116 第17話 塔からのチェインクエスト
結果、その日の夜も特に何も進展することはなく、翌日、4人は再び塔を訪れていた。
夜の間も、そして翌日の夕刻になるまでも、彼らに進展は訪れていなかった。
運だけで、シャルトやフォルティアに会える訳が無かった。
「……せ……レニ殿に、グィネヴィア殿ですね?恙なく事は進行いたしました」
昨日、受付に座っていた男性が対応している。
「つまり、結論は出た、そういうことでいいの?」
「ええ、ひとまず今後の流れについては話が纏まっております。つきましては、あなた方には一つ依頼をお受け頂きたいのですが」
「ええ?なんかやらなきゃいけないんですかぁ?」
男の言に対して、ネヴィが反射的に愚痴をこぼしている。
「書状には、貴方方にはご協力頂ける旨の記載があったと伺っております。よもや、お受け頂けないとでも……」
相手はすぐさま反応していた。
「わーわー、ち、ちょっとまって」
レニが、受付の青年からネヴィ達を引き離す。
青年は澄ました表情のまま、彼らの出方を伺うようだ。
「えっと、ネヴィは立場分かってる?」
「えっとぉ?どういうの?」
レニが、ネヴィに確認を取っている。
「オストハーフの神殿での立ち位置」
「うげ……」
「特に、エレニア司祭長から、目を付けられている、おーけー」
「お、おーけー」
レニの言葉に、ネヴィの顔色は目に見えて悪くなっていった。
何とも分かりやすい変化だった。
「その、エレニア司祭長からの書状に書かれていること、破れるの?破っちゃうの?」
「…………」
「訳ない、訳ないよね」
「う、うん」
おそらく、オストハーフの真っ当な住人であれば、ネヴィでなくても逆らうことはできないのだ。
それだけのものを、エレニア司祭長は持っている。
「なら、この話、強制と言うことで、異論なしで」
「「「おーけー」」」
レニの念押しに、ネヴィだけでなく、アーズとラザの男性陣も頷いていた。
「もちろん、受ける。で、どういった内容?」
青年の元に戻り、再びレニが話を始めた。
ネヴィもさすがに茶々を入れることなく、話が進んでゆく。
「まずは、特殊な素材の採取の護衛ですね。サザンケープ湿原の奥地に生息しているデプスストロウの樹液の採取となります」
「さざんけーぷ???でぷす、すとろー???何なんだ?一体。聞いたことが無いんだが」
アーズが何も知識が無い事を吐露している。
「「…………」」
ラザ、ネヴィもさすがに口には出さないが、じっとレニの顔を見ている。
つまりは二人もアーズと同類と言うことになる。
「サザンケープ湿原は、カレジスタットとオストハーフを結ぶ南回り街道沿いにある湿原の名前。南東側に突き出た大きな半島のほぼ南の端にある。それに、デプスストロウは、その湿地に見られる植物の名前。あまり気味のいい所には生えてないのが難点」
「ふーん、そうか、じゃあ、俺たちがその樹液を採取しに行けばいいんだな?」
アーズの言葉に対して、受付の青年が言葉を重ねる。
「いいえ、あなた方にお願いするのは、採取の護衛です。デプスストロウの樹液の採取は、素人が行うと大変なことになってしまうのですよ」
「……俺たちは冒険者だ。そういったことのプロなんだがな?」
「今初めて聞いた体でできるような作業じゃない。そもそも、デプスストロウの生態はある意味秘匿事項。世間一般には知れ渡ってないから、その道のプロにお願いするしかない」
アーズが虚勢を張るものの、身内から粉砕された。
このデプスストロウと言う植物に関する情報は一般に公表されていない。
さらには彼の植物が繁茂している場所には街道すら通しておらず、その場所を大きく迂回するようになっているほどの念の入れようなのだ。
「ま、まあ、レニ、……殿であればご存じですね。専用に調整されたマジックアイテムを用いなければなりませんので、採取そのものを依頼することはできないのです。ですが、道中に魔物の類も出没しますので、冒険者の方々に護衛の依頼をお願いしているのです」
「塔と言えば、手練れの魔術師も多いと聞く。護衛なんて必要ないんじゃないのか?」
何を思ったのか、アーズが食い下がる。
「確かに当協会には高位の真言魔術師も在籍しております。しかし、魔物の中には真言魔術や魔術全般の効きが悪い物、果ては、魔術師の天敵と呼ばれるような者もおりますので、協会員だけでフィールドワークを行うような愚を犯す真似は致しません」
アーズの問いに対して青年はすらすらと模範解答を並べている。
至極当たり前な話であった。
確かに、世の中には当たり前なことすらできない者も多いのではあるが。
「ですので、冒険者たるあなた様方に依頼をしているのです」
「なら、具体的な話、してもらってもいい?」
このままではより旗色が悪くなるだろうと、レニが実務的な話を始めた。
「採取のための道具一式は当方で手配します。サウスタールの町までは乗合馬車となりますが、その際の乗車証等一切の必要経費はこちらで負担いたしますが、あくまで必要経費の範囲内に限らせて頂きます。……たまにですね、不要な経費まで乗せてこようする輩もおりますので」
「ぎくぎくぅ」
律義にネヴィが反応していた。
その様子に気づいているのか気付いていないのか、青年がそのまま話を続ける。
「報酬として、1000Gお支払いいたしましょう」
「え?ひ、一人当たりなのかなぁ?」
「いいえ、あなた様方に対してです」
「……やっぱりねぇ」
甘い幻想に対しては容赦なくぶった切っている。
「で、いつから?誰が?」
「サウスタール方面行きの馬車はちょうど明日出ますので、明日から。採取担当としては、僕が着いて行くことになりますので、よろしくお願いいたします」
「……やっぱり、そうなるよね……なら、明日の昼前に南大門前で落ち合う、でいいかな?」
「分かりました。そうさせて頂きましょう」
こうして、4人の次の仕事が早々に決まったのだった。
追記:
塔を後にした後の彼らの会話。
「出発が明日でよかった」
「どうしてなんだ?」
「カレジスタットでの宿代が2泊で抑えられた。食費込みで、4人で1日当たり200Gも飛んでいくのがとてもつらい」
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
さまざまな体調不良の波状攻撃で、2カ月以上間をあけてしまいました。申し訳ございません。
次話投稿は年明け以降となります。
亀のような歩みとなってはしまいましたが、本年は拙作をご覧いただきありがとうございました。
年が明けても、しばらくはこのような状態が続くやもしれませんが、ご縁なぞありましたら、よろしくお願いいたします。良いお年を。