14 第12話 気付けばすぐそこに陰謀
本話の後、しばらくの間、話またぎの同時並行場面転換が続きます。
読まれる際にはご注意ください。
※セイフェル編の掲載開始に伴い、
7/31に、登場人物紹介及び地名紹介を更新しております
街道から外れているため、静かな宿と評判のシースリプレスだが、特に今日は静かだった。
周囲の家々の住人すらも、息を潜め、その路地に出てくる者はいない。
よくないことが起こる時、結局、皆、目を瞑るのだ。
どうして、これから起こることを、彼らは回避できなかったのか?
誰が、それをさせなかったのか?
ヴィンテファーラントの面々が、夕食のため酒場に降りてきた。
ガーネットはいない。
彼女はまだ部屋に居るようだ。
タイミングがずれているのか、他に客はいなかった。
ちょうどテーブルを拭いていた主人が応対する。
明るい声で応対してくれる少女は今日はいなかった。
「おう、今日の夕食はどうする?」
ヴィンテファーラントの面々が口々にオーダーを伝える。
「「肉料理で」」
「私は魚」
「んーとねー、陰謀……じゃなくて、山菜」
「肉・肉・魚、山菜?なんじゃそりゃ?野菜中心ってことでいいか?」
「うん、いいよー」
ソルフェリノがいつもよりも大きなボケをし、宿の主人は、受け入れてしまった。
それが、一つ目の痛恨のミスとなる。
最も縁遠いはずのソルフェリノが、この日一つ目の大きなミスを犯した。
料理を待つ間、明日以降の話となる。
「それで、明日なのですが、カイル?どうしますか?」
「なんだかんだで、今日は1日何もしなかったけど、護衛の仕事探しは明日ってこと?」
「まあ、いつものことですから、難なく見つかるとは思いますが……」
フェリアとクリードが話し始める。
「あ……、おう、そうだった!」
カイルが唐突に大声を上げた。
「どうしたのですかカイル?」
「どうしたのよ」
「なにかあったー?」
「すっかり忘れてた!すでに依頼を受けているんだ」
「「「???」」」
3人がカイルの方を見た。
本来なら、忘れるはずのない依頼の話。
確かに、カイルがミスを犯すのはよくあることではあるが、これは異常だった。
「いつの話ですか?」
代表して、クリードがその話を聞くことにしたようだ。
「昨日の話だよ。昨日の夕方、宿に着いただろう、着いてすぐだったかな?宿の主人に呼び出されて、話を聞いたんだ」
「どういう話ですか?」
「単純な護衛の話だった。カレジスタットまでの護衛、食事は向こう持ち、護衛料は一人当たり2000G、明日の朝、依頼人とその商隊が来るから、そのまま出発だってさ」
「確かに、内容に不自然さは感じませんが。どうして今まで黙っていたのですか?話す機会は幾度となくあったでしょうに」
「何でだろう?ただ単に忘れてただけなんだ」
「ところで、依頼人の名は?商隊の中身は?」
カイルが考え込む。
「えーと……あ、聞いてないな。しゅじーん、ちょっといいか?」
反応はない。
料理をする音がかすかに聞こえてくる。
この場には、彼ら4人以外、まだ、誰もいなかった。
今なら、もしかしたら、まだ、間に合っていたのかもしれない。
しかし、彼らはその時間を議論にあてた。
「微妙ですね」
「ええ、何か不自然だわ」
「あやしいねー」
「どういうことだ?」
「タイミングです」
「??」
「その依頼の話は、私たちが着いてすぐ、主人から持ちかけられた。で、いいんですよね」
「ああ、その通りだ」
「つまり、主人は、私たちが着く前に、私たちに対する依頼をすでに持ちかけられていた。ということになります」
「そうなるわね」
「そうだねー」
「どこかおかしいか?」
違和感を形にするのは確かに重要な作業だ。
何がおかしいのか、そして、その結果、何が起ころうとしているのか、それを詳らかにすることは間違いではない。時間が残っていればの話なのだが。
「私たちが、昨日の夕方、この宿に来ることをあらかじめ分かっていた者がいて、彼らが、私たちに依頼をした。ということになりませんか?」
「お、おおう?」
「それは、よろしくないわね」
「きけんだねー」
「どういうことだ?」
「私たち、ヴィンテファーラントだよね」
「おおう」
「だからって、私たちに指名依頼するって、おかしくはない?」
「それだけ有名になったってことか?」
カイルが暢気なのはいつものことであり、責めるべきところではない。
「んな訳ないでしょ!」
「んなわけないーないー」
「でも、誰かの恨みって買ってはないかしら?」
「……心当たりが無いわけではありませんね」
この場所が4人だけのものあった時間は、唐突に終わりを告げる。
主人が、料理を持ってきた。
そして、気付く。陰謀は、追いついたのだと。
魚料理が1人前と、肉料理が3人前である。
「わーたーしーのー、さーんーさーいーはー?」
「すまん、もうちょっと待ってくれ」
そう言ってさっさと主人がひっこんでしまう。
「待ってい……、カイル、ソル、2階に上がってください」
早口でクリードは2人に伝える。
一瞬の判断に、クリードがミスを犯した。
なぜ、フェリアではなく、ソルフェリノを2階に上げてしまったのか?
間違いではない。
フェリアよりも、ソルフェリノの方が機転が利く。
上でも何も起こらないとは限らない。
「おう」
「りょーかい」
「ソル、ひとまずカイルと2人でいて下さい」
「荷造りしとくね」
「いざというときは、カイルはガーネットの部屋へ。彼女は私たちと別部屋ですから、少しは時間が稼げるでしょう」
「にゃ」
「後は手筈通りに」
「おう?」
「にゃー」
「分かったわ」
?マークを浮かべるカイルを引っ張るようにして、ソルフェリノが2階に上がった。
「追いつかれましたかね」
フェリアとクリードは残って夕食を取っている。
「何の話よ」
「あなたには、関係のないはずの話なんですけどね」
少しすると、影が差した。
「ここ、相席いいかな」
商人然とした男が2人の隣に座った。
◇◇◇◇◇◇
一人、ベッドに腰掛けて、窓の外を見る。
残照がうっすらと湖面を照らす。
湖面というには広すぎる。
どこまでも続く。
闇の中まで。
遠くは、見えない。
開け放たれた窓からは、いつかのように風が舞いこんで来る。
どこかよそよそしい。
街道は、建物の向こう側。
喧騒は、聞こえない。
そして、考えるのは私自身のこと。
……分からない。
やはり、分からない。
私の家は、無くなってしまった。永遠に失われた。
永遠に失った……何を失った?
たくさんのものを失ったような気がする。
それは、あまりにも多すぎる。
何を失ったのか見失うぐらい。
なら、残されたものは何?
胸に輝く水晶のペンダント
このためだけに、私は生かされている?
あの、砂嵐の向こうにチラつく、漠然とした記憶。
どんな記憶だったのか、何を意味するのか、分からない。
世間も知らないこの私が、たったこれだけのもので生きていけるの?
私は、この世界にとって必要?
今、私はここに居る。
意味はどこかにある。
……本当にそれはあるの?
あるのなら、
私を導いて
進むべき道を
あるべき姿を
私に示して
どうか私に
・・・・・・・・・・・・・・・・・・よ。
聞こえてきたのは、複数の金属音。
外には、深い闇がそこまでやって来ていた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
本話(第12話)から直接接続するのは、第13話~第15話の3話となります。
次回、第13話は、1階酒場視点となります。8/3(木)の夜に投稿予定です。
次々回、第14話は、2階冒険者視点となります。8/5(土)の夜に投稿予定です。
その次、第15話は、ガーネット視点中心となります。8/6(日)の夜に投稿予定です。
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