112 第13話 境を抜ける
お待たせしております。
本日、本作品投稿開始から1年経過となりました。
遅筆に過ぎる感しきりではございますが、これからも良ければお付き合いいただけると幸いです。
「何もしていないんだが、なんだか疲れたな」
「気疲れって奴なのですぅ」
アーズとネヴィがぼやいている。
「確かに、今回は異様にモンスターの襲撃が多かった」
さすがのレニもその言葉にはフォローするしかないようであった。
「ま、何も起こらなくてよかったんだ」
ラザの言う通り、彼らは気疲れしただけであった。
如何に通常の数倍以上のモンスターの襲撃に遭った所で、アーズ達は護衛業務を請け負った訳ではない。
あくまで、乗合馬車の乗客の一人にしか過ぎないのだから、戦う道理はどこにもなかったのだ。
確かに、他の乗客からは若干白い目で……いかにも冒険者ですよと言った格好なので、当然と言った感がある……見られているが、この程度で何か感じるような感じはどこにも見受けられなかった。
「お客さん方ぁー、そろそろ境の村に着くから、通票の準備をしておいてくれ」
御者の男が車内に向かって声を掛けていた。
すでに森は抜けて、農村地帯へと風景は一変している。
「通票?そんな物持ってたか?」
「なんですかぁ?……そっかあ、カレジスタットに入る時に必要な物だぁって、話してたですぅ」
「そんな物持ってねー」
「……」
「……お前さん方、初めてカレジスタットに入るんだろう?持ってなくて当然だ。この先に検問所があるから、そこで手数料を払えば発行してもらえるさ」
程なくして、馬車が止まる。
街道を塞ぐように、立派な検問所が立っていた。
「馬車に積んでいる荷物はこちらで検疫を行う。乗員は馬車から降車するように。乗員は向こうで入国審査がある。各自、所持している通票を持ち列に並ぶこと。手荷物検査は入国審査時に行うので、持って行くように」
ひょろっとして神経質そうな男が、何の感情もなく淡々と指示を出している。
その声を聞いて、レニが真っ先に行動していた。
すぐさま、入国審査を待っているだろう待機列に並ぶ。
もちろん、自分自身の荷物は持ってであった。
「お、おい……全く、レニがこうも素早く行動するのは珍しいな」
「なんだか、嫌な予感がするのですよぅ」
「俺たちも早く並ぼうぜ」
残る3名が準備をしている間に、馬車の中にいた乗客たちは皆待機列に並んでしまっていた。
「ちっ、出遅れたか」
「心配しなくても、馬車が再出発するのは明日の朝だ。荷物検疫があるからな。それまでに集まってくれりゃ問題はないさ」
御者の男はさばさばと言い切っていた。
いつものことであり、勝手は分かりきっている。
***
「次の者、どうぞ」
詰所の中のカウンターの前に立ったのはレニであった。
「証があれば提示するように」
「これでお願いします」
レニは、カード状になっている物を2枚提示した。
「……協会員証並びに正式市民証ですね。それでは、名前の確認を行いますので」
「セレニティア=ウィンステールです」
係員は、手元にある小さな魔道具にカードをかざす。
「確認いたしました。セレニティア=ウィンステール様ですね。続いて、手荷物の方の確認をさせてください」
どうやら、セレニティアとは、レニの言い間違いではなかったようだ。
レニは言われるままに荷物をカウンターに並べる。
「これと、これと、これでお願いします」
「荷物の方も確認いたしました。関税対象品はございませんので、通票の方発行いたします」
「ち、通票に関しては、支払済み下級一時滞在証にしてもらえるかな」
「……訳ありですか……承知いたしました。少々準備いたしますので、そのままお待ちください」
いつの間にやら、係員の対応が変わっている。
天と地の差と言ってしまうと大げさであるが、少なくともやっつけではなくなっていた。
レニの場合は若干特殊になってしまったが、通関の際は多かれ少なかれ、トラブルが発生する。
そのため、どうしても一人当たりの時間がかかってしまい、境の村での滞留が生じてしまうのだった。
なので、乗合馬車は、境の村で必ず1泊する。
「では、こちらをどうぞ。慣例として発行手数料を頂きますので、10Gお願いいたします」
支払ったという事実でもってアリバイとする。
レニであればこれぐらいの額はどうとでもなる物であった。
「では、こちらで」
「確かに頂きました。では、お通りください」
ぱっと見では単なる木の札を受け取り、レニは詰所を抜けてカレジスタット(の勢力圏)へと戻るのだった。
***
「次の方、どうぞ」
事務的な声に対し、きょろきょろと辺りを見回しながら入ってきたのはネヴィであった。
「証は……持ってはいないな?名前、職業、行先、用件を述べるように」
「グィネヴィアですぅ。見習い神官でぇ、オストハーフの豊穣神神殿からカレジスタットの魔術師協会へお届け物の運搬中ですぅ」
係員が胡乱げな目つきになったのは責められるものではないだろう。
「……証明書類を提示するように」
「これでいいですかぁ」
ネヴィは、エレニアが認めた書状を係員に提示する。
その動きに、係員は若干たじろいたようだった。
「……少し待つように……おーい、神殿関連に詳しい奴こっち来てくれ!」
向こう側から、別の係員がやってきた。
「なんだ?何かあったか?」
「この書面の真贋判定できるか?」
やってきた係員にネヴィが差し出した書状を見せている。……と、見る見るうちに顔色が変わっていった。
「どれどれ……げええ、これまじもん。間違いねーやつ。特許出しとけ。あ、適用範囲は一般区画と塔限定な」
「???」
「えっとですね、お名前を再度確認します。グィネヴィアさんでよろしいですね」
「合ってますよぉ」
「では、こちら、依頼遂行用の臨時許可証です。魔術師協会まではこの証で通行できるようにしてあります。寄り道はできません。提示の要求があれば従ってください。発行手数料は頂きませんが、失くされた場合の再発行はできませんので取り扱いにはご注意ください」
「ありがとうございますぅ」
「では」
さすがに、エレニアの書状の威光はすさまじいものがあった。
そうして、難なくネヴィも詰所を抜けることができたのだった。
***
「次の方、どうぞ」
事務的な声に対してずかずかとやってきたのはアーズであった。
「事前に証の発行を受けている場合は提示されたし。なければ、名前、職業、行先、用件を述べよ」
「事前の証と言うものは知らないな。名前はアーズだ。戦士。カレジスタット。人探しだ」
「えっと、冒険者が依頼を受けているということでよろしいか?」
「ああ、その認識で間違ってはいない」
「では、簡易滞在証の発行要件となるな。手荷物検査を行い、その上で発行手数料を算出する。所持品を出すように」
「は?所持品を出さないといけないのか?」
「カレジスタットでは関税を掛けているからな。入国の際には貿易品には一定の税金を納める必要がある」
「何だよそれ?」
「そういうルールだ。いやなら引き返すがいい。……強引に突破しようとするなら、こちらにも策はある。つかえているんだ。さっさと言うことを聞け」
「いちいちむかつく物言いをする……分かった。出せばいいんだろう」
「つべこべ言うな……ああ、関税相当品はないな。では、100Gだ」
「何だその高さは。ぼったくりじゃないのか?」
「そう言う決まりだ。いやならカレジスタットに入らなければいいだけのことだ。それぐらいの持ち合わせもないとは言わないよな?」
「……うう、こ、これでいいんだろう」
「ああ、確かに100Gの通貨宝石だ。では、通票だ。カレジスタットの街に入るまでこれが必要となる。失くした場合は再発行時にはまた100G必要となるからな。さあ、さっさといけ」
これが、カレジスタットのことをろくすっぽ知らない一般的な冒険者に対する係員の塩対応であった。
ともかく、4人とも入国検査を通過し、境の村の内側の宿屋に再び集結することができたのだった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
※ラザの入国審査に関しては、特筆すべきことはなかったということでご承知置きください。
次話投稿は、そ、そのうちということで。
※8/5追記 体調不良等が重なり、執筆がうまくいっておりません。続きについてはしばらくお待たせすることになってしまいそうです。すみません。