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106 第7話 確認するだけの簡単なことすら

きりがよくないため、若干いつもより長めとなりました



 3人の中でもとりわけずうずうしい者がいる。


 ネヴィである。


 アーズ、ラザ、ネヴィと3人が依頼を同時に受けると言う、冒険者として最もやってはいけないことをした直後だと言うのに、彼女だけは自身の受けた依頼を優先させようとしていた。


 確かに、第一声からして依頼の感じが異なっている。


 ここでは唯一中立の立場のレニが進行役となり、話を進めていくようであった。


「なら、まず、3人の受けた依頼の内容をそれぞれ吐いてもらう。でないと、何も方針を決められない。……で、3人とも、思考停止にはならないで。レニ一人で決められるほど、能力高くないから」


「……あぁ……」


「……お、おぅ……」


「……分かったですよぅ」


 レニのお願いに応える声は、一人を除いて全く覇気が無かった。


 こう言う時、男の方が弱気になってしまうのである。


「なら、まず、ネヴィの受けた依頼、どんなのなの?」


「依頼人は、エレニア司祭長ですぅ。内容は、手紙をカレジスタットの『塔』に届けると言うものですぅ。報酬は1000Gで、道中の諸経費は神殿持ちなんですぅ」


「手紙はもう貰ってるの?」


「明後日、神殿に取りに行く手筈になっているですよぅ」


「諸経費は神殿持ちって、どういうこと?」


「手形を発行してもらえることになったのですぅ。なので、カレジスタットまで直行する豪華な乗合馬車を見つけて、手形を渡せば後はゆっくり馬車に揺られればそれでおっけーなのですねぇ」


「……さすが、神殿は太っ腹ね。……それだけ?」


 レニが確認の言葉を発した途端に、これまで流暢だったネヴィの雲行きが怪しくなった。


「……た、たぶん、そ、それだけだったら、いいなあ、って……あ、はは……」


「どうにもあやしい。でも、確かにそれだけなら、優先してもいいかって思う」


「ほ、ほんと!」


 どう見ても、ネヴィが何か言いにくいことを隠しているのは明白だった。


「隠し事はないの?じーーーーーー」


「見つめられると照れちゃいますよぅ」


「じーーーーーー、ほら、アーズもラザも一緒に」


「「「じーーーーーー」」」


 レニが促し、3人がネヴィをひたすらに見つめ、自白を促した。


 さすがに、その視線には耐えられなかったのだろう。


「どうにも、これ、チェーンクエストっぽいのかなあって、てへ☆」


「は?」


 チェーンクエスト……いわゆるキャンペーンとも言われる最も厄介な部類に入る依頼の種類だ。


 初心者が気軽に受けるべきものでは決してない。


「引き続き、今度は塔から依頼があるっぽい事をエレニア様が言ってた。で、全てを終わらせてその内容を報告しないと、私のこと許さないって、エレニア様に言われちゃったよぅ」


「全てって……なかなかに重い。何を持って全てって判断するの?」


「うん、ネヴィには教えてもらえなかったよぅ。途中報告はありなのでぇ、その際に判断を仰ぐしか」


「なかなかにキツイ。初っ端からキツイ。で、次はラザ」


 これ以上は聞いてもしょうがないと判断したのだろう。


 もしくは、これ以上詳しい話を聞きたくなかったのだろうか。


 レニの表情はすでに渋い。


 ネヴィの話を切り上げ、レニは続いてラザの話を聞くことにしたようだ。


「お、おう。俺の受けた依頼は、潜りのハーフリングをうちの職業盗賊ギルドに加入させるように説得するって奴だ」


「……たしかに、さっきもそう言ってた。で、そのもぐりのハーフリングって誰?」


「…………」


 レニの最初の質問に、ラザは沈黙で返した。


 ラザは、職業盗賊ギルドで何も聞いていなかったのだ!


「え?ラザ、どうしたの?名前は?年齢は?特徴は?どの辺りに住んでるの?どのくらい強いの?足取りとかないの?なんで、彼?を入れようとしてるの?依頼なんだから、それぐらいのこと聞いてないの?」


「……何も聞いてない」


「ヲイ」


「名前すら聞いてなかった……期限が無いってことぐらいしか聞いてなかった」


「それ、依頼を受けてないと言うのと同じ。やりようがない。ハーフリングなんて、探せばけっこういる。それに、彼らは生まれつき手先が器用で職業盗賊ギルドに入ることができるけど、全員が入ってるわけじゃない。だから、ハーフリングは結構な確率でもぐり。でも、生業にしてなければ加入しなくてもいいから、誰のことははっきりしないとやりようがない。ラザ、出直し」


 レニが肩で息をしている。


 普段はこんなに長いセリフを言い慣れていないのだろう。


 それだけ、ラザが衝撃的だったと言うことなのだ。


 依頼として成立してないことに、レニに指摘されるまで気付けていなかったのだ。


「疲れた……で、アーズ」


「おう、さすがに俺はラザと違ってきっちり話は聞いていたからな。依頼の内容はフォルティア=ホワイトハートって女の子に手紙を渡すだけだ。以上」


「……」


 これでは、アーズも人のことを言えない。


 レニがジト目でアーズのことを見ているが、本人はいたって暢気だった。


「さっきのは誰か分からなったけど、今回は名前が分かってるだけまし。しかも、アーズは舌足らず。もしかしたら、私達、最悪の事態になるかもしれないぐらいやばい……今からでも、このパーティーから抜けたい……」


「えっとねぇ、うん、聞いていてもよく分からなかったからぁ、やっぱりネヴィの依頼を進めるのが一番だと思うのよぉ」


 男二人の内容が惨々たるものだったので、ネヴィが俄然息巻くだけの結果となったようだ。


「うん。レニとしてもそう考えざるを得ない。でも、明日1日はひまになる」


「だねぇ。司祭長様の準備があるからぁ、物理的に明日は何も出来ないのよねぇ」


「……分かってるの?これ、チャンスなのよ?」


 レニが、男性陣二人に発破をかける。


 明日は、ネヴィの依頼は全く無視できるのだ。


 明日、どうするか。


「「チャンス?どういう意味だ??」」


 なのに、男性陣二人のセリフが見事にハモっていた。


 まあ、チャンスではなく、明日がデッドラインというのが本当の所だ。


 明後日からはネヴィの依頼に基づき、この街を離れるのだ。


 明日を逃してしまえば、この街での情報収集が当面できなくなる。


 ……ネヴィの依頼も明確な期限が無いので、カレジスタットへの出立を遅らせて先に十分の情報を集めておくと言う選択肢もあるのだが、どうにもそれらの考えに至ってないようだ。


「明日は、ネヴィの依頼に関することは何もない。ネヴィの依頼に関する情報収集もやる必要はない。……ここまでは分かる?」


 レニの説明に、男二人は頷いている。


「なら、明日、アーズやラザ……今回は圧倒的にラザの依頼に関する情報収集、……じゃない。ラザが受けた依頼そのものの内容を聞きに行かないと全く話にならない」


 きっちりと説明し、どういう意味か分かり始めたようだ。


「あ、ああ、明日はもいちどギルドにいって、きっちり話聞いてくるぜ!」


 とりあえずっぽいラザの条件反射的な回答にレニが釘を刺す。


「依頼に関する情報収集も、明日が重要。分かる?」


「おう?」


「私たち、この後カレジスタットに行く。これ、確定事項」


「「ああ」」


「往復するのに、最低でも何日掛かるか知ってる?」


「??俺は行ったことが無いから分からないな!」


「俺も知らない。ネヴィは知ってるか?」


「知ってるわけない」


 行ったことが無いとは言え、この3人は物事を知らなさすぎるようだ。


 疲れ切った表情で、レニが告げる。


「40日」


「そんなにかかるのか?」


「ちょっと待った!」


「結構かかるのねぇ」


 3人が一様にびっくりしていた。


「オストハーフからセイフェルまで12日、セイフェルからカレジスタットまで10日掛かる。いい馬車を仕立てて急いでも合わせて20日ぐらい。……私は馬に乗れないから、早馬に関しては除外したけど、往復だけでもゆうに1ヵ月半ぐらいはかかる」


「その間、贅沢できるのねぇ、ぐふふ……」


 その話に対して邪なことを考えたのは、もちろんネヴィだった。


 彼女が貰うだろう手形で、最高級の馬車を仕立てる算段なのだろう。


「そ、その間、俺達の依頼は何一つ進まない……ってことなの、か?」


「多分そう。……でもないかもしれないけど、アーズの受けた依頼はアーズがやる。ラザが受けた依頼はラザがやる。私は基本的に関わらないつもり」


「「何だと!!」」


「私、対人スキル全滅。情報収集なんてできない。だから、あなた達の受けた依頼の解決に協力できない。おーけー?」


「「ぐぅ……」」


「あたしもぉ、自分の依頼でぇ、手一杯だからぁ、ごめんねぇ」


 レニが真言魔術師になったのは、人見知りでコミュニケーションを取りたくなかったからだ。


 そして、ネヴィは面倒なことが嫌いなだけだった。


 男性陣二人は、女性陣の協力を得られないままに依頼を遂行することになりそうだった。


「もう夕方。食事して、私もう寝たい」


「分かったわぁ、……おねーさぁん、いつもの夕食お願いねぇ」


「はいはーい」


 レニがぐったりした所で、4人の前には夕食が運ばれて来るのであった。



ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


次話投稿は、4/30(月)あたりではないかと

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