三秒で魔王を討伐した後、世界が滅ぶまで三十秒。
「やった! 成功じゃ!」
そういって老年の召喚士は少年のように叫んだ。やっと異世界召喚が成功したからだ。
この世界は現在史上稀にみる最凶の魔王によって、滅亡の危機が迫っていた。世界には魔物が溢れかえり、ありとあらゆる生物が殺されている。
そんな中、一つの希望があった。勇者の異世界召喚である。この世界では魔王が出現するたび、数多の勇者を召喚しており召喚魔法が発達している。だが、勇者の召喚は並大抵のことでは召喚できない。多くの魔力と勇者がいる世界に繋ぐためのコードの解析が必要なのである。
そしてそのためには多くの魔力を持ち、世界の真理を読み解きコードが解析できる召喚士が必要なのであった。そして、白羽の矢が立ったのがこの老召喚士。過去に一回、勇者召喚に成功している。
「これで、世界は救われるぞ」
ありがたや、と祈っている老召喚士は剣を突き付けられた。
「煩いぞ。ジジィ」
魔法陣から召喚された人物は黒い瘴気を纏っていた。そして頭にはまるであやかしの類のような捻じれた角が左右二本ずつ生えている。それは明らかに勇者のものではない。中性的な顔立ちに、黒髪に深淵のような瞳。そして、それを際立たせるように生気のない白い肌。まるでこの世界を苦しめている『アノ』存在の雰囲気に酷似していた。
「召喚された時の契約は二つ。召喚者には手出しはできないことと、この世界の魔王を殺すことだな」
そう言って彼は魔法陣を描いた。この世界の魔法陣とは違い、丸の中に文字らしきものが沢山書かれている。そして魔力を込めた――。
「王様! 召喚された者が、魔王が城ごと消滅させました! 各地で暴れていた魔物も、魔王が居なくなったことにより鎮静化しました」
「ほう、それはよかったですな」
「ただ、召喚したのが異世界の魔王だったようで、この世界を消滅させるといっています」
瞬間、――世界は闇に包まれてもう動くことは無かった。
たった三秒で、それも魔法陣を描く時間も込みでこの世界の魔王を倒してしまった。ツマラナイ、と思いつつ彼は世界を消滅させた。あまりにも永い時を生きてきた彼にとってこれは単なる暇つぶしである。
召喚者には手は出せないが、もうじきくたばるだろう。
次は、邪神でも倒そうか。そう思いつつ彼は異世界のゲートを開いた。