101 第2話 後ろめたさにつけ込まれる
本章は、慣れない3人称で物語を進めております。
申し訳ありませんが、お付き合いください。
「何で私が呼ばれちゃうのかなぁ」
いかにも荒くれ者とか、冒険者とかがたむろしてそうな安酒場で若い女性が愚痴をこぼしていた。
そのテーブルには彼女を含めて4人の若者が座っている。
男性2名、女性2名の構成だが、どうやらナンパや合コンと言った類ではないらしい。
「どうしたよ、ネヴィ、いきなりアンニュイな雰囲気じゃねーか」
隣に座っている男性が声を掛けていた。
そう、ため息をついたのはネヴィであった。
「さっき、神殿から呼び出しを喰らったんですぅ。2日前に当番だったのに、早すぎですよぅ」
「おいおい、何かやらかしたんじゃねーのか?ネヴィが抜けると俺たち困るんだよ」
「分かってますよぉ。私はこのパーティーで唯一の回復役ですからねぇ」
若干どや顔気味に答えている。
しかし、周りの者達にそのどや顔に苛ついている感じはない。
「ラザは職業盗賊、アーズが戦士。レンも魔術師だから、回復できるのはネヴィしかいない。だから仕方ない。抜けられたら崩壊する」
解説気味ではあるが、向かいに座っていた物静かな女の子が的確な指摘をしていた。
「そうなんだよな。俺達は4人パーティーだから、誰がいなくなっても困るんだ!……でも、ネヴィ、その呼び出しに心当たりはないんだよな?」
「この前の当番も別に何も問題起こさなかったですよぉ。……司祭長様に温いお茶を出して怒られたくらいですかねぇ」
アーズと呼ばれた男が、ネヴィに向かって強い口調で質問するものの、ネヴィは我関せずと言った感じで答えている。
今までの会話で想像がついたとは思うが、彼ら4人は冒険者であった。
と言っても、まだパーティーネームすら決めていないような駆け出しだ。
「あー、やっぱりネヴィ、やらかしてる」
「こう言うのって、ネヴィらしいんだが、やな予感しかしねーぜ」
「参ったな!でも、俺は何かわくわくするぞ?何かの始まりみたいじゃないか!」
「出たよ、アーズの超ポジティブ思考」
「リーダーは、これぐらいじゃないと無理」
「めんどくさいですけどぉ、行ってくるですぅ」
ネヴィが席を立ち、神殿へ向かって行った。
******
ネヴィが神殿にやってきた。
関係者用の裏口から入り、少し進んだ所にあるカウンターで担当の者に聞いている。
「あのぅ、グィネヴィアですけどぉ、お呼び出しがあってきたんですがぁ、どこに行けばいいんでしょうかぁ」
「ああ、グィネヴィアね?ちょっと待ってね。今確認するから」
カウンターにいた担当の神官が確認している。
ちなみに、カウンターでの受け付けの仕事だけは持ち回り制ではなく、専属の神官が付いている。
このオストハーフの豊穣神の神殿に籍を置いている神官たちの、顔と名前を一致させておかないといけないのだ。専属にしないとたまったものではない。
「えっと、グィネヴィアっと、……エレニア司祭長からの呼び出しとなっています。今回は執務室への呼び出しになっていますね……ネヴィさ、今度はなにやらかしたのよ?」
「えー、この前は司祭長様に温ーいお茶出してしまっただけですぅ」
「温ーい……ねぇ、お得意の悪い癖ってやつ?ほどほどにしとかないと身を滅ぼすよ?」
受付係の神官がネヴィに注意をしているが、当の本人は全く悪びれる様子もない。
「えー、犯罪を犯してるわけじゃないですぅ。なので、問題ないですよぅ」
「これだから……そのまま行ってくれたらいいわ。今日は特にお客さんは来てないみたいよ」
周りの心配もどこ吹く風と言った感じで、ネヴィはエレニア司祭長のいる執務室へと向かって行ったのだった。
***
「グィネヴィアですぅ……呼び出しを受けましてまいりましたぁ。司祭長様、本日はどのようなご指示を頂けるのでしょうかぁ」
「グィネヴィアですね。本日は担当日でもないのに私の命に従い召喚に応じ感謝しています」
「いえいえー、この地区で最も権威のある司祭長様の命をすっぽかす真似なんでできないですよぅ」
どうにも、このグィネヴィアと言う女性は無神経なきらいがあるらしい。
どうにも、目上の人に対して正しい言葉遣いが出来ていない。角が立っている。
「貴方がオストハーフに居なければ、召喚に応じることがそもそも不可能でしょう?」
「(ぎくぎく)い、いえー、私が勝手にどこかに行くなんてそんな事、ないですよぉ」
エレニア司祭長の言葉には若干のとげが含まれていた。
……いや、とげではない。ある意味当たり前なだけだ。ただ、その言葉がネヴィに対して効いただけである。
神官は大きく分けて2種類いる。
冒険者の神官か、
冒険者でない神官か。
冒険者たる神官は、お勤めが無い代わりに給金もない。神殿に用がある場合はお布施と言う形での利益還元が必要だ。
冒険者でない神官は、お勤めがある分、給金がある。無料で神殿での修行もできる。
で、このネヴィは、『冒険者ではない見習い神官』としてこのオストハーフの神殿に所属している。
この神殿には多くの見習い神官がいるため、お勤めも当番制で週2日程度なのだ。
こちらの方がいいからと、冒険者であるにも拘らず、見習い神官としてちゃっかりお給金とかを貰っていた。
それができるのは、冒険者と言う職業に対する何らかの決まりがないことにある。
誰が冒険者なのか、きちんと把握している者などいないのだ。
「さて、そんな貴方にうってつけの仕事をお願いしたいのですよ」
エレニア司祭長の口調は静かではあるが、言外に、『断ったら酷いわよ?』オーラを発していた。
「うってつけ……ですかぁ?」
その雰囲気に恐れをなしているかのようなおずおずとした口調だったものの、どちらかと言うと『面倒なことは嫌だなあ』と言った感の強い返答に聞こえる。
「ええ、『依頼』を出したいのですか、引き受けては頂けないでしょうか?」
エレニア司祭長はにこにことした表情を崩さずに、ずかずかと踏みこんでいく。
「す、すみませんー。私一存ではぁ、決められないのですぅ」
それが、ネヴィの痛恨のミスとなった。
しらばっくれるのであれば、この言葉の選択はあり得ない。
おそらく、ネヴィはいっぱいいっぱいだったのだろう。
「では、どなたに確認すればいいのかしらね?」
「それはもち、ろ、ん、……リー……ダー…………うぐ」
迂闊もうかつであった。
「ですが、いいのですか?引き受けていただけるのであれば、今までのことは目をつぶってあげようかとも思っていたのですけどね。私は確かに豊穣神の神官ではありますが、その前にこの神殿を預かる身でもあります。秩序……」
「えーとですねぇ、えーとですねぇ、ええ、何でも申しつけくださいぃ。私がメンバーを説得いたしますからぁ」
すぐさまネヴィは白旗を上げた。
エレニアも猛者なのであった。
「お願いいたしますね。もし、依頼できないという事態になれば……分かっていますね?」
「は、はいぃぃ」
今、ばれてしまった時のリスクがネヴィには耐えられなかったのだ。
……ネヴィがちょろまかしていた諸々がどれだけだったのかは、彼女の必死な表情を見れば想像がつくだろう。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
引き続き、次話投稿については書けたらと言う形といたします。
できれば、1週間以内で次を投稿したいとは思っております。