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ファンタジー世界でよくある、冒険者が世界を救う物語  作者: 坂巻大樹
ガーネットの章 血の覚醒と巻き込まれる者たち
18/118

17 第15話 叶わない予定 狂気の足音

冒頭は、第14話からの続きですが、

後半は、第12話から接続するガーネット編となります。ご注意ください。


展開の都合上、短くなっております。



――それが、最大のミスとは気付かない。


「仕方ないね、緊急手段と行っちゃおー」


「どうすればいいんだ?」


「カイル、君はガーネットの部屋に隠れてちょ―だい」


 逃げられないのなら、やり過ごすことのできる可能性を考える。


「それこそ、逃げなくていいのか?こうして荷物もまとめただろう」


「最初に言ったよね、私、数が多い(・・・・)って」


「そんなに、なのか」


「最初から、君に依頼の話を振ってきた段階で、宿の主人を今回の一味はグルよ。もしかしたら、主人は脅されているだけかもしれないけど、そんなことはどうでもいいわ。つまりは、もう、裏口とかも抑えられてるんじゃないかってこと」


「それだけ、今回のは、大それていて、緻密よ」


「で、カイルは自分の荷物、……特に、その剣ね、(最後のキーアイテム)を持って、彼女の部屋に隠れるのよん」


「それで、いいのか?」


「彼女は、ハーフリングよ。もしかしたら、隠密の技能を持っていて、奇跡的にやり過ごすことができるかもしれない。ここに居ても確率はゼロ。なら、少しでも確率のある方に賭けるしかないのよん」


「さっさと行っちゃえ!私もできることをやるから、君も、できることをやろう?最後まで足掻こうよ」


「そうだな」


 叶わない、予定を決めよう。


「じゃあ、……どうこう言っても、奴らは、明朝がタイムリミット。なら、明日の夕方、ウィースランテに向かって出て」


「カレジスタットじゃないのか?」


「奴らは、カレジスタットに向かうのよ?なら、今は逆に向かわないと」


「確かにそうだな」


「4人、いや、5人は一緒じゃないかもしれない。でも、きっと、この件を乗り越えたら、きっとまたどこかで出会えるよ。迷わず、まっすぐ行くのよん」


「ああ、分かった」


「ソルも、出来る事が終わったら彼女の部屋に行くけど、駄目だったら、オストハーフのいつもの酒場で集合よん」


「おう」


「言いたいことはすべて言ったよ、さっさとガーネットの部屋に行っちゃえ☆」


「一つ、聞かせてくれ」


「なに?」


「また、4人そろって冒険できるかな?」


 ソルフェリノは顔を背ける。


「当然だよ。当然。当然に決まってるよ……」


 カイルは、自らの荷物を持ち、ソルフェリノのいる部屋を後にした。


 振り返ることなく。


 青白く輝く剣を持って。



◇◇◇◇◇◇



 思索の海に投げ出されていた私を、そのかすかな金属音が引き戻す。


 そう言えば、まだ夕食を取っていなかったなと、不意に気付く。


 まあ、いっかと、強引にその気付きを殺す。


 ただ、今は部屋に居たかった。


 居なければならない気がした。


 昼間、武器を買ってもらった後、物珍しさにいろいろと露店で買い食いをしていたのだ。


 いや、私自身はお金を払ってはいないのだが。


 カイルは、こんなに喰ったら夕食が入らないぞなんて笑っていた。


 なので、まだ夕食を取りに下に降りる必要はなかった。


 開け放たれた窓の外には夜のとばり


 何者かが息を殺し、潜んでいるような闇。


 瞬間、聞こえていた金属音は、すぐになくなっていた。


 窓の方向が湖向きのため、街道筋にあるはずの明かりは来ない。


 厚い雲に覆われ、月明かりすら届かない。


 殺風景な景色の脇には一輪差し。


 初夏に相応しい、柘榴の花が刺さっていた。


 もうすぐ開きそうでいて、まだ花開いてはいなかった。



******



 廊下を歩く音が聞こえてくる。


 僅かに聞こえ、すぐに止まる。


 私のいる部屋の前で。


 そのしじまに、私の中に、何かがやってきた。


 何がやってきたのかと言うと、




 ……狂気が、やってきた。




 何?


 何なの?


 何が来るの?


 何が起こるの?


 私が、起こすの?


 確かに、いる。


 この扉の向こうに、誰かがいる。


 私の部屋の前で止まった足音は、再び動いてはいない。


 怖い。


 何か、いけないことをした?


 恐怖やら、焦燥やらが、ガスバーナーでとろとろと炙られていく。


 息をして、その何者かに気付かれることすら怖くなった。


 そして、おかしくなった。


 いやだ!


 こんなの、いやだ!


 もう、どうにかしてよ!


 生きたい?もうそんなのどうでもいい。


 やだよ。もうころして?


 どうして、わたしをころしてくれないの?


 あなた、わたしをころしにきたんでしょ!!


 なのに、扉の向こうにはなにも反応はなかった。


 襲いかかるのでもなく、


 立ち去るのでもなく、


 声を出すのでもなく、


 ノックすらない。


(どうして?早く!早く私を殺して!)


 そう叫びたくなった瞬間、


 現実の針は動きだし、


 幻想たる狂気は私の下を去った。




 僅かにノックの音が聞こえた。


「誰!そこに居るの、誰?」


 のどがからからになっていて、叫んだつもりがかすれたわずかな声になり下がっていた。


「僕を、助けては、くれないか?」


 そのか細い声は、確かにカイルのそれだった。


「カイル……なの?」


「ああ、カイルだ」


 とても陽気な声とはいえないものだった。


「どうして、私に助けてと、懇願するの?」


「もう、ガーネットしかいないんだ。皆、それぞれに立ち向かってる。手が離せないんだ。だから君に、助けてと、言ってるんだ。頼む」


 カイルが私を頼る?


 何の冗談?


 彼らは、ヴィンテファーラント。


 私はただのハーフリング。


「私しかいないって……」


「逃げ場がないんだ。だから、匿ってほしい」


 何からの逃避?


 でも、逃げられない?


「駄目かもしれないよ」


 正直に言った。


「そんなこと分かってるんだ」


「なら、いいわ」


 そう言って、私はドアノブを回した。




ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


次回から、2話続けて、第13話からの接続となる、ジェイド編。

怒涛の説明回連打となります。

本話が短かったため、

第16話は、本日8/6(日)夜、いつもの時間かもう少し遅い時間に投稿します。

第17話は、8/7(月)の夜投稿予定です。

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