113 第14話 お金はどこからも湧いてこない
遅くなってしまいました。
境の村の内側の宿にて、例によってアーズの愚痴から会話が始まっていた。
「カレジスタットって、金にがめつい国なんだな?」
「そうだな、俺もきっちり100G支払わされたよ」
ラザも、同額を支払っていたようだ。
二人とも同じ立ち位置だから、それも当然だろう。
「え?二人ともお金払ったのですかぁ?」
そんな二人の話を聞いて、取ってつけたかのようにネヴィが驚きの表情を見せていた。
ネヴィは通関で1Gたりとも支払っていなかった。
「は?ネヴィは払ってないのか?」
「もちろんですぅ。神殿の書状を見せたら一発だったのですよぅ」
優越感に満ちた表情で種明かしをする。
「ちくしょー!その手があったか!」
相変わらず、波に乗れない男性陣を背にネヴィは絶好調であった。
……ちなみに、神殿の、いや、エレニアの書状はネヴィしか持っていないのだから、男性陣がその恩恵に浴することはそもそもできなかったのではあるが。
「でだ。これは必要経費だよな?」
「……何?」
アーズが黙っていたレニに話しかける。
「本来パーティーとして払うべき者を俺たちが立て替えておいたんだ。補てん、してくれるんだよな?」
「お、俺の分も!」
ラザも乗っかっている。
「なら、ネヴィにも同じ額を補てんしてくれるんですよねぇ?たまたま、書状があったから払わなくて済んだだけでぇ、本来ならネヴィも払わなければならなかったものですからぁ?」
ネヴィも乗っかってきた。……流石にこれは調子に乗りすぎではなかろうか?
「……はぁ……パーティーの共通資産は確かに私が管理してるけど、そもそもほとんどないってことは分かる、よね?」
「「「うっ」」」
「この際だから、説明しておく。この依頼を受ける前に預かってたのはちょうど1000Gだけ」
「「「……」」」
この段階で、3人組の表情が蒼くなっていた。
その表情からは、一様に「え?そんなになかったの?」と言う感情が読み取れる。
「で、リーダーのアーズが色っぽいおねいちゃんから引き受けた依頼の前払いの500Gを加えて、オストハーフ出発時は1500Gがパーティーとしての共有資産だった。おーけー?」
「「「おーけー」」」
そのぐらいの計算なら誰でもできる。
3人とも首を縦に振っていた。
ちなみに、オストハーフでラズフェルドに巻き上げられた酒代は、アーズとラザの個人的な財布からのお支払いだったので、共有資産自体は出発まで目減りしていなかった。
……アーズが依頼の前払い金をパーティー共有資産に組み込んでいたというのがある意味驚きであったのだが。
「で、セイフェルで、宿に泊まった。治安を考慮して一人当たり40Gの宿にしたので、160G減って今は1340G。分かる?」
「「……」」「い、いちよぅ」
ラザとアーズが若干ついていけない感じになっている。
暗算は苦手だろうか?
ネヴィはついていけているらしい。これでも、頭脳労働職には入るのだ。これぐらいは分かって当然、だろう。
「この後、皆に100Gずつ……もちろん私自身にも配ると940Gまで減るの」
「お、おう?」
「この先、カレジスタットの街で、もしも宿泊するとなったら、……そしてその先も……エレニア司祭長の御威光もどこまで持つか分からない」
「……」
「確かにこれは必要経費。だから、アーズとラザには100G渡すけど、ネヴィには渡さない。私自身も貰わないでおくので、残りは1140G。今後は、それも念頭に置いてほしい。いざとなったら、各自で稼ぐことも視野に置いてほしい。どうなるかわからないから」
レニが、通貨宝石(小)をアーズとラザに渡す。
ネヴィが不満そうな表情になっていたが、本来貰うべきレニが辞退しているので、強く言えないようだ。
「本当に、残りの額だけでこの依頼が完遂できるとは思えない」
レニが呟いていたが、残る3人は顔を背けて食事に集中するのだった。
***
翌日、馬車は再び進み出す。
ただ一人の落伍者も出すことなく、田園地帯を進んでゆく。
「なんだかすごいな」
「この辺りは、ひたすら穀物を生産している所。そうしないと、カレジスタットの人口は養えない」
アーズの呟きに、レニが真面目に返している。
「ふーん、じゃあ、この辺りの農民たちってぇ、いい稼ぎだったりするのぉ?」
「多分そんなことはないと思う。穀物の生産に集中できるようにいろいろ仕掛けがある。それを利用するためと言う名目での税金が結構高かったと思う。でも、生産がうまくいく限り飢えたりはしない」
小作民に対して玉の輿と言うのは成立しないはずだが、ネヴィが淡い期待を抱いていた。
もちろん、レニが一刀両断している。
「じゃあ、この辺りに嫁ぐとかはあまりいい選択じゃないのねぇ……」
「ネヴィは末席でも神官。自分の力を伸ばした方がもっといいことになるに決まってる」
「そ、そうかなぁ……えへへぇ」
結局は、レニに自分のいい所を言わせてご満悦のネヴィであった。
「……」
そんな3人の横で、ラザは何も言わず窓の外を見ていた。
めっきり、影が薄くなっている。
……職業盗賊であるので、影が薄いに越したことはない。はずだ。
***
快調に馬車は飛ばし、気付けばラビリスグラブへの道が別れる三叉路の所まで来ていた。
「なんだか太い路が別れているが、向こうには何かあるのか?」
「ネヴィも興味ありますぅ」
「……」
3人が興味を示している。
……ラザはここでも無言だったが。
「向こうには、ラビリスグラブって街がある」
「ラビリスグラブ……聞いたことがあったようななかったような……レニは知っているのか?」
「ぼ、冒険者やっててラビリスグラブを知らないのはもぐり、って言われるほど冒険者にとっては有名な街。アーズもネヴィもラザも、聞いたことないの?」
「う、うーん」
「ネヴィは本職は神官なのでぇ、別に知らなくてもいいと思いますぅ」
「知らなかった」
3人とも知らなかったようだ。
「……古代魔法帝国期の空中都市の残骸がある。その遺跡へのベースキャンプになっているのがラビリスグラブ。一獲千金狙いなら、一度は行ってみたい街堂々の一位」
「そ、そんな所があるのか!」
アーズが本気で驚いていた。
「さすがに、依頼遂行中だから寄り道はよくないが、今回の依頼が終われば俺たちも狙おう!……いや、むしろ今からラビリスグラブに行くべきなんじゃないのか?」
境の村での話が堪えたのか、アーズが前のめりになっている。
「ち、ちょっとぅ、ネヴィは遠慮しておきたいかなぁ」
止めたのはやはりというか、ネヴィであった。
「おい!神官のお前が怖気づいてどうするんだよ!回復役がいなくなるじゃないか」
「私が目指しているのはぁ、ノーリスクハイリターンなんですぅ。ハイリスクアンノウンリターンはのーせんきゅーなんですぅ」
冒険者になっておいて、このネヴィの発言はさすがにおかしい。
「じゃあ、どうして冒険者なんてやってるの?」
すかさず、レニが突っ込んでいる。
「下っ端神官だけじゃ、ノーリターンだったからに決まってるじゃないですかぁ。それに、冒険者やってる方が神官としての成長も早くなるってまことしやかな噂が流れていたからですぅ」
ネヴィの言いようがあからさまにひどすぎる。
「リスクがあってこそのリターンだろう?冒険者たるもの、リスクを取ってリターンを狙う。それ以外に何があるんだ?」
「冒険者として見聞を広めて玉の輿狙うだけですぅ」
「せ、せめて、冒険者として手っ取り早く神官の腕を磨いて出世するとかじゃないかな……」
どちらにしても大概だ。
「俺、冒険者になってどうしたいんだろう……」
そして、ひっそりとラザが思考の罠に陥っていた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
なかなか執筆がうまくいっておりません。
次も1カ月以内を目指しております。