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関係は、唐突に始まる②

 放課後忘れ物に気付いた真尋が部活を終えて教室へと向かった。もう下校時間間近のためか、廊下には誰の姿もない。外はもう真っ暗だ。教室側と廊下側の窓ガラスは照明を反射し、さらにその暗黒も手伝って廊下には無数の合わせ鏡の回廊が出来上がっていた。

 辺りが暗いと不気味だが、合わせ鏡というものもまた様々な怪談を持つため真尋には闇同様不気味には違いなかった。

 前を通り過ぎるときに一時の鏡に映るのは廊下の風景と自分の持つ色。黒と白、紺色しか映さないはずの鏡の中の風景にあるはずの無い色が映る。

 それは、夕焼けよりもなお紅い、深紅――。

 「っ――!?」

 あるはずの無い色に真尋は思わずそちらの方に目を向けた。

 と、そこからなにかが飛び出てきた。その何かは真尋に激突し、そしてそのまま押し倒されて真尋は廊下に頭を打ち付けてしまった。

 「うっわ……!」

 「きゃっ……!」

 そっと目を開けると、真尋の上には結氷がいた。先程真尋に激突してきたのはどうやら結氷のようらしい。

 「い、泉水さん……。てか、今君、ガラスの中から……!?」

 「あ……秋月くん!? 何でこんな時間にいるのよ!」

 「ぼ、僕は忘れ物をして……ふぁっ……?」

 言いかけて、真尋は後ろに強く引かれる。

 今の真尋の後ろにあるのは、先程結氷が飛び出してきた深紅の色を持ったガラス。

 おそるおそる後ろを振り返ると、視界の端に自分の肩にかかる手が見えた。真尋の肩を掴む手は、そのガラスから出ている。

 「う……ぁ……」

 真尋はそのありえない光景に目を見張った。悲鳴を上げようにも恐怖のあまり声が出ない。体の動かし方も忘れ、全神経はその手の存在に縫い止められていた。

 と、その手に触れる別の手があった。雪のように白い肌に、細く美しい指。

 途端に、肩を掴む手が一瞬のうちに凍りつき、砕けた。

 「あ……え……?」

 「大丈夫?」

 そう問い掛けてくる結氷を真尋は茫然とした表情で見上げた。

 「今……のは…………」

 途切れ途切れにようやくそうとだけ呟いた真尋に、結氷はその端整な顔に寂しそうな笑みを浮かべて言った。

 「クラスの人から関わるなって言われたでしょ、あたしに。つまりはこういうことなの」

 「こ、こういうこと?」

 「見たでしょ、さっきの手の末路。あれを凍らせて粉々にしたのはあたしなの。あたしね…………魔法が使えるの」 

 「ま……ほう?」

 普通なら馬鹿らしいと笑い飛ばすところだが、今目の前起きたことは夢だと思いたいがすべて現実だ。

 まだ痛む後頭部がそう真尋に実感させていた。  

 「気味、悪いでしょ。あたし隠すの下手だからすぐ人にばれちゃって、それでみんなあたしに近づかないの」

 自嘲するように結氷は言った。

 「ま、それだけじゃ無いんだけどね。だから、秋月くんもあたしに近づかない方がいいよ」

 近づかないのだろうではなく、近づかない方がいい。それは、何の警告か。そのままくるりと踵を返し行こうとする結氷のひどく寂しげな背中に、真尋は言葉を投げかけた。

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