13 第11話 カイルの思いと必要な買い物
遅くなってしまいましたが、本日分となります。
翌日、私はカイルと共に町に出ていた。
昨日の約束で、私のための買い物をしようという話になっていたのだ。
まずは、通りを歩く。
街道沿いは、さまざまな物で溢れていた。
ただ、あまり目移りはしなかった。
なぜか、これっぽっちも購買意欲が湧いてこないのだ。
カイルに買ってもらうのだ。
私の懐が痛むわけではない。
普通なら、ここぞとばかりにあれやこれやと目移りするのだろう。
別にいい。
ここで買っても、意味が無いのだ。
だから、ただのんびりと歩いていた。
「ガーネットって、どうしてそんなに落ち着いてられるんだ?」
カイルがそんなことを聞いてきた。
「落ち着いているように見えるの?」
「んー、落ち着いているような……どちらかと言うと、透明感がある方が近いのか?」
聞き返すと、なぜか違うことを言ってきた。
どうも、カイルの中でも何を言いたいのかはっきりとしていないらしい。
「私は、私よ」
ともかく、当たり前のことを言ってみた。
側を歩いていたカイルが立ち止まる。
私もつられて立ち止まった。
「うん、ガーネットって、そうなんだよな」
どんどん言ってくることが変わっていく。
カイルの考えがある方向に向きつつあるようだった。
「どうなの?」
「なんか、執着してないんだ。少なくとも僕にはそう見える」
確かに、私がここに居る理由を、今、この瞬間の私自身がはっきりと認識していない。
あの時、私が考えたことは、未だ、無意識の海に沈んでおり、そのぼんやりした何かが、私を突き動かしている。しかし、外部からの干渉の方が、今、私がここに居る要因としては大きい。
そんなことは、私に分かることはない。私が分かっているのであれば、ヴィンテファーラントの誰かが気付く。そして、その試みは失敗するのだ。
「何に執着してないって?」
「なんだろうな……もしかしたら、すべて……かな?いかなるものにも執着……しがみついてない、ように見える気がするんだ」
「何を……言っているの?」
ドキリとする。
「君は、……君自身、生にすら執着していないんじゃないか……そう見えてしまうんだ」
どうしてそんなことを知っているのか。
すぐさま否定する。
「私だって、生きていたいとは思ってるわ」
今、私は嘘をついた気がした。……いや、確実に嘘を吐いた。
「そうだろ?みんな、そうだろ?」
「もちろんよ、皆この世に生を受けたんだもの、受けたからには全うすべきじゃない?」
若干、話題をすり替えてしまった自覚がある。
どこか、私の中では、生きることが必須のものとして感じられないのだ。
カイルが私の両肩をつかんでいた。
正面にカイルがいる。
気付けばすでにどもっていなかった。
見上げると、私のことを見つめるカイルがいた。
目が合った。
「だからこそ、幸せにしたいんだ」
「え?」
「だからこそ、君を幸せにしたいんだ、ガーネット」
一体、目の前のものはいきなり何を言っているのだろう?
告白なのか?
「……僕は、僕の周りに居る人みんなが、幸せになって、幸せであってほしいんだよ」
カイルは結局はぐらかした。
そうか、そういうことか。
私が、操り人形であることをカイルは断ち切りたいのだ。
その糸を断ち切って、今ある私は否定されて、新たな私に生まれ変わり、
幸せな未来を夢見る少女に生まれ変わってほしいのだと、
能天気にも彼は思い、信じているのだろう。
私は、もう夢見る少女じゃいられないというのに。
「ご、ごめん、つい掴んでた。い、痛くなかったか?」
彼は目が覚めたのか、慌てて両手を離し、私の横に戻る。
「い、行こうか」
買い物は、これからなのだ。
******
さらに街道沿いの店を見て歩く。
横を歩くカイルの表情は見えない。
しばらく進むと、武器を扱っている店があった。
そうだ、当初の目的は、私の護身用の武器をカイルに買ってもらうことだった。
「いろいろ、武器が並んでいるわね」
「え?ガーネットが自分から興味を示したのか?」
武器を扱っている店に来て、私が先に口を開いたことにカイルが驚く。
気付けば、いつものカイルに戻っていた。会ってまだ3日目だというのに、『いつもの』という表現もどうかと思うのだが。
「だって、あなたが提案したんでしょ?私のために、武器を買おうって?」
「た、たしかにそうだが、びっくりした」
「失礼ね、そんな、何にも反応しない、単なる糸の切れた操り人形のようなものではないわ」
とは言うものの、実際はどうなのか?
ただ単に、必要だから興味を持たされただけなのかもしれない。
「ガーネットなら、どのあたりにしておこうか?」
「おや、こちらのお嬢さんのための武器をお探しかい?」
店の前で話をしていたので、店の主が応対に現れた。
「そうだ。護身用だが、どのあたりがいいだろう?」
「お嬢さん、ハーフリングかい?」
「ええ、そうよ。腕の力はあまりない方ね」
主はすぐさま店先に並べてある商品を渡してくる。
「このショートソードあたりはどうじゃろか?」
「うーん、まだ重いわね。横にあるダガーあたりを持たせてちょうだい?」
「ほいよ」
この店では最も軽そうな短剣をお願いする。
もう少し重くてもよさそうだ。
「もうちよっとだけ重いダガーにしてくれる?」
なぜか自然と武器に触れていた。
「こんなもんかい?」
先ほどよりもちょっとだけ重いダガーを手に取り、軽く扱ってみる。
いい感じで手に馴染んだ。
「じゃあ、これをお願い」
「はいよ」
簡単に、武器が買えた。
当然、お金はカイルが払っていたが、小さいものなので安い買い物だ。
鞘と剣帯も同時に買ってもらい、腰の部分に装備する。
「まあ、似合ってる似合ってないの問題じゃないか」
革鎧と共に身につけた方がらしさは出るのだろう。若干アンバランスではある。
護身用のダガーを持った村娘と言えばいいだろうか?そのままだが。
さらに進むと、今度は飛び道具類を扱っている店の前に辿り着く。
「あとは、弓矢ね」
ハーフリングは先天的に弓矢を扱うのがうまいと言われている。
なので、ここでちょっとした弓矢も買ってしまった方が、何かと都合がいい。
「そうだな、弓矢も買っておいた方が、より幅広い事態に対応できそうだな」
店に入る。
「いらっしゃい」
店の女主が私たちを見る。
「そっちのハーフリング用の弓かい?」
「そうだ。何かいいものはあるか?」
「普通のショートボウで十分さね。これあたりはどうだい?」
店に並べてあった短弓の中でも若干小さめのものを渡された。
弦を引いてみる。
いい感触だった。
これなら引けそうだというぎりぎりだった。この女主人はどんぴしゃだった。
「ちょうどね」
「じゃあ、この弓と、こっちが矢で、ついでに矢筒だね。支払いはこっちの兄ちゃんかい?」
「おう」
「じゃあ、こんだけ頂くよ」
こちらでも、カイルが代金を払う。
こちらも、大きなものではないので、安価なものだ。
ショートボウとダガーを装備する村娘……。ありていにいえば、森の狩人といった風合いか。
こんな所に居るかどうかは別として、全体的には違和感はない。
とは言え、昨日の段階では武器を買ってもらおうという話だったのに、私から、弓矢も買おうと提案していた。
何故なのか?
それら2つが、必要な買い物だったから。
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次回の投稿は、8/1(火)の夜を予定しています
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