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ファンタジー世界でよくある、冒険者が世界を救う物語  作者: 坂巻大樹
ガーネットの章 血の覚醒と巻き込まれる者たち
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18 第16話 猿芝居の舞台の上で

本日2話目の投稿となります。ご注意ください。

本話は、第13話の続きとなります。



◇◇◇◇◇◇



 場面は変わり、クリードとフェリアとジェイドと宿の主人の、猿芝居も進行する。


「質問を変えよう。ここに居る女性は、本当は、ソルという名の者か?」


「……いいえ、ソルはハーフエルフの娘ですから、違いますよ」


 あっさりと、宿の主人は暴露する。


 これがもっと、整っている組織であれば、こうはならなかっただろう。


 権力と対抗できるほどの組織でないと、結局はこうなってしまう。


 クリードは、先ほどのダメージから回復しきれず、ただただ青い顔をして、この場を操作できずにいる。


 フェリアは、このような事態にめっぽう弱い。


 つまり、何もできない。


 トルカは、もう自分自身の役目が終わったのだろう。


 ジェイドの横に何も考えていないような表情で突っ立っている。


 ジェイドは、さらにこの先の言葉を促した。


「なら、主人、この二人の名は何と言う?わしは、そなたに依頼の斡旋をお願いしたのだ。依頼主には、仕事を受けた者の情報を伝えるのは、正しい行いではないかね?」


「ですから、私どもは、ジェイド殿の依頼を受けた冒険者などではなくですね……」


「なら、質問を変えよう。主人、今日、この宿に泊っているのは如何ほどか?」


「はずかしながら、5名でございます」


 は?


 今、この主人は何と言ったのか?


 つまり、ヴィンテファーラント|(と、ガーネット)以外の者はこの宿には誰一人として泊っていない、


 つまりはそういうことだ。


 言い逃れはできないのだ。


 いや、まだだ。


 クリードは、二人は先に立ち去ったと伝えている。


 この宿に泊っていないという言い逃れ方はあるはずだった。


「さらに、質問させてもらおう。主人、今日、この酒場、営業しているのか?」


 ジェイドは、愉しんでいる。


 最大限、愉しんでいる。


 その分、時間が生まれているはずなのに、彼らは打開できない。


「これまた恥ずかしいことなのですが、仕入れに失敗してしまって、今日は営業していないのですよ」


 主人がどんどん決定的となることを重ねる。


「なら、どうしてこの二人はここに居るんだろうね」


「宿に宿泊している客には出さなくてはならないですから」


「ククク、まあ、そういうことだよ、お二人さん。では、確認だ。主人、この二人の名は?」


「……思い出しました、クリードとフェリアです」


 状況を作り、罠にはめる。


 ヴィンテファーラントは見事に罠に嵌ったのだ。


「もう、いいのではないですかな?アリステリア殿に、グレムヴァルト殿……いや、そうではなかったですかね……」


「それ以上は言わないで頂きたい、そこの商人」


 クリードの表情が急変した。


 そもそも、ジェイドは、主人の伝えた、クリードとフェリアというファーストネームではなく、アリステリアとグレムヴァルトというファミリーネームで呼んだ。つまり、調べを付けてきているということ。


 そして、クリードには、触れられてはならない一線がある。


 ジェイドの表情がより愉悦に歪む。


「わしは依頼人なのだがね。あなたは今でも……」


「だから、そのことには触れるなと言ってるんだ。こちらは」


 いつでも、丁寧口調を崩さなかったクリードが、なりふりを構わなくなっている。


 フェリアは、ただ、びっくりしてその場に座っているだけだった。置物となっている。


「なら、そのことは、後に回すとしよう。これでも心は広い方なのでな。ならば、まずは依頼の話の確認と行こうじゃないか。依頼の内容はおそらく君達に伝わっているものとたがいはないはずだ。我々の商隊の護衛としてカレジスタットまで同行頂く。食事はこちらが保障しよう。報酬は、食事用の保障とは別に1人2000Gだな。で、カレジスタットまで無事たどり着けた後は、解散。と、本来は、こう提案していたのだが……」


 フェリアがその言葉尻をとらえ確認を願った。


 クリードは、当分の間、参謀としてのその役割をまともに果たせそうにないのだ。


 残るは、フェリアのみ。


「どういうことです?本来はそうだったとは……もしかして、私たちを?」


「何もできない賢明なお嬢さん、我々はまだ、何も、君たちを取って食おうとまでは言っておりませんぞ。まずは、穏便に、少しお話させて頂きたいと、そう考えているのだよ」


「どんな話なのよ……どうせいい話なんかじゃないでしょうに。そんな話は聞きたくないわ。出来れば、今回の依頼の話をなかったことにしていただければ、こちらとしては恩の字なのですが」


 まったくもって無理な要求である。


「そのような勝手なことを申されても、困る。我々の立場を考えてもらいたい。目の前には、莫大な益をもたらす存在がある。ここまで、手が届く距離にあってでですぞ?商人として、この機をとらえれれないなら失格というものだ……まあ、それに代わるようなほどの何かを用意してもらえるのであれば、話は別だがな」


 フェリアには、目の前の男が何を要求してくるのか想像がつかなかった。


 確かに、クリードが何やらやんごとなき何かでありそうなことぐらいは分かっていた。


 しかし、仲間であり、冒険者である以上、必要のない過去を詮索するのはマナー違反だと、フェリアは、これまでクリードに何も聞いてこなかったのだ。


 おそらくは、目の前の男は、それに関する何かを要求するのだろう。


 クリードそのもの?


 クリードの存在?


 クリードが持つ何か?


「そもそも、カイルが受けたのは、カレジスタットまでの商隊の護衛よ。ならば、違約金として、一人当たり2000Gで、8000Gも払えば、それでよくはないのかしら?」


「お嬢さん、何を寝ぼけたことを言っているのだ?我々の目的はそんなものではないと説明しただろう。っと、……おやおや、こんなことで引っ掛かるとは、抜けてますな。『カイル』とは何者だ?」


 結局、フェリアはぼろを出してしまった。


 確かに、フェリアのファミリーネームを出して、分かってますよオーラを最大限に出してはいた。そして、宿の主人にフェリアとクリードの名前を暴露された。それでもだ。まだ、この場で名前の出ていなかったカイルという名を出してしまった。検算まで出来てしまった。


「カイルは……」


「思い出したぞ。ヴィンテファーラントという冒険者パーティーのパーティーリーダーがカイル=ストームレインと言ったな。つまり、君たち2人は、ヴィンテファーラントのクリードとフェリアで、間違いがないということだ」


「……」


 フェリアは口を出せなくなった。


 クリードが後を継ぐ。


「ともかく、手は引けないと言いたいのですか?」


「勿論だよ。当たり前ではないか。長年探し続けたものがやっと手に入るのだ。代わりはない」


 クリードも観念したようで、会話の方向性を変えることにしたようだ。穏便には逃げられないと悟ったからだろう。


「もういいでしょう。あなたは商人などではない。正体は何ですジェイド殿?どこの貴族ですか?」


 追いつめていると確信している彼は、隠す必要もないのか、簡単に口を割る。


「クリード殿、わしはカレジスタットの商人だよ。……まかり間違っても、バーガンディー伯などとは呼ばれておりませんな。ジェイドという名の商人だよ。貴様が、クリード=グレムヴァルトという精霊使いの戦士であることと同じようにな」


「カレジスタットのバーガンディー伯……ですか?フェリア、聞いたことはありますか?」


 フェリアは、カレジスタット出身である。


「私はあまり貴族社会のことは詳しくはないのだけど、古くからの血筋ではなかったと記憶しているわ。確か、最近になって興された家ではない?……にしては、伯だと、叙勲と言うよりは、別の政治的な何かがあったはずね」


 とは言え、確かにフェリアは聞いたことがなかっただろう。


 とある理由により、湧いて出た名前なのだ。


「そう、私は一介の戦士だが、あなたは伯爵だ。だが、身分の差で持って、あなたに何かを献上させようとするのは、しかるべき場所でしかるべき手順を踏んで、やってもらいたい。お門違いだ」


「このお方は何を申すのか……そもそも、我々はまだあなたに何を所望するかを離してはおらぬよな。それでいて、あなたは頑固に拒否される。我々よりもあなたの方がよっぽど我々は欲しているものが何か心当たりがあるようだ」


「私自身のことですから、当りは付けていますが?」


 ジェイドと言う名の商人然とした男……バーガンディー伯は、さらにギアを1段上げるようだ。


「それでは、我々が欲しているものを当ててもらおう。建設的な話し合いにすべきではないかね?王子(・・)


 クリードも、さらにギアを1段上げなくてはならなくなったようだ。とは言え、まだトップではない。


「あなたはどこまで知っておられるのです?バーガンディー伯、どうしてあなたは私に対して『王子』という言葉を使用したのですか?……あなたは私たちのことをどこまで知っているんだ?」


 ジェイドと言う名の商人然とした男、バーガンディー伯の独り舞台が開幕する。




ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


次話投稿は、8/7(月)の夜を予定しています。

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