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ファンタジー世界でよくある、冒険者が世界を救う物語  作者: 坂巻大樹
ガーネットの章 血の覚醒と巻き込まれる者たち
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10 第8話 彼らのこととこれから

今話から登場する◆は、エネミー側への視点転換の際に使用します。

なお、◇は主人公側もしくは中立サイドの視点転換です。

 ソルが何とも意味深なことを言った後、フォローに回ってきたのは案の定クリードだった。


「なんだか申し訳ありません。ガーネットさん。うちのソルフェリノが引っかき回してしまって。気分を害されてはいませんか?」


「私としては困惑するしかありませんので、何も考えないことにします」


「それはすみません。彼女はとらえどころがないのです」


「ところで、まずはセイフェルに向かうところまでは伺っていますが、この先の予定はどうなっているのですか?」


 聞くべきことを聞いていなかったことを思い出し、確認する。


 朝、カイルの二度寝により、なし崩し的に出発となってしまったのだ。


 カイルの一言で、これからセイフェルに向かうことは知れていたが、その先のことは何も聞けていなかったのだ。


「セイフェル経由でカレジスタットの街に向かいます。あなたを拾うきっかけとなった遺跡調査の結果をまずは報告に行かねばなりませんので」


「そうなのね」


「ですが、セイフェルに着いた後は、カレジスタット方面の商隊なり何なりをまず探します」


「それはどうして」


「セイフェルからカレジスタットに向かうには、妖魔の森と呼ばれるモンスターがよく出る地帯を抜けなければなりません。街道も森の中を通ります。ですので、必ず護衛の依頼があるのですよ」


「なるほど、少しでも、ということね」


「そういうことです」


 つまりは、調査報告のためにカレジスタットの街に行く。道中で護衛依頼を受けて少しでもお金を稼ぐ。おそらくは、カレジスタットの街で私はギルドに入って訓練することになるのだろう。


 カレジスタットの街は、このあたりでは最も大きな街だ。あまり地理に詳しくない私でもその名前を知っているぐらい。


「なら、私はカレジスタットで職業盗賊としての手ほどきを受けるためにギルドに入ればいいということね」


「そういうことになります」


 冒険者になるにしても、冒険者にならないとしても、どこかで私の持つ才能を技術にしておく必要が確かにある。大きな街だ。職業盗賊以外にも、私が持つ何かを磨くための術はあるだろう。


「でも、手ほどきを受けるといっても時間がかかるのではないかしら」


「確かに1日2日で終わるものではないでしょう。その間は4人で近場の依頼をこなし、あなたの成長を待ちます。あなたのことですから、おそらく1ヶ月もあれば十分じゃないかと」


 そもそも、私自身が冒険者を嫌っていた理由が思い出せていない。


 にもかかわらず、あたかも、私が冒険者となることが既定路線となりつつある。


 どこか、強引に変えられている気がしないわけでもない。


 ただ必要だからそうなっていると考えればいいのだろうか?



******



「あなたがヴィンテファーラントに入るのは反対です」


 日の落ちる頃、野営の準備を眺めていると、珍しくフェリアが私に話しかけてきた。


「そう、それで?」


 彼女はもとから私と言う存在に対してネガティブだ。


 こうして彼らに付いていくことになっても変わらない。


「あなたはいったい何者なのですか?」


「ガーネット=ブリージング、ハーフリング、女性、両親は死去、このあたりの生まれではないことは確か、持ち物は水晶のペンダントのみ、それ以外の何か手掛かりとなるようなものは所持していない。以上よ」


 今分かっていることを話す。


 たったそれだけだが、これ以上の何を知りたいというのだろう。


「あなたの正体は何?」


「今の説明で不足ですか?」


「ええ、とってもよ。目的は何?なぜあんなところで倒れていたの?あなたがいる理由がほしいの」


「そんなこと知らないわ。そもそも、生きるのに必ず目的が必要なの?存在するのに理由が必要なの?私は神でも何でもない。だから知る由もない。そんなものが無いと安心できないなんで、あなた、何様のつもり?」


 彼女が私のことが嫌いだというのなら、私も彼女のことを嫌うことにする。


 もともと、触れてはいけないペンダントに勝手に触れたのだ、彼女は。それだけで、十分だ。


「私は、このパーティーで、『疑い』を持つのが役目。カイルは良心、クリードは知謀、ソルフェリノはピエロ、だから、あなたのことは信じない」


「ぴえろはないよーーーー」


「そこ、黙ってて!」


 そういうことをいう段階で、彼女も十分お人よしだ。


「勝手にすればいいわ。私は、受けた施しを返すことができれば十分だと考えてる」


 私が、ヴィンテファーラントというパーティーで活動する未来が想像できない。


 私の役割はそうではないと思うのだ。


「せいぜい、私が変なことをしないよう、存分に見張ってるといいわ」


「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」


 結局、フェリアは聞きたいことも聞けずに私の傍から離れた。


 私自身に対して公開されていない情報をどうして彼女に話すことができるのか?


 ある意味当然の結果だった。



******



「が、ガーネットさんは、見張り番には就かずにゆっくり休んでくれ」


 準備していた干し肉とパンと簡易スープで夕食を取った後、見張り番の話になった時に、カイルがそう宣言した。


「お言葉に甘えさせてもらってもいいのかしら」


「い、いいんだ。だって、ほら、まだ冒険者としての心得も持ち合わせてないだろう。出来るようになってからでいいんだ」


 確かにカイルの言うとおりだ。


 慣れないことをしたところで、モンスターの接近に気付かず、囲まれて手遅れになる可能性の方が大きいのだ。ここは、その技術を持つ者がやらないと意味がない。


「ま、僕には奥の手があるからね!」


 そう言って彼が私に見せてきたのは、主武装である剣だった。


 飾りっ気のない大剣だ。


 何も変わった様子はない。


「実はね、この剣、悪意があるモノが近付くと刀身が光るマジックアイテムなんだよ」


「それはすごいわね」


「そうなんだよ。これがあるから、夜の見張り番も楽ちんなんだ。だって、モンスターとかも、悪意を持って近づいてくるから、一発で分かるって寸法さ」


「ふーん」


 じゃあ、たとえば私が悪意を持っていたら光るのだろうか?


 それが無意識のものであっても光るのなら、すごいと思う。


 ……逆に、ずっと光りっぱなしになって何が何だか分からなくなるだけか。


「それって、絶対なの?」


「たぶん絶対だよ!何度もこの剣によって助けられてるからね!」


 おそらく、隠された悪意には反応しないのだろう、確実に。


「でも、世の中って悪意を持たないでいる方が珍しいんじゃないの?」


「そうかな?ずっと悪意を持ち続けていると疲れるだけで、何の得にもならないさ」


 悪意を持ち続けると疲れるだなんて、なんて能天気な考え方なんだろう。


 ある意味羨ましいなと、ふと感じた。


「それに、この剣は、悪意の大きさと距離に応じて光り方が変わるんだ。まあ、なんだ、実はそれだけなんだけどな」


「補足すると、この剣は、悪意に応じて光りはするのですが、光るだけで、命中しやすくなったりダメージが大きくなったりはしないのですよ」


「なんだか、片手落ちね」


「だからこそ、のんびりできるんだ。そんな高性能なら、常日頃から狙われて光りっぱなしになっちまう」


「たしかにそうね」


 その、悪意を感知する剣、まあ、名前はそのものずばりエネミーブレードと言うらしいのだが、マジックアイテムとしての格は最低らしい。ほんの少しだけ命中しやすくなるだけなのだ。パワーファイターにとっては、それでもあった方がましなんだろう。


 にこにこしながら愛剣のことを語るカイルのことを見ると、素人の私でも悪意は感じることはできなかった。当然か。





◆◆◆◆◆◆





 そんな、エネミーブレードの悪意感知が探知できないほど遠く離れた所にて


「そうだよ、明日、ヴィンテファーラントの面々がセイフェルにやってくるよ」


「やっとか!やっと奴が現れるのか!」


「それじゃあねー。健闘を祈ってるよ~」


 短い言葉を伝え終わった後、その小さな影は夜の闇に紛れて消えた。




 祈りもしない(・・・・・・)癖に。


 後に残されたのは、眼を異様に血走らせている一人の男だけだった。





◆◆◆◆◆◆




ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


次回投稿は7/27(木)夜の予定です。


9/22 前書きを追加 末尾の◆を追加(次話冒頭から位置を変更しました)


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