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ロストワールド・メモリー

作者: 安芸咲良

 どこまでも広がる深い深い闇。でも真っ暗なだけではない。いくつもの光る星が浮かんでいる。

 ここは空気のない宇宙。厚いガラス窓の向こうには、天体観測を楽しめる。故郷の星を飛び出した僕はいま、宇宙船の中にいる。いままでは見上げていた星が目の前にあることで、僕はぼんやりとこうなったいきさつを考えていた。

 終わりの見えない内乱に、愛想を尽かしたのは僕だけではなかった。

 一人一台、宇宙船を持つ時代。僕も二人乗りの宇宙船を買ったばかりだ。若い世代の宇宙船購入率は年々上がっているという。そしてこの国に未来はない、と宇宙船に乗って旅立ち、惑星ごと国を捨てる者が多かった。

 ニュースでは国の人口減少を嘆いている。知ったことか。お偉いさんがちゃんとしないから、若い世代がこの国をどうにかしようと思えないんだ。

 そういうわけで、僕はひとりで宇宙飛行を楽しんでいた。行き先は知れない。厚いガラス窓の向こうを流れていく星を、僕は見るともなしに見ていた。


 ビー! ビー! ビー!


 その時だった。船内を非常時警報が鳴り響く。

『警告、警告。機体ニトラブル発生。近隣ノ星ニ着陸ヲ開始シマス』

 はぁ!? この宇宙船はまだ新しいのになんで故障するんだよ!

 僕は焦ってなんとかしようとするけれど、警報は止まらない。

「くそっ!」

 どうすることもできないまま、宇宙船は高度を下げていった。


   *


 機体のトラブルと言ったけれど、宇宙船は無事にひとつの星に着陸した。なんだったんだよもう……。

 船内を隈なくチェックしたけれど、故障は見当たらない。残すは船外だ。

『スキャン完了。半径百キロメール圏内ニ生体反応ナシ。大気ノ値、マスクノ必要ハアリマセン』

 生身で出てもいいのか。僕は少し悩んでから、ハッチを開けた。

 外はまるで未開のジャングルだった。鬱蒼と木々が生い茂り、どこまでも続いている。光のすじが幾本も見えるのは、葉の隙間から漏れてきているからだろうか。水があるようで、どこからか川のせせらぎのような音が聞こえる。

 ただ、衛星チャンネルで見たような、動物の鳴き声は聞こえなかった。ナビが言ったように、この近くに動物はいないらしい。もしかしたら星自体に動物が存在していないのかもしれない。

 とりあえずは安全だろう。僕が船外を確認することにした。

 故障した箇所はなんてことはない、ハッチの留め具の螺子が馬鹿になっていただけだった。だがこのまま飛ぶのは無理そうだ。たぶん、途中で瓦解してしまう。

 さて、どうしたものか。通信系等は生きてるから、家族か友人に連絡はできなくもないが……。

 さわさわと風が木々を揺らす。僕は辺りを見回した。

 こんなに自然が残ってるとこなんて、衛星チャンネルのフィクションでしか見たことがなかった。植物は空気を綺麗にするとかいうけれど大気は機械で管理されてるし、僕らの世代はホログラムの木しか見たことがないやつばっかりだ。

 僕はその葉に触れた。

「柔らかい」

 本物の植物を見たことがないわけじゃない。普段の食事で目にしている。

 だけどこうやって土から生えている植物に、見るのも触るのも初めてだったのだ。

 僕の国も、数百年前はこんな景色が広がっていたらしい。畑や田んぼといったものもあったという。

 今では見る影もない。コンクリートで固められた町並みは、整っていて綺麗だ。食用植物は、全部機械で完全に管理されて育てられている。

 加えてここ数年は、内乱が続いている。瓦礫の山となった町も、ひとつやふたつではない。

 荒れた大地は心も乾かせていたらしい。この風景を見て、心落ち着く自分がいた。

 僕は目を閉じて、空気をめいっぱい吸い込んだ。これが草いきれというやつか。

 しばらくそうしてじっとしていた。なにも考えずに風を感じるなど、あの星にいた頃には思いもしなかったことだ。

 こんなに心落ち着く場所があるなんて、知らなかった。

 その時だった。ガサガサと背後の草むらから音がした。明らかに風が草を揺らす音ではない。僕は勢いよく振り返った。

 そこにいたのは、女の子だった。

 ブロンドの長い髪を耳の辺りで二つに結び、青い瞳は不思議そうにこっちを向いている。刺繍の入った赤いチュニックに、黒いパンツを着ている。チュニックの裾が風に揺れた。

「……誰?」

 ナビは二百キロ圏内には人がいないと言っていたはずだが。高速移動でもしてきたのだろうか。

 訝しげな目を向ける僕に、女の子の表情はぱあっと明るくなった。

「こんにちは! あなた誰? どこから来たの?」

言葉は通じるのか。こんなに警戒心なく声を掛けてくるとは、この星の生物は僕と同じような姿らしい。まぁそれなら好都合だ。

 僕は上を指差した。

「空から」

 この星の文明水準がどのくらいかは分からない。どう取られるだろうか。

 女の子はきょとんとした。

「あははは! あなた面白いのね!」

 どうやら冗談と思われたらしい。宇宙に行くほどの文明はないのか。

 そうなると困りものだ。ここには船の修理に使える部品がないということじゃないか。

「あたしリア。あなたの名前はなんていうの?」

「……大地」

 僕が答えるとリアは満足そうに笑った。

 まぁいいか、彼女に危害を加えられることはなさそうだ。

「それで、大地はなにをしているの?」

 リアは僕の隣まで来てしゃがみこんだ。僕は気にせず修理を続けるつもりだったけど、こう邪魔されては堪らない。適当に答えてどっかに行ってもらおう。

「船が壊れたんだ。その修理をしている」

 リアは「ふーん」と相槌を打った。空から来たというのを冗談と思ったくらいだ。宇宙船の修理と言っても信じていないのかもしれない。

 あんまり聞かれると、はっきり言って邪魔だ。どうしたらどっかに行ってもらえるだろうか。

「これ、螺子を変えた方がいいんじゃない?」

 そう考えていたのに、そんなことを言われて僕は思わず目を剥いた。リアは一瞥しただけだ。なぜ分かったのだろうか。

「もしかして部品ないの? あたし、ある場所知ってる! 行こ!」

 リアは立ち上がると僕の手を引いた。むりやり立たされて、彼女は僕の返事も待たずに走り出す。

「ちょ……ちょっと!」

 抗議の声も聞こえていないようだ。僕の手を引くリアは森の間を駆け抜けていく。

 流れていく景色は、見たこともない植物ばかりだった。赤や青や黄色。カラフルな植物が競い合って生えている。茶色の木の幹に、緑色の蔦が絡まる。

 こんなに色鮮やかな風景は、故郷にはない。もう遠い昔に失われてしまったものだ。

 座標を取って帰ろう。

 そう考えてはっとした。まだ僕はあの星に帰るつもりなんだろうか。

 争いはなくならず、自然なんかこれっぽっちもなくて。そんな故郷に嫌気が差して星を出たはずだ。

 無意識に帰ることを考えていた事実に、愕然とする。

「ほら、あそこよ!」

 僕の様子に気付かずに、リアは立ち止まった。

 リアが指差す方角には、巨大な建物が広がっていた。

 例えるならドームだ。白いつるりとした丸いドームが眼下には広がっている。この高さから見てあの大きさだ。近くまで行ったら圧倒されるだろう。

 誰だ、文明水準が低いなんて思ったやつは。こんなに巨大なドームを作る技術があるんじゃないか。

「さ、行きましょ」

 リアはまた僕の手を引いて歩き出した。


   *


 予想以上にドームは大きな建物だった。

 ここまで自然に囲まれた場所だ。空気清浄器は必要ないようだが、空調で快適な温度に保たれている。

 リアは僕の前を勝手知ったる様子で進む。どうやら外側の壁に沿って廊下は続いているようだ。ゆるくカーブのついた通路を僕らは進んでいた。ところどころに窓がついていて外の様子が覗けるが、あいかわらずの木々しか見えない光景だった。

「ここ、君の職場かなにかなの?」

 リアはくるりと振り向いた。後ろ向きに歩きながら答える。

「『君』じゃなくて、『リア』。ここはあたしの家よ」

 実験施設かなにかと思ったけど違うのか。名前で呼べと言われたことは、聞かなかったことにする。

「君、随分大きいとこに住んでるんだね。家族とかは?」

 リアはにっこり笑うと、また前を向いてしまった。聞かれたくないことだったんだろうか。まぁいい。そこまで知りたいわけじゃない。

 ドームには人の気配は感じられない。もしかしたらひとりで暮らしているのかもしれない。だから淋しさに耐えかねて、人懐っこく話しかけてきたんだろうか。ならばあんまり邪険にするのも悪い気がする。

「ここよ!」

 リアはひとつの扉の前で立ち止まった。開かれた扉の先の光景に、僕は言葉を失った。

「きったな……」

 その部屋はこれでもかというほどに散らかっていた。壁際にはおそらく棚があるのだろう。その棚には段ボールやプラスチックの箱が置かれていて、箱からは乱雑にいろいろな部品が顔を覗かせている。パーツごとに分けられていないのだろう、どう見てもごちゃまぜだ。

「……この中から探すのか?」

「そだよー。ハカセは片づけ苦手だったからなー」

 博士? 僕は聞こうとしたが、リアは腕を回しながら部屋の中にずんずん進んでいってしまう。

「本当にここにあるのか?」

「あるよ! あたしの記憶は間違いない!」

 それが本当だとしても、このゴミ部屋だ。見つけるのにどれほどかかるか考えて、僕は深い深いため息をついた。


 僕らは両端から探していった。先が見えなくて心が折れそうになるが、部品がないと帰るに帰れない。

 その間、リアのマシンガントークは止まらなかった。

「あっ、これはあたしが初めて解けた知恵の輪だ!」

「んん? このクッション、なんでここにあるんだ? 第二倉庫に置いてたはずだけど、ハカセ移動させてあたしに教えてなかったなー?」

「大地! あの宇宙船は何人乗れるの?」

 それらの言葉に僕は生返事をしていた。手を動かせ手を。

 僕が「ちょっと黙って。集中できない」と言うと、彼女は少ししょんぼりしたけれど部屋に静寂が満ちた。ただし十五分毎にそのセリフを言う羽目になったけど。

 窓からは夕日が差し込んでいた。この星にも夕暮れがあるのか。僕の星の夕暮れはどうだっただろうか。襲撃に怯える日々に、落ち着いて夕日を見ることなど忘れてしまっていた。

「あー! そうだ!」

 僕がぼんやり外を眺めていると、急にリアが叫んだ。僕はびくっとして彼女の方を見る。

「な、なに!?」

「ハカセの部屋にもあの部品あったんだった! あたし取ってくるね! ちょっと待ってて!」

 そう言うが早いかリアは立ち上がると、あっという間に部屋を出て行ってしまった。

 引き止めようとして行き場の失った手を、僕は力なく降ろした。

「なんなんだよもう……」

 さっきからリアには振り回されっぱなしだ。今まで僕の周りにはいなかったタイプで、どう扱ったらいいのか分からない。

 何というのだろう。妹キャラ? ひとりっ子の僕には、未知の存在だ。周囲にも年下の女の子なんていなかった。まぁ彼女なんてのもいなかったわけだけど……。

 女の子の扱いに慣れていないからって、ちょっと対応が冷たかったかもしれない。仮にも僕の船の部品を探してくれているんだ。戻ってきたら、もう少し優しくしよう。

 リアはまだ戻ってきそうにない。僕はとりあえず探し続けることにした。

「うわっ……と!」

 上の棚からドライバーを引き抜こうとして、中身がガラガラと崩れ落ちてきてしまった。慌てて避けたけれど、床に物が散らばる。

「しまった……」

 僕は散らばった部品を前に途方に暮れた。それらの部品を見下ろしてしばらく考える。これだけ散らかってるんだ。ちょっと散らかったものが増えても、なんてことないかもしれない。

 そんな考えがよぎったけれど、部品をもらいに来てるんだ。そういうわけにはいかないだろう。リアが「なんでさらに散らかしてるのー!?」と言っているところが脳裏に浮かんだ。

 僕はため息をついて、拾い集めることにした。

「おわっ、と……?」

 プラスチック板のようなものを手にしたときだった。ブンっと低い音を立てて、目の前にホログラムが浮かぶ。

 その映像に僕の目は釘付けになった。


『メモリア・シリーズ03 LiA』


 映像は切り替わっていく。そこに表示されていたのは、リアの画像だった。必要なパーツ、込み立て手順、半導体の縮小案、そんなものが記されていた。

「大容量記憶媒体『Memoria』プロトタイプ03『LiA』……それがあたしの本当の名前」

 いつの間に戻ってきたのだろう、扉の前にはリアがいた。

 リアは近づいてきて、僕の手元のプラスチック板をいじる。

「技術の進歩にしたがってね、たくさんのデータを保存できる媒体が必要になったの。人格を持ったメモリー、それがあたしたち『メモリア・シリーズ』。その三番目としてあたしも開発されてたんだけどね」

 映像の文字には全て(仮)がついていた。僕は隣に座るリアの顔を見た。彼女の目と僕の目が合う。リアは悲しそうに笑った。その文字が示すことはひとつ。

「……実用化、されなかったの?」

 リアは僕の手からプラスチック版を取ると、するりと立ち上がった。映像は消えてしまう。リアはそれを棚にしまった。

「その前に戦争が起きたの。この星全部を巻き込んだ、世界大戦」

 僕ははっとした。豊かに広がる自然。不自然に残る高度な技術。

 この国は、この星は――

「全部全部なくなっちゃった。草花も、綺麗な空気も、武器も……人間も」

 自然が残されてたんじゃない。人がいなくなったから、復活した環境なんだ。

 人がいなくなってから、どれほどの年月でこの自然が戻ってきたのだろう。どれほどの月日を、リアはひとりで過ごしてきたのだろう。

 誰もいなくなった星の記憶を刻みながら。

 リアはくるりと振り返った。そこに悲しみの色はない。最初に会ったときのように、屈託のない笑みを浮かべている。

「あたしこれでもすごいのよ? この星が生まれてから現在までの歴史がすべて詰まってるの! 例えば今夜のおかずのレシピなんかもね」

 リアはそう言ってウインクをきめる。僕はなにも言うことができなった。

 どうしてそんな顔で笑えるんだ? 機械だから? でも彼女は人格を持ったメモリーだと言った。ここまで技術が発展した星だ。リアが感情を持っているのは間違いない。

 言葉を失った僕に、リアは苦笑する。そしてずいっと顔を近づけてきた。

「ね、大地はよその星から来たんでしょう? どんなところなの?」

 きっとリアは最初からあの船が宇宙船だと気づいていた。気づいた上で助けようとしてくれたんだろう。

 それなのに僕は、変なプライドが邪魔をして彼女に優しくすることができなかった。彼女は明日も想いを伝える相手がいるとは限らないことを知っている人だったのに。

「僕の星は……僕の国は、ずっと内乱が続いている」

 リアはうっすらと笑みを浮かべて僕の話を聞いていた。

 本当は話したくなんかなかった。だってあの星は、この星と同じ運命を辿ろうとしている。

 発展しすぎた文明は競争に競争を起こし、誰も彼も引こうとしない。自分の権利ばかりを主張し、正義を謳って議論は平行線を辿る一方だ。とうとう武力の介入を許してしまった。

 聞かせたら、きっとリアを悲しませてしまう。

 俯く僕を、包み込む手があった。

「つらかったわね」

 リアだった。

 リアの優しい声と優しい腕に僕は包まれる。

 涙が一筋零れ落ちた。

 戦いたくなんかなかった。どうして話し合いで解決できない? どうして折れることができない?

 内乱には一般市民も狩り出され始めていた。もう泥沼だ。逃げ出す若者がいてもおかしくない。

 僕もそのひとりだったんだ。将来、あの国を担うなんて考えられない。どうしようもない大人たちが作った社会を守るなんてまっぴらだ。

 そうやって立ち向かおうともせずに、星を捨てたんだ。

 いつかはリアの星のようになってしまうかもしれないのに。

「まだ滅んでないのね。ねぇ大地、怒るかもしれないけど聞いて? あたしを作ったハカセはね、未来に可能性を繋げたくて、あたしを残したの。自分たちのあやまちを、いつか誰かに伝えるために。滅んでしまったら、もうどうすることもできないわ。まだ間に合うのなら、戻ってほしい。この星のようにならないために」

 リアはそう言うと、僕の手になにかを握らせた。それは螺子だった。

 彼女の記憶は正しかった。確かに螺子は存在したのだ。リアが言った「これでもすごい記憶媒体」というのは本当だったらしい。

 伝えなければ。感謝と謝罪を。

 僕が口を開こうとした瞬間、リアががくんと膝をついた。

「リア……?」

「ごめんなさい……もうバッテリーが残ってないの……」

 リアは苦しそうな表情で言う。機械だけれど、意志を持つリアだ。バッテリーがなくなると苦しいのかもしれない。

「そんな……。充電は!? 予備のバッテリーとか!」

 リアは横に首を振った。

「試作機だから、他にバッテリーはないの。ハカセはすごい人だったから、今まで持ったけど、もう駄目みたい……」

 僕のせいだろうか。僕が彼女を働かせたから……。

「大地のせいじゃないからね。物音がして見に行ったのはあたしの意思だし」

 心を読まれたのかと思った。いや、そうじゃない。記憶媒体だ。これまで記憶した情報から僕がどう思ったのかを判断したのだろう。

 記憶媒体。ただの機械だ。

 なのにどうして、彼女が倒れたことがこんなに悲しいんだ?

「でも、もうちょっと動いていたかった……。もう一度、人々が動く姿を見たかった……。記憶の中だけじゃ淋しいよ……」

 リアの目がゆっくりと閉じていく。もうバッテリーが空になるのだろう。

 僕は彼女の手を掴んだ。

「なら来ればいい! 一緒に僕の星へ行こう! 僕の星にはまだたくさんの人がいるよ。誰かリアを直せる人がいるかもしれない」

 言った瞬間、リアは驚いたように目を見開いた。そしてふわりと微笑む。

「うん……その日を待ってる」

 そう言うと、今度こそ目を閉じてしまった。

 僕の頬を、また涙が一筋流れていった。


   *


 リアにもらった螺子は、ぴったりはまった。修理はすぐに済んで、僕は次の日の朝には出発した。

 目指す場所はひとつ。

 厚いガラス窓の向こうを、星が流れていく。硬く目を閉じたままのリアには、それが見えていないのだろう。いつか見せることができるだろうか。僕の戦いはこれからだ。内乱を終わらせて、再び宇宙に旅立つには長い月日がかかるのだと思う。

 国に戻っても、ただの一市民である僕ができることは少ないのかもしれない。だけど、なにも行動を起こさずに国が滅ぶのだけは嫌だった。最後まで足掻いてみたい。

「リア、僕は君に自慢できる星になるといいと思うよ」

 まずは星を離れた友人たちを呼び戻すところからだ。

 受話器を手に取った僕の後ろで、リアが笑った気がした。

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