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チャリノススメ  作者: 黄色
1章:1年夏
3/5

前走2日目

あつーい…


朝から太陽の光線がじりじりと肌を焼き、痛い。あまりの暑さに食欲もなくなる。なんかだるい…

隣ではタカさんが見てるだけでおなかいっぱいになるくらいの量の朝ご飯を食べている。


「ん?お前も早く食えよ」


見ていたらこちらに気がついたのか、私の朝ご飯を指しながら促してくる。


「食わんとハンガーノックになるぞ」


ハンガーノックはおなかがすいて体が動かなくなることをいう。自転車は有酸素運動なので、こげばこいだだけエネルギーが使われる。だから合宿中はご飯の量がすごく多い。なのでタカさんも口を酸っぱくして何回も食べろと言ってくる、のはわかってるんだけど…どうにも体が受け付けない。


「今はおなかいっぱいなので休憩の時に食べます…」

「…あとでいいからちゃんと食えよ」

「…はい」







今日は九頭竜湖の道の駅とダムへ行き、湯坂峠を越えて岐阜県に入り、やまとの道の駅に寄って、郡上八幡まで行く。


「あれ今日郡上八幡まで行くんですか?集合日明後日ですよね?」


コース確認しながら疑問に思ったことを聞く。


「ああ、せっかくの観光地だから明日は一日レスト(休み)にしようと思って。この距離なら一日で行けるしな。」


コインランドリーで洗濯もしたいし、とタカさんは続けた。

確かに私はまだ来たばっかだけど、タカさんは合流する前から走ってるわけだから洗濯物も溜まってるだろう。


「コースわかったら行くぞ。」

「はーい」


グローブを着けて、ヘルメットをかぶり、準備をした。







峠まではあいかわらずの坂道が続く。でもまだこぎ始めたばかりなので周りを見る余裕がある。走り始めてすぐにそれは見えてきた。


「タカさんタカさん!恐竜がいますよ!」

「おー道の駅だから寄るぞー」


九頭竜の道の駅だ。

福井は恐竜の化石が多く発見されてるらしく、ここら辺の道は恐竜街道と呼ばれている。そして道の駅の前には大きなティラノサウルスの親子の模型がある。

自転車を止めて、模型の近くに寄ると恐竜の鳴き声が聞こえた。


「わあこれ鳴くし、動きますよ!」


テンション高く、はしゃぎながら写真を撮っていたら、タカさんがカメラを向けてきたので写真を撮ってもらった。


「タカさんあとでデータくださいねー」

「ああ、すごい量になってもいいならな」


タカさんはカメラが好きらしく、合宿にもデジタル一眼レフを持ってきている。荷物重くないかなーと思うけどね。それはさておき、部室にある写真も去年のはたいていタカさんが撮った写真で、イベントのたびに毎回たくさんの写真を撮っている。

タカさんの写真おもしろいし、デジイチだからきれいで好きなんだよね。データ楽しみだな。


そのあとは道の駅に併設してる本物の電車の駅やふれあい会館をのぞいた。

道の駅にはスタンプが置いてあるんだけど、スタンプ帳持ってないしなー残念、と思ってたら、タカさんが地図帳にスタンプを押していた。なんでもうちのサークルの人はけっこう地図に押すらしい。

めっちゃ道路の上にかかるところにスタンプを押していたので、地図見にくくなりません?と聞くと


「どうせ一回通ったとこ見ないだろ?それに合宿で使うと雨やらなんやらで地図ボロボロになるからな。行くとこ毎回違うからもう一回使うこともないし。記念だ記念」


けろっと答えてるけど身も蓋もないな!







その後は九頭竜ダムも寄って、軽く観光して、再び走り出した。今は峠を目指して湖沿いを走っている。

今日も快晴で湖面がきらきらと太陽の光に反射している。すごくいい景色だったが、私には見ている余裕がなかった。


やばい…なんだか力が入らない…

先程から必死に自転車をこいでるのだが、どうにも前に進まない気がする。ふらふらとハンドルが安定せず、ほとんど進まないうちに息が切れて止まってしまう。時間ばかりが過ぎてるのに全然距離が進んでいない気がする。休憩の時間ばかり増えていく。


「おい、大丈夫か?」

「だい、じょ…ぶ…です!!」


後ろからタカさんが心配する声が聞こえてきたので息も切れ切れでなんとか返事をする。なんとか、峠まで…峠まであと少しがんばれば…と思っていた。

しかし次の小休憩でついに私は立ち上がれなくなってしまった。


「すみ、ません…ちょっと休めば、すぐ治ると思う、んで…」


木陰で寝ながらタカさんに謝る。


「完全にハンガーノックだバカ。食えるか?無理でも食え。あとお前よく寝れてないだろ。あと熱中症は大丈夫か?」


タカさんは私の自転車のフロントバッグを漁り、昼に食べられなかったおにぎりを差し出してきた。


「なん、で…」


寝てないってわかるんですか…と続けようとしたけど口がうまく回らない。

軽く熱中症もあるのかもしれない。


「お前しょっちゅうあくびしてたし、休憩のたびに寝こけてるだろ」


しばらくしたら起こすから少し寝ろと言われ、申し訳なくて泣きそうになった。


「すみません…20分だけ…20分で起きるんで起こしてください…」


おにぎりをなんとかお茶で流し込み、私は横になって目を閉じた。







さわさわと心地よい風が心地よい。

昼間より少しひんやりとした風が夏の炎天下を走り続けた体をやさしくなぜていく。


―あー気持ちいいな…


風の気持ちよさに身を委ねていると首筋にひやりとしたものが当てられ、思わず目を開ける。


「あ、起きたか?」

「タ、カさん…?」


タカさんが濡らしたタオルを首に当ててくれていたみたいだ。頭がまだぼぉっとしていて自分がどうして寝ているのか思い出せなくて、周りに目を巡らすと太陽がずいぶん傾いているのがわかった。

あ、そっか私ハンガーノックで立てなくなったんだっけ…

とだんだんと頭が覚醒してきて、ふと先程見た太陽の位置を思い出し、がばっと跳ね起きた。


「タ、タカさん!!今何時ですか!?」

「ん?今か?四時半だな」


勢い込んで聞くとタカさんは時計を見ながらそう答えた。

一瞬頭が真っ白になった。

四時、半…四時半って、ええええええ!?

私が寝たときは確か二時過ぎくらいだったはず。そこから二時間以上経っている。


「な…なんで起こしてくれなかったんですか…!?」


20分で起こしてって頼んだのに…と思わずタカさんに詰め寄った。


「よく寝てたからな。」


起こすのも忍びなくてなとタカさんは続けた。

よく寝てたって…それにしたって二時間も寝るなんて私何やってんの…

自己嫌悪に陥りかけたけど、まだまだ一日の行程の半分しか来てなく、そんな暇はないことに気付いてまずはタカさんに謝る。


「すっ、すみません起きなくて…すぐ準備します!」

「それよりもう大丈夫か?」


すぐに立ち上がろうとした私を押し止めてタカさんは体調をうかがってきた。二時間も寝こけてたせいか眠気はスッキリしている。おなかもすいていない。


「はい大丈夫です。迷惑かけてすみませんでした」

「それならいい。で今日のコースだけどな…」


地図を見せてもらいながら今後の予定を聞く。大幅に時間をロスをしたため、今日中に郡上八幡に着くのは無理そうだ。なので今日は峠をくだった先の道の駅をサイト地にすることにしたらしい。

自分のせいで行程をカットすることになり、本当に申し訳なく何度も謝ってしまう。


「走れるならいいからもう謝んな。とにかく早めに峠を越えるぞ。まだ日が長いからなんとか暗くなる前に道の駅に着けると思うけど下手したらナイトランだ。気を付けろよ。あとまた倒れても困るからこれ食っとけ」


と言って今度は菓子パンを渡された。寝る前におにぎりを食べたため、まだお腹はすいてなかったが同じことを繰り返さないためになんとかお腹に納めた。

そして先程よりも軽くなった体を動かし、出発の準備をした。







なんとか真っ暗になる前に道の駅に着き、近くの銭湯で風呂に入り、今日は早めに休むことにした。

テントに入り、寝袋に転がるとどっと疲れが出てくる。隣でタカさんが寝る準備をしてるのがわかる。


「明日七時起床な」

「はーい」


携帯のアラームを七時にセットする。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


目を閉じる。

しばらく目をつむっていたが疲れてるのに眠気はやってこない。

隣は静かだ。


「タカさん」


返事は返ってこないだろうけど話しかけてみる。


「んー」

「まだ起きてたんですか」

「まあな」


昨日はすぐに寝入っていたタカさんから予想外に返事が返ってきたので驚いた。


「昼間……」

「…なに?」


話を続けていいものかと言い淀んでいると先を促される。


「昼間…どうして怒らなかったんですか?タカさんが何回もなんか食べろって言っても私それを無視してたのに…」

「まあ、食べてないの気づいてたのに無理矢理食べさせなかった俺も悪いしな」

「そんな…!私が勝手に食べなかっただけなのに…」

「疲れてて食べたくても食べられなかったんだろ?俺もそうだったから」

「タカさんもですか?」

「去年の夏、俺男キャでさ。死ぬほど走らされて、疲れてへとへとで食べ物受け付けなかったけど、無理矢理食べさせられてたんだよ。男は容赦ないからな」


タカさんは去年を思い出してるのか、苦笑してる気配がした。


「でもやっぱり受け付けないんだよなあ。食べても吐いちゃって。せっかくがんばって食べても吐いてれば意味ないからな。だからお前にもあまり無理に言わなかったんだ。でもまさか倒れるとは思わなかった。俺の判断ミスだな。すまん」

「あや…まらないで、くだ、さい」


タカさんのやさしい言葉に涙が出そうになった。


「それ、でも…タカさんの言葉をちゃんと、聞かなかったのは私が悪いです…」

「そうだな。悪いと思ったなら次からはちゃんと食べろよ。俺も今度は無理矢理食わせるからな」

「はい」


タカさんがおどけて言うので、私もつられてふふっと笑みをこぼした。


「でもタカさんがそんな吐くまで疲れるほどの班ってどんなだったんですか?」


場の雰囲気が少し明るくなったので、先ほど聞いた話が気になって尋ねてみた。


「思い出すのも嫌になるほどの恐怖体験だぞ?」


そう言いながらタカさんは去年の夏の話をしてくれた。




「そろそろ寝るか。明日も早いし」

「あっそうですね。すみません遅くまで話しちゃって…」

「気が晴れたならいい」

「…ありがとうございます」


「明日で前走終わりだな」」


んーと伸びをしながらタカさんが言った。


「……そう、ですね」


なんだかうまく返事ができなかった。


「じゃあおやすみ」

「おやすみなさい」


タカさんが寝る態勢に入るのがわかった。

私は寝袋をかぶり、タカさんとは反対の方を向いて丸まった。





そうか…

明日で終わりなんだ…





なんだか少しさびしいような、なんとも言えない気分になりながら、私は眠りについた。


男キャ(だんきゃ)…男子だけの合宿班

チルとタカさんは混キャ(こんきゃ:男女混合の班)です。


女キャ(にょきゃ)は昨今の女子部員の減少により幻となりました。


地図は自転車の前に付けるフロントバッグの上に入れるところがあるのですが、雨に降られると容赦なく濡れるので一回の合宿でたいていぐちゃぐちゃになります。

濡れないようにジップロックに入れる人もいるけどタカさんはそんなことしてなさそうですね。

チルはきっと合宿で女の先輩に言われてジップロック派になる子だと思います。

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