107 第8話 先輩の話がやけに沁みる
ら、ラザがポンコツすぎる……
ラザは革の小袋の中身を確認しないまま、ずるずると来てしまいました。
完全に忘れています。作者も忘れていました(汗)。
夕食の後、面倒はごめんとばかりにレニやネヴィといった女性陣は2階に引き上げていった。
夜の酒場は男の時間となる。
酒に酔った男どもに絡まれるぐらいには二人の顔立ちは整っていたのだ。
「おう、どうした、ひよっこども?しょぼくれた顔して?飲んでないのか?」
湿気た表情をしたラザとアーズを見て、早速お節介焼きな先輩冒険者がやって来ていた。
まあ、いわゆるアテ目当てだろう。
他人の不幸で酒は進む。
「ラズフェルドぉー、や、やばいんだ」
途端にアーズが泣きついていた。
名前がするっと出てきたあたり、この先輩冒険者は彼らでちょくちょく楽しんでいるのだろう。
「おう、アーズの坊主は今度はなにやらかしたんだ?」
「う、受けた依頼が地雷って詰られた……」
「どした?詰られたぐらいで泣きつくんじゃねーよ……って、そんなにやばいの受けちまったのか?」
とりあえず先輩冒険者は取ってつけたように困り顔をして見せていた。
さくさく話させようと言う感じだろう。
「そもそも、やばいかどうかも分からないんだ。……ラズさんはフォルティア=ホワイトハートって言うハーフリングの女性のこと知らないか?」
「フォルティアねえ……」
先輩冒険者は考え込むような表情になって、ためを作る。
「ねぇ……」
わざとらしいほどためを作る。
「わ、わーったよ、おーい、こっちにエール1杯頼む!」
「はいはーい」
そして店員の持ってきたエールをひと飲み。
「くぅー!やっぱりおごりの酒はうまいな!」
ついつい、作っていた表情を崩してしまう。冒険者の演技なんてそんな程度だ。
「だから、ラズさん……」
「ああ、フォルティアちゃんの話だったか。おう、彼女はシャルトの嫁さんだったか」
何の気なしに、新たな情報をぶっ込む様だ。
「シャルト?」
「おうよ。シャルト=ブリージングってしらねーか?フォルちゃんは奴の嫁で、ものすごく歌がうまくて、おまけに一人娘まで生まれてんだから、シャルトのヤローが羨ましいぜ!」
ラズフェルドと呼ばれた冒険者がいきなり核心を喋っている。
実のところ、シャルトがラザのターゲットであるのだが、悲しいかな、ラザはその名前すら聞いていないのだ。
「……しゃ、シャルトって誰なんだ?」
「おうよ……(ちらっ)」
ただ、それでもその言葉にラザは反応していた。
その話に興味あります。
情報下さいと態度に出していた。
こんな所で、そのような態度に出てしまえばどうなるか?
それは、先輩冒険者のカモにされる、そういうことだ。
つまり、ひよっこたちの負けなのだ。
「……お、おう、こ、こっちにエールもう1杯頼む」
「はいはーい、……ラズさん用の2杯目っと。うん。今度はいい奴を大ジョッキにしたからね!」
「おうよ!分かってるじゃねーか。もちろんこいつらにつけといてくれな!」
「分かってる分かってる!」
「役得役得っと。……ああ、分かってるさ。話の続きだったな?」
アーズとラザの視線を受け、ラズフェルドが話を戻す。
「シャルトはシャルトだ……で終わりにするのはさすがに気の毒だ。んだが、お前ら、彼のことぐらい知っておけよ?この辺りで冒険者やってりゃ、彼の名前知らなきゃもぐりになっちまうぐらい有名さ。奴がギルドに入れば……レインボーランクは確実って言われている野郎だぜ!」
「!!!」
レインボーランク……ありていに言えば、人間が到達できないと言われている領域だ。
「ついでに言うとな、その奥さんのフォルちゃんも、ギルドに入れば……彼女の場合は職業盗賊ギルドではないが……ありゃ、ブラックだと思う」
ブラックランク……これも、伝説級である。人間が到達できる最高位だ。
夫婦で人外……奇しくもアーズとラザはそれぞれありえない強さを持った夫婦のそれぞれをターゲットとした依頼を受けてしまっていたのだ。
当のラザはそのことにまだ気づきもしていないのだが。
現段階では、ただ興味を持って聞いているにすぎない。
ある意味、幸運かもしれない。
夫婦であれば二人セットで見つかるのかもしれないのだから。
「ラズさんはその、二人と面識があるのか?」
「そんな、個人的に面識があるわけねーだろ?二人揃って雲の上の存在だからな?」
「……雲?もしかして?」
「おいおい、そういう意味じゃねーよ。二人とも死んでねーから。……たぶんな」
「たぶん、……どういう意味だ?」
「おーい、こっちにつまみ追加だ!……もちろん最高級の奴な!」
「分かってる分かってる!」
「どういう意味も何も、二人はこの街には絶対に現れないからな。だから、この街にいると分かんねーんだよ」
「絶対に、なのか?」
「ああ、フォルちゃんはこの街で嫌われていてな?彼女はこの街で仕事ができねーんだよ。まあ、他の街に行きゃ、彼女は引く手あまた……じゃねーな?特定の場所でしか仕事はしねえ」
「どこなんだ?」
「おいおい、お前たち、まじで聞くだけ聞くつもりかよ?その分、むしり取るから覚悟しとけ?」
「「…………」」
「セイフェルとカレジスタットには彼女が仕事する場所があるらしいぞ?」
「そ、そうなのか?じゃあ、行けば会えるのか?」
「そんなの分かるわけねーじゃねーか?最近は俺らこの辺りで仕事してっからな。他の街の出来事なんてしらねーよ」
「そっか……」
本当なら、ここでラザがシャルトのことについて更に聞こうとする場面のはずだった。
だが、ラザは、ターゲットがシャルトであることをまだ知らないのだ。
……貴重な情報源を、ラザは知らぬ間に棒に振っていたのだった。
「さ、最後に一つ聞いていいか?」
「おう、何だ?アーズ?」
「フォルティアってどこに住んでるんだ?」
「おう、それを俺に聞くのかい?」
「だって、聞いてみないことには分からないじゃないか?知らなかったらそれでしょうがない」
「つくづく、お前は運があるんだかないんだか……まあいいさ。フォルちゃんはもちろんこの街には住んじゃいねえよ。噂では、サードテイル草原に居を構えてるらしいぜ?」
「サードテイルか……ここより南だよな?」
「ああ、オストハーフの南側の草原一帯だな」
「その、どこかに住んでるのか?」
「らしいな。少なくとも街道沿いではないらしい。それ以上のことは俺は知らねえよ……ったく、大分サービスしちまったじゃねーか」
「その分、バカスカ食ってんじゃねーかよ!」
「今だけの情報を提供したんだ、問題ねーだろーよ。じゃあ、堪能させてもらったぜ!シャルトの野郎の機嫌を損ねない程度にがんばりな!じゃないと、消された所でこっちは責任取れねーからよ!」
しゃべりにしゃべり倒し、ラズフェルドは酒場を後にした。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
次話投稿は、5/12(土)頃にできればいいかと……最近遅筆ですみません。