関係は、唐突に始まる①
「秋月真尋です。今日からよろしくお願いします。」
二学期の始まりの日、私立枳殻高校の二年三組で秋月真尋は漫画や小説にあるようなそんなありふりれた自己紹介をした。こんな時期に自己紹介、それは真尋が今日ここに転入してきたからだ。父親の転勤にともない父子家庭である真尋はそれについて転校を余儀なくされた。とは言っても、真尋自身特に前の土地に対する執着心などは大してなく、寂しいといえば寂しいがもっぱら最後まで寂しいと騒いでいたのは昔からの友人たちの方だった。
別れ際に「連絡しろよ」とか「手紙書くからな」とか言っていたがきっとそんな関係はすぐ希薄になってに切れてしまう。到着した日にメールを送信して返信されてきてそれから二週間以降、かれこれ一月以上経つが電話もなければ手紙もない。世とは常に無常のものかな、などと真尋は思った。
「じゃあ、秋月は後ろから三番目、窓際の席だ」
「はい」
教師の言葉にこれから自分が座るべき席の方に目を向けると一人の女生徒が真尋の視界に入ってきた。
目が惹かれてしまうほどの漆黒の髪と瞳をした美少女。深窓の令嬢を思わせるその様子に、真尋は思わず息をのんだ。だが、同時にその少女が周りに分かる程に露骨に他人を拒否するかのような、そんなオーラを出していることに真尋は気づいた。
教師も手を焼いている問題児なのだろうか、少女は周りのざわめきも何もかもを全く無視して今もずっと本を読んでいる。注意しても無駄だから注意しないのか、それとも関わりたくないから注意しないのか、なぜだか真尋には後者のように思えた。
その少女の部分だけ、周囲から切り離された空間のように真尋には思えた。まるで、意図的に、まるで、彼女の事を怯えているかのようにその不思議な空間は存在していた。
ホームルームが終わり席についた真尋は隣の少女に話し掛けた。
「あの、始めまして、秋月真尋です。今日から隣よろしく」
ピクリ、と少女が反応を示す。一瞬、教室内の空気が変わった。
だが反応は示したものの、少女が真尋の言葉に応えることはなかった。困り果てた真尋の肩を後ろの席の男子生徒が突いた。そして振り向いた真尋に耳打ちをした。
「イ・ズ・ミ・ニ・カ・カ・ワ・ル・ナ」
そいつは危険だ、と続けて男子生徒は真尋から離れた。
関わるな? どういうことだ?
一体何故こうにも彼らは彼女のことを避けるのか。不思議には思ったが先程のクラスの生徒たちの反応を見るかぎりその理由は聞きにくい。まあ、彼女が「イズミ」さんだと分かったことは一つの進展だった。翌日、担任から渡された連絡網から真尋は彼女の名前が「泉水結氷」だと知った。
■ ■ ■
それから一週間ほどが経ち、真尋はクラスの様々な人たちと話をし学校で付き合う程度の友達が出来た。転入以来、真尋は結氷には関わっていない。別に男子生徒の警告を気にしているわけではなく、単に関わる機会が無いだけのことだ。
だが、いつしか関わりは出来るもの。真実をどう受け止めるかはその人次第。
そして真尋の場合、それは思ったより早くに訪れた。
それは、この高校に来て一ヶ月ほどたったある日のこと――。