漫才脚本「ことわざを今風に」
A……ボケ担当。B……ツッコミ担当。
コンビ名は考えていないので☓☓としました。
A・B、ステージに上がる。
A「どうも~☓☓です!」
B「よろしくお願いしま~す!」
A・B、観客に向かって軽く頭を下げる。
A「B君。俺最近ね、時代の流れって恐ろしいな~って思うのね」
B「しょっぱなからヘビーな話題を振ってくるね」
A「特にそれが顕著なのが、ことわざだと思うの」
B「何ゆえ?」
A「例えばさ、かわいい子には旅をさせよ」
B「ああ。かわいい自分の子だからこそ、遠くに旅立たさせて苦労させなさいって奴ね」
A「昔は交通機関もへったくれもなかったですから、旅ってものすごく大変なものだったと思うんです。だけれど今や、新幹線が地を走り、飛行機が空を舞うご時世。もはや、旅イコール旅行。バカンスですよ。子供、めっちゃ喜びますよ!」
B「まあ。そう考えると、今時の人には意味が伝わりづらいかもしれませんね」
A「ですから俺は、ことわざを今風にアレンジして後世に伝えるべきだと思うんですよ」
B「じゃあ、さっきのかわいい子には旅をさせよはどうするの?」
A「かわいい子には……地獄を見せろ」
B「いや、それ、やり過ぎだから。絶対子供のこと、かわいがってないだろ」
A「あと他にも、縁の下の力持ちとか」
B「有名な奴じゃないですか。縁側の下から家を支える柱のように、人知れず周囲を支えている。誰でも知ってるでしょ」
A「でも縁側って、和風の建物にしかないんですよ。今時の人が住んでるのって、どうせアパートとかマンションとかダンボールハウスとかでしょ」
B「最後のフレーズだけ、ものすごく偏見に満ち溢れてますけどね」
A「だから、このことわざもアレンジすべきだと思うんですよ」
B「どういう風に?」
A「妻の横の、荷物持ち」
B「うっわ、旦那さんかわいそう! 確かに人知れず役立ってるけど、それはどうかと思うよ?」
A「あとねえ、猫に小判」
B「いやいやいや。これはわかるでしょ」
A「でも、小判って言われても正直ぴんとこない人もいると思うんですよ」
B「そうかなあ?」
A「現に俺も、そうでしたから」
B「お前が馬鹿なだけじゃねえか!」
A「だから、これもアレンジすべきだと思うんです」
B「どうやって? (少しいやらしそうに)まさかと思うけど、猫に万札とか言ったりしないでしょうね?」
A「……」
A、気まずそうにしながら黙り込む。
B「えっ! マジでそう言うつもりだったの? 嘘っ。何かごめんね!」
A「(ケロッとしながら)お次は、早起きは三文の徳」
B「あ、なかったことにしやがった」
A「三文って、昔のお金の単位で言われても、よくわからない人もいるんじゃあないかと」
B「小判がわからなかった君が言うと、微妙に説得力があるね」
A「だからこれも、意味を残しつつ今風にアレンジ」
B「はいはい」
A「早起きは、申し訳程度の徳」
B「意訳し過ぎだわ! 何だよ、申し訳程度って」
A「俺なら三文を得るよりも、睡眠時間をとるんでね」
B「忠告しておくけど、お前と世間の価値観がいつも同じとは限らないからな」
A「あと、武士は食わねど高楊枝」
B「このままでいいじゃないですか。武士のプライドを端的に表したことわざで」
A「俺ならね、こうアレンジする」
B「はいはい」
A「金ないマダムも衝動買い」
B「それ、ただの見栄っ張り! 武士の誇りの面影ゼロじゃねえか!」
A「石の上にも三年」
B「それ、普通に現代でも通用しますよ?」
A「彼女を尾行し、三年」
B「ストーカーじゃねえか! 三年つけ回すとか、恐過ぎだろうが!」
A「あと……」
B「もういい、全然駄目。お前、全くアレンジできてねえじゃねえか」
A「いやいやB君。こういう時こそ、かわいい子には旅をさせよだよ」
B「あえて止めずに見捨てて、地獄に落とせってか?」
A「いや。子供をバカンスに連れて行くかの如く、俺を甘やかしなさいってこと」
B「それはお前の勝手な解釈じゃねえか! もういいよ」
A・B「どうも、ありがとうございました~!」