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チャリノススメ  作者: 黄色
1章:1年夏
2/5

前走1日目

おはようございます。


ついに二人旅出発の朝です。

とりあえずコンビニ前でご飯食べてます。


昨日はあれから郵便局行って荷物受け取って、自転車に荷物積む方法教えてもらって旅支度して、夕飯は近くのファミレスで済ませたあと、健康ランドに泊まった。

最近のお風呂って泊まれるんだね!知らなかった…お風呂だけかと思って今日どこ泊まるんですかって聞いたら、変な顔されてここだけど、って言われてえ?お風呂ですよねここって返しちゃったよ…

初っぱなからテントじゃなくて安心したというかなんというか…お風呂いっぱいあって、長風呂して、サウナとかずっと居座ってデトックスしたり満喫しましたよ!仮眠室は寝にくくてあんまり眠れなかったけど。


そして現在、朝の6時半です。

6時に健康ランド前に集合って言われたときはびっくりしたなあ。初日から遅れる訳にはいかないからがんばって起きましたよ!しかし眠い…

朝ごはんはコンビニでパンとカフェオレ買いました。タカさんは隣で大盛カップ麺とおにぎり食べてます。あ…朝からカップ麺…男の人ってすごい…

自分の分を食べ終わってタカさんを待ってる間、ちまちまとみつあみを編んでみた。下ろしててもいいかなと思ったけど、やっぱりこの夏の暑さだと首に汗ではっついて気持ち悪いんだよね。今中途半端な長さだからなーショートより長いけど一つでくくるにはちょっと髪の毛の量が足りないんだよね…切ってくればよかったかなあ。

ちまちまやってたらタカさんがこっちを見ていた。なんかにらんでるように見えるんですけど…私なんかした!?


「あ、あの…なんですか?」

「いや、女はめんどくさそうだなと思って」

「あータカさんは楽そうですよね。短くて。私は中途半端な長さなんで編んでないと邪魔くさくて…」

「ふーん。時間かかりそうだな」

「そうでもないですよ?」

「でお前朝飯それだけか?」

「はい?」


髪の毛の話をしてるかと思ったら、急に私の足元にあったごみを入れたコンビニ袋に目を移し、タカさんはいきなり話題を変えてきた。


「あ、はい朝あまり食べられなくて…」

「……」

「タカさん?」

「今食べられなくてもいいから途中で食べる用になんか買っとけ。倒れるぞお前」


タカさん、忠告はありがたいけど顔が怖いです。


先輩の言うことはおとなしく従います。人間関係円滑大事。というわけで簡単に食べられるもの買って、自転車に積みました。


さていよいよ出発です。

今日のコースは…


「今日はこっから東に向かってひとまずこの名水百選のとこに行く。で大体そこでお昼だろうから買い出しかねてスーパーに寄る。そのあと山登りで店ないからな。そこから山の方行って九頭竜湖の手前のキャンプ場が今日のサイト地。わかったか?」


タカさんが地図を示しながら説明してくれました。


「わ、わかりました」


…たぶん!


「…道わかんなくなったら言えよ」


タカさんの視線が痛いです。







道にはなんとか迷わなかった!

現在名水百選の御清水(おしょうず)です。

越前大野にある清水で住宅地の道の真ん中を流れていて、地元の人が生活用水として使うからか櫓みたいな屋根がある。清水の上流から飲み水、野菜洗い場、洗濯場というように用途によって場所が区切られている。静かで周りの住宅地も木造家屋が多くて、とても風情がある。

私はちょっとはしたないけど下流の方で水に足を浸していた。

水が冷たくてきもちいー夏の直射日光にさらされた体には癒しです。


さてここまで初めてタカさんと二人で走ってきたんですが…


あの人自転車乗ると人格変わるんですけど!!

こわいよ!!



「コール小せえ!聞こえねえ!!」

「後ろ見ろ!!車来てんぞ!!」

「ふらふらすんな!」

「背中曲げんな!伸ばせ!」

「もっとこげ!楽してんじゃねえ!!」


などなどなど…始終怒鳴られっぱなしだった…

何も知らない私に走り方教えてくれてるのはわかるんですけどね…走るのだけで必死でコールとか後ろ見るなんてまだレベルが足りないですよー…

あ、コールってのは走るときの合図のことで、うちのサークルは数人が一列になって走るので一番前の人が後ろに道路状況を教えるんです。いきなり前が止まっても後ろは反応できないからね。止まるときの徐行ストップコール、道に何か落ちてたときに踏まないように障害物コール、道の舗装がでこぼこしてたりするときの段差コールなどなど、いろいろあるのです。なんてったって荷物積んだら三十キロのチャリで平らな道だと時速二十キロメートルとかで走ってるからね。車道走ってるしちょっとバランス崩しただけで大事故に繋がりかねないので、安全には気を配りまくってるのです。

走りながら声出したり、声出せないときは身振りで示したりしなきゃならないんですが、まあまだまだ難しいよね!私がダメダメだから言ってくれるのはわかるけど、もう少し柔らかく言ってくれないかなーずっと怒鳴られるのはちびっときついものがあります。


そんなわけで半日で身も心もぼろぼろになりかけてるので名水に癒されます。

さっき飲み水の方飲んだけどおいしかったなー午前中に空になったペットボトルに汲んでこうかな。毎回お茶とか買うのも結構なお金になるんだよね…

と思ってたらタカさんが二リットルペットボトルの中身を捨てていた。タカさんもどっかで汲んでたのかな?…ってあの人ペットボトル二本持ってるよ?あれ自転車にまだ他のボトル積んでたよねあの人。水何キロ積む気?


「タカさん、そんなに水積むんですか?」

「んー」

「重くないですか?」

「このくらいたいしたことないだろ」


いやいや六キロくらい積んでますよね?全然大したことありますから!

まあタカさんなら大したことないんでしょうけど…


タカさんのことは超人だからで片付けて私も水を汲みました。いやだって私がぜえはあして必死に走っててもあの人息ひとつ乱れてないんだよ!!


「そろそろ出発するぞー」

「はーい!」


名水を堪能し、スーパーで昼と夜の買い出し。夕飯はついにキャンプご飯なのでちょっとどきどきです。

そしてついに本格的な山登り。ここからはずっと坂道が続く。







やばい…死ぬ…



夏の午後の日差しは遠慮なく、体に降り注ぐ。

汗が止めどなく流れて、こいでもこいでも坂道が終わらない。もう歩いて自転車押す方が早いんじゃないかというくらいのスピードでのろのろと上っていく。


「おい、あそこの広くなるところで止まれ。休憩するぞ」

「…は、い」


後ろからタカさんに言われ、下を向いてた顔をなんとか上げ、前を見据える。

あと、ちょっと。あとちょっとがんばれば休める…





「はあああああ」


着いた途端にガードレールに自転車を寄せ、地面に転がる。汚れるとかそんなの気にしてられない。息が整うのを待って、ボトルのお茶をがぶ飲みする。飲んだらまた道路に倒れる。

想像以上に坂道が辛い。何度も自転車に乗ったまま倒れるかと思った。けれどまだまだ先は長い。そう思うと起き上がる気力すらなくなる。


「ほら」


目の前にグミの袋が差し出された。


「糖分補給。手出せ」

「ありが、とう、ございます」


なんとか起き上がって、グミをもらい口に含む。グミの周りについたパウダーのすっぱさが口の中に広がり、目が覚める。パウダーがなくなったあとの甘さに疲れた体が息を吹き返す。

タカさんは休憩をするとちょくちょくグミやらあめやらチョコレートやらをくれる。疲れてて固形物を口にしたくないのでそういうちょっとした糖分はすごく助かる。

休憩も私が本当にダメだと思う前に声をかけてくれる。


「回復したら行くぞ。休みすぎると立ち上がれなくなる。あとなんか食べとけよ。おにぎりとかパン買っただろ」


タカさんは全然余裕で私のペースに合わせてくれている。

走り方に関しては怒鳴ってくるけど、私が遅くても、もっと自分のペースで走りたいと思ってるだろうけど何も言わない。



もっとがんばらなくちゃ。







なんとか真っ暗になる前にキャンプ場に着きました。もう立ち上がりたくない…


でも夕飯を食べなくてはなりません。汗かいて水飲みまくってたから、おなかすいてるはずなのに食欲あまりないんだよなー…でも今日のご飯そばみたいだしそれなら食べられるかな。


「タカさん今日はそばなんですね。飯ごうでご飯炊くのかと思ってました」

「ちょっとやりたいことあってな。チル、とりあえず鍋持ってこい」


含みのある顔でタカさんに言われたので、よくわからないけど自転車に積んである鍋を取りに行った。



「タカさーんとりあえず水汲んどけばいいですか?」


キャンプ場の炊事場から自転車の方にいるタカさんに話しかける。返事はなく、タカさんは何かを持ってこちらにやってきた。


「水はこれだ」


と言ってタカさんが持ってきたのは二リットルのペットボトル二本。


「これって…」

「御清水の水」


タカさんがニヤリと笑う。


「この水、そばに使うためだったんですか!?」

「いいアイデアだろ?」


だからタカさんこんなに水積んでたのか!!

昼間の疑問が解決した。なんともテンションの上がるアイデアだ。


「せっかくの名水百選だからな。ちょっとやってみたかったんだよ。合宿じゃ人数多すぎてそばなんかできないし」


いつも仏頂面のタカさんがちょっと顔を緩ませて鍋に水を入れてく。


「でも重かったですよね?言ってくれれば私も積んだのに…」

「いいんだよ。俺がやりたかっただけだし。大体あの上りでへばってたやつが一本でも積めたか?」

「う…すみません…」


でもタカさんがちょっとご機嫌なせいか怒られてる気がしない。こんなのでテンションが上がるなんてちょっと意外な気もする。

軽口を叩きながら、タカさんに火器の使い方を教えてもらい、そばをゆでた。


名水でゆでたそばはとてもおいしかったです。



ただ量がおかしくないですかタカさん…明らかに二人分じゃありません…







そして夜…

思い出したけどテントに二人きりじゃないですか!!

うっかり走るのに必死すぎて忘れてたよっオマイガッ!!

いやここまでもずっと二人きりでしたけどね!!でもテントに二人だとなんか違くないですか!?


歯を磨きながら悶々と一人でうなってたけど、寝るところはひとつしかないわけで。

覚悟を決めて、いざテントへ!

寝袋だし何もないない!…ない、よね?


テントはサークルで一番よく使われているスタンダードな三人用のテント。二人で寝るとかなり余裕がある。


「明日は六時起床でいいな?」


タカさんはなにも変わらずいつもどおり。携帯のアラームをセットしている。


「んじゃおやすみー」

「…おやすみなさい」


隣にいるのが男の人ということで、何もないとは思ってるものの声が固くなってしまった。気付かれてないといいな。

どきどきととてもじゃないけど、緊張で寝られない。

しばらく目をつむったままじっとしていると、隣から寝息が聞こえてきた。

そっと横を見るとタカさんはもう寝入ってしまったようだ。



…ですよねー!

私が自意識過剰なだけですよね!

あーはずかし…

寝よ寝よ…

今日は疲れたから安心した途端、どっと睡魔が押し寄せてきた。







…暑い。

すぐに寝付けたけどあまりの暑さで夜中に目が覚めてしまった。外はまだ真っ暗で朝は遠いみたいだ。

山の上とはいえ、今は真夏だ。夜で気温が下がってても寝袋に入り込んでいたせいで熱がこもったようだ。

隣を見ると寝る前に見たときと変わらずに眠るタカさんがいた。よく見るとタカさんは寝袋に入らず敷いているだけだ。暑いってのわかってるんだな…

私もタカさんの真似をしようと寝袋のファスナーを開けた。それだけで大分違う気がする。



それでも暑いことには変わりなく、結局寝付けたのは大分経ってからでよく眠れなかった。


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