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103 第4話 猿も木から……登れてないね



 ネヴィが豊穣神の神殿で窮地(?)に立たされている頃、別の場所で窮地に立たされている者がいた。


 ラザである。


 彼は、ネヴィの幼馴染の一人であり、駆け出しの職業盗賊であった。


 彼は今、滝のような脂汗を流し続けていた。


(ど、どうするってんだよ!)


***


 時はほんの少しさかのぼる。


「じゃあ、俺もちょっくら行ってくるわ」


「ああ、くれぐれもトラブルは起こすなよ!」


「わーってるよ。今年度の組合費払ってくっだけだからよ、トラブるわけねーじゃん」


 身軽な格好をした青年が出て行き、残された者達がため息をついていた。


「……あれで、ネヴィに負けず劣らずのトラブル体質ってどうなの?」


 明らかに魔術師っぽいローブを着た女の子(レニ)の愚痴に対し、戦士の出で立ちをした青年アーズが応えている。


「おかげで、毎日が楽しんだから、俺は彼らに感謝してるんだぞ?」


「退屈は、しないわね」


「ああ、本当に俺はツイてたな!魔術師の資格を取りに行ってた幼馴染とばったり再会できるんだから。戦士と職業盗賊と信仰魔術師の3人だけじゃ、ちょっと火力が足りなかったから、レニをスカウトできてよかったぜ!」


「何、ずっと張り込んでて、待ち伏せし続けていたくせに」


「……そんな事はどうでもいいじゃないか、どうせネヴィもラザも絶対にいい感じのトラブルを抱えて戻ってくるさ!そしたら、新たな冒険も幕開けだぜ!」


「本当に、アーズは暑苦しいわね」


「レニもそういいながら、律義について来てくれるんだから、信頼してるぜ」


「もう、訳のわからないことを」


 戦士と、魔術師の二人はのんびりと酒場で帰りを待つのだった。


***


 酒場から、彼……ラザことグラザールの目的地まではそんなに離れてはいない。


 同じブロックにある。


 のだが、セイフェルでも下町、いや、裏街的なこの辺りは道は狭く、人も多い。


 そして、圧倒的に柄の悪い人間が多い。


 ラザは、酒場を出てから何度か人にぶつかりながら目的地に向かっていた。


 気が急いていたのだろう。


 いちゃもんをつけることなく、つけられることもなく通りを駆け抜けた。


 なので、彼は職業盗賊だと言うのに、気が付けなかったのだ。


***


「それでは、本年度の組合費をお支払いください♪」


 ラザの前に立っているのは、セイフェルの職業盗賊ギルドの出納係である女性だ。


 少し浮き浮きしたような感じで請求している。


「お、おう、確か1000Gでよかったよな?」


「ええ♪グラザールさんはウッドランク(超駆け出し)ですから、1000Gでございます♪」


 その言葉に、彼は懐から中宝石(1000G)の入った革袋を出そうとした。


 ごそごそごそ……


「あのう?グラザールさん?どうかされましたか♪」


「えーと、ちょ、ちょっと待ってくれっ……いま、出すからよ……」


 言葉にも威勢がなくなっている。


 出納係の女性の声は呼応して弾んでいた。


 あたかも、そうなることが分かっているかのようだ。


「もしかして?今日が納入期限だと言うのに?たった1000Gぽっち、用意できてなかったとか?そう言うことなんですか♪」


「い、いや、そうじゃなくてだな……」


「まだ、ウッドランク(超ひよっこ駆け出し)のくせして、あれだけ泣き言ばかりだったラザ坊が、ここまで育てたギルドに恩を返すことすら、出来ないのですか♪♪」


「……」


(どうするってんだよ!さ、財布がねえんだ。確かに、持ってたはずなのに……。今から酒場に戻ってアーズに借りるか?)


 脂汗を滝のように流すラザの前で、女性が畳み掛ける。


「もしかして、逃げようとか思っていませんか?ここまで来たのですから、払って戴けないことには、お返しすることはできませんよ♪」


「……」


 その言葉に、何も返すことが出来ていない。


「まあ、ラザ坊が組合費を払えないことぐらい、お見通しなんだけどねっ♪」


 女性が、小さな革袋をお手玉する。


 中にはなにか中ぐらいの宝石が入っていそうな感じがする。


 どうやら、ラザには見覚えがありまくりの物だったらしい。


「お、おいっ……そ、それ!」


「これぇ?さっきねえ、うちのアイアンランク(駆け出し卒業レベル)の優しい優しい組合員さんが、落としものだって言って届けてくれたものよ?普通なら、そんな親切なことはしないわよねえ」


 アイアンランクと言うのは、ウッドランクから見れば二つ上。



  ウッドランク……スキルを習得しただけの超駆け出し

  レザーランク……駆け出しに毛が生えたぐらい

  アイアンランク……駆け出しは卒業

  ブロンズランク……普通に活躍してます

  カッパーランク……兵士なら隊長級?

  シルバーランク……この辺りからヤバい

  ゴールドランク……1国に1人ほしい

  プラチナランク……歴史に名を残せる

  ミスリルランク……そんなのはまずいない

  ブラックランク……伝説になってます

  レインボーランク……うそつき



 ランクは11に分かれている。


 各組合(ギルド)毎に呼び方は違うこともあるが、どこでも似たような感じである。


 ラザの目の前にいる出納係の女性は、実の所はシルバーランク(サブマス)である。


 職業と言う冠は付いているが、盗賊ギルドである。


 手癖の悪い者達の集まりと言っても過言ではない。


 なので、金銭を扱う物は実力でねじ伏せる必要があるのだ。


 もちろん、ラザも目の前の女性からしょっぱなにコテンパンにされている。


「本当に、キミって、分かりやすいよねえ?」


「うっ……」


「ここ、どこだと思ってるの?君にプロ意識ってものある?ないよね♪」


 ジト目でラザのことをなじっている。


「こんな所に来るのに、全く周囲のことに気を配ってなかったじゃない?だめよお?お仲間だからって、容赦するような所じゃないの。そんなことも覚えてないの?本当に脳内お花畑ね?」


「じ、じゃあ、組合費払えない俺はどうなるんだよッ!」


 意を決して発言しているが、ラザのそれは後ろ向き以外の何物でもない。


 早い話が白旗を上げたのだ。


 ……そもそも、周りに注意を払わずに懐からすり取られたラザが悪いのだ。


 それでも、用心深い者なら、別の場所に予備を持っておくとかするだろう。


 すぐ近くだからと、懐に中宝石一つだけを忍ばせて、簡単に掏られた揚句予備すら持っていない。


 まるっきりラザが馬鹿なだけだ。


「ルールだと、職業盗賊としてこれから先仕事できないように、指を何本か落としてもらいますかね?まあ、初心者だし、命はとらないわ。……待ってくれとは、言わせないわよ」


「ど、どうすればいいんだよぉ!」


 逆転の目は、ラザには与えられていなかった。


 目の前の女性のさじ加減ひとつだった。


「じゃあねえ、やってほしいことがあるのよ。受けてくれたら、本年度の組合費は免除してあげる」


「お、おう。き、聞いてやろうじゃないか」


「ふーん、そんなこと言うのね?へそ曲げちゃうぞ☆」


 男と言う物はどうしてこんな所でイキがってしまうのか?


 せっかくのチャンスを棒に振ろうとしている。


「す、済まねえ……」


「まあ、謝ってもらったし、キミにお願いしたい依頼のこと、話してあげる」



ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


次話投稿は、今月中には。

筆が乗れば更新できますが……

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