。
こんな場所には、いつまでもいられない。何よりも自分がみじめで仕方がなかった。今までの努力の果てに待っていたのが、こんな裏切りに等しいモノだったなんて。不満と悔しさで、どうにかなりそうだった……。
「あははっ! 見てよ、あのしょぼくれた背中!」
「ふん。でもよ、当然の結果だよな!」
「奴は、四天王の面汚し……」
そんな俺の耳に届いたのは、そんな言葉の数々。
しかし、振り返ることはしなかった。いいや、振り返られなかった。
頬を涙が伝う。
そんな顔を見られたら、それこそ悔しくて仕方なかったから――。
◆◇◆
――それから、どれだけの距離を歩いただろうか。
気付けば、俺は魔王城から遥か遠くの森までやってきていた。
ここはどこなのだろうか。世界の最北に位置するのが魔王城だとするなら、太陽の位置から考えるに相当南にやってきたことになりそうだった。
「まぁ、いいか。どこか、人間の村にでも紛れ込んで――」
静かに暮らそう。
そう思っていた時だった。
「――ん? なんだ、あの人だかりは」
木漏れ日に照らされる森の中。
そこに、人間の一団が何かを取り囲んでいた。
老若男女様々な顔ぶれであり、みな順番に何かの儀式を行っている様子。興味を惹かれた俺は、その一団のうち、一番近くにいた少女に声をかけた。
「なぁ、これはいったい何をやってるんだ?」
「んー? 勇者様を探してるの!」
「……勇者、だって?」
すると、栗色の髪をした少女はそう答える。
どういうことなのだろうか。意味は分からないが、ある一つの言葉に引っ掛かりを覚えた。それは言うまでもなく『勇者』というそれだ。
それは、伝説に語られる存在。
悪を滅ぼし、世界に平和をもたらすと云われる存在だった。
混沌を望む俺たち魔王軍とは真逆の、正反対のモノであると、そう考えて間違いないだろう。しかし、それを探すとはどういうことなのか。
俺は首を傾げるのであった。
「いや、まぁ。俺にはもう、関係ないんだけどな……」
だが、そこまで考えて思い出す。
そうだ。俺はもう、魔王軍とは縁を切ったのだった。
ともすればここで時間を食うよりは、さっさとどこかの集落を――。
「お兄ちゃんも、やってみれば~?」
「え、なにを言ってるんだ」
「パパ! このお兄ちゃんも!」
「お、おい! なにを勝手に!?」
――探そうと、そう思った時だった。
先ほど声をかけた少女が、明るい口調でそう叫んだのは。
すると人の波が左右に分かれて、道が出来上がった。その先にあったのは、台座に突き刺さった一本の剣。その隣には、少女の父らしき男性の姿。
「そこの若者よ。この聖剣アディアを手にする覚悟はあるか?」
彼はこちらを見て、そう言うのだった。
すると、周囲の視線が俺へと向かって伸びてくる。
なにやら期待をするようなそれらに、俺は首を左右に振れなかった。
「さぁ、こちらへ……」
その無言を肯定と受け取ったのか、男性は俺を聖剣のもとへ誘う。すると自然に俺の足はそちらへと向かっていた。――変なことに巻き込まれた。そんな気持ちで。
こんなわけの分からないこと、さっさと終わらせてしまおう。
俺は深くため息をついて、剣の柄に触れた。
その直後だった――。
「――――え?」
周囲が、眩い光に包まれたのは。
思わずそれに目を瞑り、しかし手は放さなかった。
そして光が収まった時に聞こえてきたのは、こんな声――。
「――――マスター承認。聖剣アディア、起動します」
機械的な、感情のこもらないそれ。
しかし周囲の人の反応が、その違和感を打ち消した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
拍手喝采が巻き起こる。
俺は呆然と、手に持った剣を見つめる。
「なにが、起きたんだ……?」
この時まだ、理解していなかった。
この瞬間から、俺の虐げられてきた生涯が一変することを。
運命の歯車が、突然に回り始めたことを――。
初めましての方は初めまして。
鮮波永遠と申します。
新作始めました。
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