17 第15話 叶わない予定 狂気の足音
冒頭は、第14話からの続きですが、
後半は、第12話から接続するガーネット編となります。ご注意ください。
展開の都合上、短くなっております。
――それが、最大のミスとは気付かない。
「仕方ないね、緊急手段と行っちゃおー」
「どうすればいいんだ?」
「カイル、君はガーネットの部屋に隠れてちょ―だい」
逃げられないのなら、やり過ごすことのできる可能性を考える。
「それこそ、逃げなくていいのか?こうして荷物もまとめただろう」
「最初に言ったよね、私、数が多いって」
「そんなに、なのか」
「最初から、君に依頼の話を振ってきた段階で、宿の主人を今回の一味はグルよ。もしかしたら、主人は脅されているだけかもしれないけど、そんなことはどうでもいいわ。つまりは、もう、裏口とかも抑えられてるんじゃないかってこと」
「それだけ、今回のは、大それていて、緻密よ」
「で、カイルは自分の荷物、……特に、その剣ね、を持って、彼女の部屋に隠れるのよん」
「それで、いいのか?」
「彼女は、ハーフリングよ。もしかしたら、隠密の技能を持っていて、奇跡的にやり過ごすことができるかもしれない。ここに居ても確率はゼロ。なら、少しでも確率のある方に賭けるしかないのよん」
「さっさと行っちゃえ!私もできることをやるから、君も、できることをやろう?最後まで足掻こうよ」
「そうだな」
叶わない、予定を決めよう。
「じゃあ、……どうこう言っても、奴らは、明朝がタイムリミット。なら、明日の夕方、ウィースランテに向かって出て」
「カレジスタットじゃないのか?」
「奴らは、カレジスタットに向かうのよ?なら、今は逆に向かわないと」
「確かにそうだな」
「4人、いや、5人は一緒じゃないかもしれない。でも、きっと、この件を乗り越えたら、きっとまたどこかで出会えるよ。迷わず、まっすぐ行くのよん」
「ああ、分かった」
「ソルも、出来る事が終わったら彼女の部屋に行くけど、駄目だったら、オストハーフのいつもの酒場で集合よん」
「おう」
「言いたいことはすべて言ったよ、さっさとガーネットの部屋に行っちゃえ☆」
「一つ、聞かせてくれ」
「なに?」
「また、4人そろって冒険できるかな?」
ソルフェリノは顔を背ける。
「当然だよ。当然。当然に決まってるよ……」
カイルは、自らの荷物を持ち、ソルフェリノのいる部屋を後にした。
振り返ることなく。
青白く輝く剣を持って。
◇◇◇◇◇◇
思索の海に投げ出されていた私を、そのかすかな金属音が引き戻す。
そう言えば、まだ夕食を取っていなかったなと、不意に気付く。
まあ、いっかと、強引にその気付きを殺す。
ただ、今は部屋に居たかった。
居なければならない気がした。
昼間、武器を買ってもらった後、物珍しさにいろいろと露店で買い食いをしていたのだ。
いや、私自身はお金を払ってはいないのだが。
カイルは、こんなに喰ったら夕食が入らないぞなんて笑っていた。
なので、まだ夕食を取りに下に降りる必要はなかった。
開け放たれた窓の外には夜の帳。
何者かが息を殺し、潜んでいるような闇。
瞬間、聞こえていた金属音は、すぐになくなっていた。
窓の方向が湖向きのため、街道筋にあるはずの明かりは来ない。
厚い雲に覆われ、月明かりすら届かない。
殺風景な景色の脇には一輪差し。
初夏に相応しい、柘榴の花が刺さっていた。
もうすぐ開きそうでいて、まだ花開いてはいなかった。
******
廊下を歩く音が聞こえてくる。
僅かに聞こえ、すぐに止まる。
私のいる部屋の前で。
そのしじまに、私の中に、何かがやってきた。
何がやってきたのかと言うと、
……狂気が、やってきた。
何?
何なの?
何が来るの?
何が起こるの?
私が、起こすの?
確かに、いる。
この扉の向こうに、誰かがいる。
私の部屋の前で止まった足音は、再び動いてはいない。
怖い。
何か、いけないことをした?
恐怖やら、焦燥やらが、ガスバーナーでとろとろと炙られていく。
息をして、その何者かに気付かれることすら怖くなった。
そして、おかしくなった。
いやだ!
こんなの、いやだ!
もう、どうにかしてよ!
生きたい?もうそんなのどうでもいい。
やだよ。もうころして?
どうして、わたしをころしてくれないの?
あなた、わたしをころしにきたんでしょ!!
なのに、扉の向こうにはなにも反応はなかった。
襲いかかるのでもなく、
立ち去るのでもなく、
声を出すのでもなく、
ノックすらない。
(どうして?早く!早く私を殺して!)
そう叫びたくなった瞬間、
現実の針は動きだし、
幻想たる狂気は私の下を去った。
僅かにノックの音が聞こえた。
「誰!そこに居るの、誰?」
のどがからからになっていて、叫んだつもりがかすれたわずかな声になり下がっていた。
「僕を、助けては、くれないか?」
そのか細い声は、確かにカイルのそれだった。
「カイル……なの?」
「ああ、カイルだ」
とても陽気な声とはいえないものだった。
「どうして、私に助けてと、懇願するの?」
「もう、ガーネットしかいないんだ。皆、それぞれに立ち向かってる。手が離せないんだ。だから君に、助けてと、言ってるんだ。頼む」
カイルが私を頼る?
何の冗談?
彼らは、ヴィンテファーラント。
私はただのハーフリング。
「私しかいないって……」
「逃げ場がないんだ。だから、匿ってほしい」
何からの逃避?
でも、逃げられない?
「駄目かもしれないよ」
正直に言った。
「そんなこと分かってるんだ」
「なら、いいわ」
そう言って、私はドアノブを回した。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
次回から、2話続けて、第13話からの接続となる、ジェイド編。
怒涛の説明回連打となります。
本話が短かったため、
第16話は、本日8/6(日)夜、いつもの時間かもう少し遅い時間に投稿します。
第17話は、8/7(月)の夜投稿予定です。