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ファンタジー世界でよくある、冒険者が世界を救う物語  作者: 坂巻大樹
ガーネットの章 血の覚醒と巻き込まれる者たち
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16 第14話 ソルフェリノにも眠るもの

第12話から接続するカイル&ソルフェリノ編です


******



 少し時間は巻き戻り、カイルとソルフェリノが2階に上がったところから話が再開する。



「カイルぅ~、どっか、遠いところに、行っちゃわない?」


 唐突な、逃亡の提案だった。


「あの二人はほっといてさ、二人きりで、どっか、行っちゃお?」


 口調はふざけているようで、震えていた。


「早くしないと、もう手遅れだよ?」


 詰んでいた。


 認めている。


「彼らは、手強いんだよ?」


 その提案は、それでいて、あきらめが含まれていた。


「ごめんね?」


 ソルフェリノが、カイルの正面に立ち、上目遣いに見上げている。


「変な顔、しちゃってるね」


 ソルフェリノも、泣きそうな表情をしている。


「本当に、ごめんね?」


 カイルは、ただ反応できないままでいた。


「……」


 言いたいことを言って、じっとソルフェリノはカイルの反応を待つ。


 やっと、カイルが口を開いた。


 静かな口調だった。


「どうして、そんな、ことを、言ったんだ?」


 そして、否定の言葉が紡がれる。


「今まで、4人がずっと一緒だったじゃないか」


 カイルはパーティーリーダーなのだ。


「いまさら、クリードとフェリアを置いて、二人だけでどこかになんて、行けるわけないじゃないか」


「当然よね」


「ああ、当然だ。どうして、そんな仲間を裏切るようなことをソルは言えるんだ?」


「裏切るなんて……」


「ああ、裏切りだよ、ソル。仲間を、信頼してないんだろう?」


 予想以上に強い否定をされ、ソルフェリノも固まっていた。


「……そんな意味で言ったんじゃない」


 絞り出した言葉に対して、カイルはまだ許さなかった。


「どういう意味で言ったんだ?こんな俺にでも分かるように説明してくれ」


 怒りを押し殺すように、カイルは平板な口調で問いかける。


 大声を出してはいけないことぐらい、分かっている。


 ソルフェリノは、そんなカイルの態度に小さくなってしまっていた。


「それは……」


 天の助けなのか、その時、開け放たれていた窓の向こうから、複数の金属がこすれる音が聞こえてきたのだ。


 湖を渡る風に逆らって聞こえるその音は、明らかに数がおかしかった。


 一瞬の出来事だった。


 ソルフェリノは救われた。


「彼ら、もう、来ちゃってたね」


「そっか、そうなんだな」


「数が、多い!!!」


「おいおい、こんなもの、無かったわけじゃないだろ?」


 その外的要因は、ソルフェリノとカイルを警戒させるのには十分で、彼らは、熟練の冒険者であった。


「すべて、私たちの敵、でしょ?」


「そんなことあるはずないだろ?だって、ここは町中だ。通りすがりの物音だってあるだろ?」


「違うわ」


 ソルフェリノの表情はいつものそれではなかった。


 ピエロを演じているものの表情ではなかった。


 一人の女性として、カイルを見つめていた。


 カイルもそのことに気付く。


「ソル?」



「あなたを守りたいの。すべてのしがらみから解放されたままの、まぶしいあなたであり続けてほしいの。誰にだって、人に言えない過去はたくさんある。皆、その過去にとらわれたまま生きているの。私だって……そう。でも、あなたは違う!そんな、けがらわしい過去がこれぽっちもまとわりついてない。あなたは自由なの。そんなあなたが羨ましかったの!だから、あなたについて来た。そんなあなたが過去に囚われるのが見たくないの!そんなの許せないのよ!」



 ヴィンテファーラントのリーダーがカイルである理由だった。


 皆、カイルと歩みたかったのだ。


「そんな、僕だって……」



「でも、少なくとも私たち(・・)より自由なのよ。そんなあなたが好きなの。は、あなたが、好きなの。好きなあなたをみすみす失いたくない。……それだけよ……」



 カイルは戸惑う。


「僕が好きなんて」


「私だって、そんなこと、気付かなかった。でも、分かった。分かっちゃった」


 一言一言を、ソルフェリノ自身が噛みしめる様に紡ぐ。


「こんな私がどうしてカイルについて来たのか?」


 こんなに、本当のことを言うのが怖いなんて、ソル自身思っていなかったのだ。


「結論は一つだった」


「他に理由があるんじゃないかって、探したりもした」


「無駄だった」


 一言一言、進めるごとに、ソルは吹っ切れていく。


「そして、今、はっきりした」


「どうして、下の二人を置いて、二人だけで逃げようなんて言ったのか?」


 一息、置く。


「仲間を信頼してない?そんなことじゃない!!」


 そして、絞り出す。


「君が好きだから!」


「ソルフェリノは、カイルが、好きだから、……だから、二人のこと、切り捨てちゃった」


 泣き笑いのような表情を浮かべ、ソルフェリノは言い切った。


「そんな、僕のこと……」


 カイルはフリーズしたままだった。


「ごめんね」


「ほんとうに、ごめんね」


 ただ謝る少女がそこにいた。


 やっと、カイルが再起動していた。


「もういい、もういいんだ。……かっとなってしまったけど、僕も落ち着いたから」


「うん、ありがと。……こんな口調じゃやっぱりらしくないかな……」


 いつもの表情を取り戻したカイルは、やっぱりカイルだった。


「いつものソルの方がいい。僕も調子が狂うってもんだ」


 湖岸を渡る、重い鈍色(にびいろ)の風とは異なる、透き通った風がソルフェリノのほほを撫でた。


 ――今は、これでいい。ピエロである私を、取り戻す。


「カイル、始まったよん。ミルフェが来たよ~。さあ、部屋の荷物をまとめるよ~」


 カイルは、あの時の説明が腑に落ちていなかったようだ。


「どうして荷物をまとめなきゃいけないんだ?」


「決まってるよー、二人っきりでさっさと宿を引き払うためだよー」


 これで分からないのであれば、冒険者ではないところだが、


「だな、さっさと逃げるぞ!……って、そうじゃないだろ」


「分かってるなら、さっさと男組の方終わらせちゃってね。簡単でしょ?」


「ああ、とっととこっちに持ってくるさ」


 さすがに、今回の冗談をカイルは理解したようだった。


 すぐに、隣の部屋に荷物を取りに行った。




******




 ソルフェリノは一人ごちる。


 ミルフェが来た。


 もう、そういうことなのだと。


 時間がない。


 時間がなさすぎる。


 寒気がする。


 夏のじめっとした、湿気を伴うような夜に、


 未来が見つけられない。


 どこにもない。


 刻一刻と、クリードが追いつめられる様が聞こえてくる。


 自らも、荷物をまとめながら、


 考えようとして、考えられない自分がいる。


 普段なら、戯れに、未来は見つかる。


 何故、今日に限って未来が見えないのか?


 仕方がない、緊急事態だ。



 私自身の力(神々に連なる者)を解放する。



 解放できなかった。


「なんてこと!!!」


 そうか、そうだったのだ。


 簡単な話だ。







「神が介入してる」







******






「なんだよこれ……」


 自身の荷物と、クリードの荷物を持って部屋を出ようとして気付いた。


「光ってんじゃねーか」


 明らかに、カイルの持つエネミーブレードが悪意に反応して輝いていた。


 すぐに、ソルフェリノの待つ部屋に戻る。






******


 カイルは慌ててソルフェリノのいる部屋に戻っていた。


 もちろん、カイルとクリードの荷物は持ってなのだが。


「ソル、やばい!」


「ソウダネー、とってもヤバイネー」


 カイルの言葉に、ソルの言葉はどこか、精彩を欠くものだった。


「刀身が光ってる」


「そりゃ、こんな状況、光らない訳がないよねー」


 当たり前のことだった。


「この後どうする?」


「どうってもねー、どうしよっかな?」


 これまでは、このような時はソルフェリノが茶化しながらも解決案を提示するのが常であった。


「何を悩んでるんだ……って、もしかして……分からないのか?」


「……せいかーい」


 カイルが絶句する。


「うそだろ?」


「こんなときに、嘘なんて言えないよ」


「……あ……」


「今度は何だ?」


「下が、本格的にやばいことになってる。向こうさん、分かってていたぶってる」


 逐次、ソルフェリノの耳には下の様子が聞こえてくる。


「……おう……」


「で?」


「私まで、やらかしちゃってた。野菜料理で、炙り出された」


 すべてが、悪い方向に収れんしている。


「ごめん、もう無理だわ」


 希望は、本当にないのか?

 ――いや、ベットできるものはある。5人目だ。

 ――――その気付きが、最大の過ちであったと、知る由もなかった。





ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


次回、第15話は、冒頭は今話の続き、その後、第12話から接続するガーネット編です。

8/6(日)の多分午前中に投稿します。

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