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105 第6話 そして、誰も引けない


***


 その女性が去った後、何かからか解放されたかのようにレニがアーズのことを攻撃し始めた。


 ……劣等感にやられていたのかな?


「なんで、アーズはこんな依頼受けたの?馬鹿じゃないの?」


「おい!それを今更言うのか?」


「私たち、ネヴィとラザの二人の用事が済むのを待ってるの。みんなが揃ってから依頼を受けるのが筋じゃないの?」


「そ、そんなこと言ってると、いい依頼が逃げちまう。依頼がやってくれば、受けるのが冒険者としての心意気ってもんだ!」


「まあ、あの二人はそれぞれ依頼を取りに行ってるわけじゃないから?ここで受けちゃっても、後で説明すればいいの?でも、あの二人が嫌な顔したらどうするの?」


「何言ってるんだよ!俺がこのパーティーのリーダーなんだから、俺が決めたことなら二人に文句は言わせないさ」


 彼は、知らない。


 この時、ネヴィは豊穣神の神殿にて司祭長から、ラザは職業盗賊ギルドにてサブマスから、それぞれが断ることのできない依頼を受けているのだ。


「そうなんだ。アーズって偉いんだね」


「おうともよ。俺がリーダーだからな」


 レニの攻撃は、アーズには全く通用していなかった。



******



 しばらくして、アーズとレニの下にラザが戻ってきた。


 見るからに、顔色が悪い。


「ち、ちょっと、どうしたの?その顔色」


「お、おう……戻ってきたぜ……」


「おい!ラザ!やらかしたのか?」


 アーズが開口一番、トラブルがあったことを確認している。


「……やっちまったよ……」


「どうしたんだ?財布でも落として組合費を払えなかったとかか?はっはは……

 …………え?」


 アーズとしては軽口をたたいたつもりだったのだが、ラザが反応しない。


 その沈黙にレニが堪らず口を開いた。


「なんで、ラザ、そこで黙り込んじゃってるの?」


「……掏られた……」


「そっか、落としたんじゃなかったのか。なら、……って、す」


「うそでしょ。あなた、盗賊じゃなかったの?本職が掏られるの?」


 唖然とする二人に、ラザが見苦しい言い訳を始める。


「ああ、そうだよ!ランクの高い奴にやられたんだよ!」


「ランク高い奴って……」


「あ、アイアンランクだよ!」


「それって、そんなに高い訳じゃないよ」


 その言い訳を聞いてレニは唖然としてしまった。


 ウッドランクとアイアンランクの差は2つしかない。


 ランクの2つ違いは、決定的な差ではないのだ。


 掏りを完全に成功させようとする場合、この差程度ではけっこう難易度が高いのだ。


「で、どうなったんだよ!」


「い、依頼を受けさせられた」


「「…………」」


「ま、まだ次の依頼って決まって無かっただろっ!そんなに難しい依頼じゃないから、協力してくれっ!なっ!」


「「…………」」


「もぐりのハーフリングに話を付けて、オストハーフの職業盗賊ギルドに連れてくればいいだけなんだよ!なっ!簡単だろ?」


「「…………」」


 一人、言い募るラザに対して、アーズもレニも何も言えなかった。


 間が悪すぎると言うのはこのことを言うのだろう。


 ……彼らの受難はこれだけではないのだが。


「何だよ!何か言ってくれよ!何も言ってくれないと、俺が見捨てられそうな気がするんだよ!アーズ、お願いだから、何か言ってくれ!いつものお前なら、『仕方ないな。仲間だろ?一緒にやってやるから気にすんな』とか、言ってくれるよなっ?なっ?」


「……あ、ああ、お、俺たちは、幼馴染、だからな。き、協力は、す、するぞ?」


「ど、どうしたんだよ。……なんか冷や汗かいてないか?大丈夫かよ?」


「は、ははは……ああ、どうにかなるさ」


「どうにかなるって、いつものアーズらしくねえ。どうしたんだよ!」


「あ、ああ、ネヴィが戻って来てから、4人で相談しような。ちょっと、現状を把握させてくれ」


「……自業自得。でも、私も巻き込まれる。つらい」


「???」


 ラザが加わり、3人となったテーブルに変な空気が流れていた。



******



 更に時が過ぎ、遂にネヴィも戻ってきた。


「た、ただいまですぅ……」


 ネヴィにしてはこそこそとした感じだ。


「お、おう。首尾はどうだったんだ?」


 ラザが戻って来てから少し時間がたち、内心はともかく表面上は落ち着きを取り戻しつつあるアーズが尋ねている。


「あ、あのねぇ、このあと、タダでカレジスタットに行きたいなーって……」


「「「!!!」」」


 たったその一言で、すでにテーブルについていた3人は何かを強く感じたようだった。


「ち、ちょっとぉ、何みんなして怖い顔で私のこと睨んで来るのよぉ」


「「「!!!!!!」」」


 2度あることは3度あると、3人の想いが一つになっていたのだ。


「ま、まじなの?その表情、本当にマジなの?まじでやばい奴なの?」


 3人の表情を見て、ネヴィの口調からいつもの癖が抜け落ちていた。


 レニはすでに口から魂が抜け出ている。


 ……開口一番の言葉ですべて悟ったのだろう。


 ラザはテーブルに額を打ち付けている。


 絶望したと言った感か。


 アーズは、固まっている。真っ白だ。


 理解したくない、その一点だろう。


「もしもーし、私、けっこう割のいい依頼を受けてきたんだよぅ、だからぁ、話聞いてほしいなぁ」


 ネヴィとしては、エレニアから受けた依頼は(少なくともその序盤においては)ものすごくおいしいものだと思っていたのだ。


 カレジスタットの往復の旅費がすべて教会持ち。しかも、自分の好きな方法で向えるのだ。


 物見遊山にはちょうどいい。


 レニ以外は、まだカレジスタットに行ったことすらなかったのだ。


「お前もか……」


 なのに、アーズが発した言葉は暗かった。


「何よぅ、文句あるの?私がリーダーに相談せずに依頼をゲットしてきたのがそんなによくなかったのぅ?」


「そうよ、今日、この瞬間だけは、さいあくなのよ」


 レニがはっきりと言い切った。


「あいあくって、何そのひどい言い方!!」


 その言葉にネヴィが強い反発を見せたが、続く言葉を乗り越えることはできない。


「と言うことで、アーズ」


「ああ、さっき、ここで依頼を受けた」


「……」


「次、ラザ」


「職業盗賊ギルドで、依頼を受けた」


「…………」


 ネヴィは何も言えない。


 そして、ネヴィにも番が回る。


「で、ネヴィ」


「教会で、依頼を受けた」


「つまり、今、私たち、3つも依頼受けちゃったの。出来るの?無理よね。出来ないよね。私は、無理よ」


 レニがそう言って3人の表情を見ると、一様に気まずそうにしている。


「で、受けた依頼を断ること、できないかな?」


「お、俺の受けた依頼はもう手付を貰っている。それに、依頼人はもう行ってしまったからな!断りようが無い!」


「職業盗賊ギルドのサブマスからの依頼なんだ。それに、俺の不手際の禊もあるから、ここで断るわけにはぜってーにいかねーよ」


「エレニア司祭長からの依頼なのですよぉ。それに、ちょーっちやらかしちゃってるので、断ると言う選択肢はないですぅ」


 それでも、三者三様に断ることはできないとのたまっていた。


 それぞれの依頼を受けた状況を考えれば、無理だということは分かる。


「や、やるしかないだろ?俺の依頼は期限ないしな!」


「俺っちの依頼も期限ないから、どうにかなるさ!」


「私の依頼は、手順決まってるのですよぅ。……ならぁ、私の依頼を優先してくれるかなぁ?」


 そして、3人ともすべての依頼を同時にこなしてしまおうと提案していた。


 その言葉をただ、無表情でレニは受け止めるばかりだった。




ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


次話投稿は、4/15(日)あたりまでには……

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