魔王討伐後に邪険にされたので、王様と令嬢を排除しました
俺ことラーチンス・ロトスはこれから処刑される。
魔王討伐を果たしたにも関わらず、王は宮廷内で俺が力を強めると思い込み処刑に踏み切るんだ。
ゲームの世界に転生し、見事ストーリーを歩み終えた俺は三日後、王から労いの手紙を貰いその日のうちに処刑だ。
「ラーチンス、やったわね!」
「……あぁ」
魔術師ティナ・リーベルトが心情を察することなく歓喜極まった声を出す。
亜麻色の長髪にダークブラウンという変わった瞳の色。絶世とまではいかないが顔面偏差値は60くらいはある。
「ここは今、どこだ?」
「ハウスレブルク辺境伯の領地。特別に通行許可書を貰ってる」
「二人は無事にたどり着けると、いいな」
「無事にって、何もないでしょう?」
あるかもしれない。
パーティーにはあと戦士と僧侶がいる。
二人は別件で俺たちより遅れて王都へと向かう。昨日出発したばかりなのだが、心配でやまない。
ストーリー内では魔王討伐以降、二人の名前は登場しない。
馬車に揺られながら俺は青々とした空と夏を彷彿とさせる草原を虚空のように見つめる。
「死ぬか、逃げるか、か……」
「……?」
ゲームの終わり方は二つ。
俺が有無を言わずに断罪される。
もしくは、隣にいるティナと共に遠い国へ逃げるか。
圧倒的に後者が有利だが、それでは国際指名手配になる。
「はぁ……」
「なーんか、王様もひどいわよねー」
「どうしたんだ急に」
「だって仮にもあんたは勇者で、魔王を倒したのよ? 労いの手紙のひとつでもくれたらいいのに」
それが来たら俺は死ぬがな……いやだとしても彼女の言っていることは間違っていない。
労いのひとつくらいあってもいいのだ。
にも関わらずそうしてくれない。
俺たちが六年前に旅立ったサスティリア王国の王様は暗君で有名だ。
表向きは善王を装っているが、実情は嫉妬深く野心が高い。加えて自尊心が高くてやまず、他人を見下す傲慢性がある。
出立の際、俺も目をつけられた。ギロッと鋭い眼差しは「生きて帰ってくるな」とでも言いたげな瞳だった。
「あれ? もしかして勇者様ですか?」
楽器のように美しい音色の声が馬車の外から聞こえた。
その声には聞き覚えがあり、俺はため息を付かずにいられなかった。
無視するわけにもいかないため、乗り物の窓から顔を出し声の主と対話する。
桜色のドレスに紅色の髪、ハウレスブルク家特有の蒼海のごとき瞳。
「ルジェクトル・ハウレスブルク・サスティリア様……」
「あ、なーんだ生きてたんですね」
「ちょっと! それどういう意味なわけ!?」
「ティナ、やめろ。ルジェクトル様、申し訳ありません」
「いいんですよ別に。他意があって言ったので。それよりも王都へ帰還ですか?」
「そうです。貴方様は何故ここに?」
「大した用ではありませんよ。棺桶を運んでいると思ったのでわざわざ立ち寄っただけですよ」
窓枠の下で今にも殴り掛かろうとしているティナの手を抑える。
この人はハウレスブルク家の令嬢かつ、現王の養子にあたる。下手に手出しすれば本当に死んでしまう。
「生存確認できただけでも満足なのでもう行きますね。論功行賞は、期待しないほうがいいですよ。誰も貴方の頑張なんてみてないので!」
「……肝に銘じます」
馬車が動き、ルジェクトルが見えなくなった時、俺はドンっと壁を叩いた。
血が吹き出る勢いの拳を握りながら、唇を噛み締める。
「ちょっと、大丈夫?」
「……絶対に許さん」
俺はこの瞬間、王とあの令嬢に目にものを見せてやると固く誓った。
※※※
三日後、ストーリー展開と同じように王より手紙が届いた。
その内容は要約すると、『功績を労いたいため、明日王宮で論功行賞を行う』とのこと。
俺が転生していない純勇者であればのこのこと釣られ、あっけなく死ぬのだがそうはいかない。
「ハウレスブルク様、本日はありがとうございます」
「いえいえ良いんですよ。魔王を討ったという高名な勇者様とお茶を飲めること、とても光栄です」
昨日王都へと凱旋した俺は、再び都を離れハウレスブルク辺境伯の元に訪れていた。
当代のヴィンセント・ハウレスブルクは穏健な性格で誰にでも平等に接する人間だ。俺のように中央では邪険に扱われている者でも、家族であっても平等だ。
「して、ご要件はいかがなされたのでしょう?」
ルジェクトルと同じ双眸がこちらに向けられる。
俺はカップを持ち上げお茶を一口啜ると、要件を口にする。
「ヴィンセント様に提案がございます」
「提案、とは一体どのようなものでしょう」
「王暗殺に手を貸して頂きたいのです」
「な、なんと……ラーチンス殿、血迷われたのか!? 今のは聞かなかったことに──!」
「いいえ。これは本心です。ヴィンセント様も同じようなことをお思いでは?」
同心を探る言葉を口にすると彼は眉をひそめてこちらの様子を窺う構えを見せた。
「このハウレスブルク家は先の戦にて第二功を上げたと聞いています。にもかかわらず与えられた領土は本来の五分の一、加えて昨年度よりも高い税を納めていると聞きます」
「え、ええ……しかし、王様には忠節を──」
「そんなものはいりません。他者を見下し、正当な評価を下さない人間は王に相応しくありません。七年前、唯一の娘ルジェクトル令嬢を王に『献上』しましたよね?」
「はい……ですがあれは我が家の地位を絶対的なものにするため、王様によるものでは」
「その通り。そこまでみればその通りですが、現在その令嬢様がどういったことをしているかご存知でしょうか」
ルジェクトルの悪行は天下に広く周知されている。もともとヴィンセントと同じ温和な性格だったが、王の娘として生きるようになって以来粗暴な面が見られるようになった。
他人に無理強いを強要したり、下僕を買い漁り奴隷を作っているとも聞く。
はたして父のヴィンセントは承知の上なのか、それは彼の苦い顔をみれば言うまでもないだろう。
「栄えるどころか貴方の辺境伯地は、レピュドゥス家より劣っています。それは何故だか分かりますか?」
「……レピュドゥスは幾人かの娘を王の側室にしている。加えて諂うように毎日朝貢を行い、ご機嫌を取っている。
故に納める税も少なく、功績を上げなくとも報酬が得られている、ということですね」
「その通り。言うなれば私も大功を上げた身、しかし私は明日の王宮で死ぬことになるでしょう」
「なにっ……!? ラーチンス殿、それは誠か?」
「はい。これらは全て王による独裁のせい。自由気ままにやりたい放題する王と、貴方様のご令嬢によるものです」
ルージェクトルという名前は伏せたがヴィンセントの顔は雲がかっていく。
「ルジェクトルが、勇者殿に何か、致しているのでしょうか」
実は俺の死原因。それはルジェクトルが王に讒言したからだ。
彼女と初対面した時のこと、王の言いなりになっている令嬢を見て俺はヴィンセントの顔を立て、体裁を保つようにと苦言した。
それを根に持った彼女は以降、俺に餞別の目を向けるようになった。
ヴィンセントにその件と彼女の奴隷遊び、さらには王から習ったであろう嫉妬深さを伝えるとみるみる顔が憤怒に染まっていく。
「ルジェクトル……なんてことを……!」
「頼むことができるのは貴方しかいません。高位に位置し、王宮にも一定の繋がりがある貴方だからこそ相談出来ることなんです」
「勇者殿、いやラーチンス殿。この件、私も手を貸しましょう。娘と王に断罪を下すと誓います!」
「ありがとうございます。では早速、お願いしたいことが──」
俺は王宮にてどのようなことが起きるのか細かなことまで記憶している。
ゲームプレイ中に最も印象深かった出来事だ。ましてや自分が経験することになるのであれば、憶えていないはずが無い。
ヴィンセントに要件を伝え終わった俺は王都へと帰還し、明日を待った。
※※※
「勇者ラーチンス、大儀であったな」
「滅相もございません」
翌日、定刻となり迎えが来た俺は何の抵抗もなく王宮へと案内され、凱旋式を行った。
今現在は高台にて金色の玉座にふんぞり返る王に下げたくもない頭を下げている。
両脇には王の第一王子であるグェン・サスティリアとルジェクトル・ハウレスブルクが口角を上げながら俺を見下ろしている。
「魔王を討伐した勇者に英雄の証を──といきたいところだが、そちに確認したいことがある」
「何でしょう」
内心では「来たっ!」とガッツポーズを決めたが平静を装う。
「そちが権力を欲し、王位を狙っていると聞いたのだが……本当か?」
「……ッ! そんなことは滅相もありません! 誤解です!」
俺は敢えてこの茶番に乗ることにし、それまで保っていた平静さを捨てた。
俺の様子を見た王は愉しむように見下ろし、足を組んだ。そして、懐から一通の手紙のようなものを出して言う。
「先程レピュドゥス『公爵』より手紙が届いてな。そちがよからぬ事を企んでいると聞いている。運がいいのか悪いのか、そこには王子と娘が居合わせておってな」
「そんな……! 私は訪れたことなどありません! 加えて謀反の企みなどこの身には……!」
必死の形相で身振り手振り、とにかく大きく主張する。というか、いつの間にレピュドゥス家は公爵になってたんだ。
俺を殺すことに介添する代わりに地位昇格を求めたのか。
「諦めなされよ勇者ラーチンス。私はお前が裏では我々のことを悪く言い、殺害計画を立てていると知っているのだ!」
「その通り。それ以外にも私は貴方が帰還した時、馬車にも上げさせて貰えなかった。それは乗り物の中に都合の悪いものがあったからでしょう?」
「そんなことは……! 私は王様、それからお二人のために魔王を仲間とともに討ち果たしてきたのです!」
ジッと見つめていた王がため息を混じりに残念だ、と呟くと俺は脇に待ち構えていた衛兵に取り押さえられた。
「あらら、勇者ともあろう人間がなんて無様な……」
「勇者ラーチンスよ、お主を斬首刑に処す! 首を斬ったのちは王都の真ん中でそちの罪状とともに晒しものにしてやろう」
「王様……! ルジェクトル様! どうか何卒お慈悲を!」
「名前を呼ばないでもらえるかしら? あはははっ! ずーっとあんたのその姿を見てみたかったのよね。頭を必死に下げて助命を乞う姿、なっさけないわね」
「何故ですか、なぜ私をこのように扱うのですか!」
「正直言って邪魔なのだよ。私の絶対王政にお主ほど邪魔な人間はいない。民に慕われるお主が王に相応しいと皆が言う。それゆえ、その心を折りたくなったのだ。フハハハ!!」
苦渋の顔とともに、全てを諦めたように俺は首を下げる。
「こやつを引っ立てて切れ! そしてその骸を持ってくるのだ! かつてないほどに恥ずかしめてやる!」
勝利を確信した王は余裕の笑みとともに俺を王宮外へ送り出す言葉を口にする。
それが合図だとも知らずに……。
「待たれよ!」
ドンっと大扉が開かれ、誰もがそこへ注目する。中に入ってきたのは白髪の初老の男性。空の如き瞳には轟々と闘志が宿っている。
洋風鎧に身を包んだヴィンセントが数百の兵士とともに現れたのだ。その中には両手を腰に当てたティナまで見える。
「父上?!」
真っ先に反応したのは血の繋がらるルジェクトル。先程までの妖艶な笑みは消え、驚愕の色一色に染まっている。
「勇者ラーチンス殿を殺そうとするものは私が切り捨てる!」
断罪の時間が、始まる──。
※※※
「ほおうハウレスブルク家のヴィンセントではないか。どうしたのだ?」
明らかなる謀反の表れ。それでも王は顔色ひとつ変えずに見下す視線を送った。
対するヴィンセントもその様に一度は目を丸くしたが、直ぐに好戦的な目を見せる。
「王よ、貴様はやりすぎたのだ。私利私欲のために権力を使い、世界を救った勇者まで手にかけようとした!」
「その通りだ、が。何が悪い? 権力とは元を辿れば自らの権力。生まれた時より与えられたものを、自分のために使って何が悪いのだ」
「規模が違う。貴様は王、民を慈しむために権力を使うことこそ至上の使い方よ。にも関わらず汚職に手を染め、正当な人間を評価しないとは何事か!」
「お主と問答するつもりはない、出てこい!」
王の一言で隠れていた王側の兵士がゾロゾロと出てくる。
それら全ての総数はこちらとそう変わらないが、一人一人が屈強な身体つきをしている。それら全てはレピュドゥス公爵家の兵士たちに違いないだろう。
「お待ちを! 勇者はともかく、父上まで……!」
「何をぬるいことを言ってるルジェクトル令嬢よ。お主の父は謀反を起こした。それを咎めなければ王として務めを果たせていない。それともお主も死にたいのか?」
「うっ……私は、生きたい、です」
「ならば静観せよ。自らの実父が無惨に殺される様を黙って見るのだ」
「父上、ここはお任せを。第一王子として私が切り捨てます」
壁に立てかけてあった銀剣を手に取ると鞘から刀身を抜く第一王子グェン。慣れていないのかやや抜きのに戸惑ったが構えに迷いは無い。
「ヴィンセントよ。諦めよ。謀反は失敗するぞ。ここにいる臣下は全て私の傀儡。そして、外ではレピュドゥス公爵家が兵をまだ動員している。
お主たちの活躍も虚しく、反乱という形で民に伝えられ信望を失う。諦める他ないのだ」
「……それはどうかな?」
「なに?」
その時、ずっと黙っていた俺が口を開き立ち上がる。俺を抑えていた衛兵は止めることなくそれを赦す。
有り体を見た王は眉間に皺を寄せた直後、指パッチンを鳴らすと場は一変する。
俺たちに刃を向けていたレピュドゥス公爵家の兵士たちは身を反転し全員が王に武器を向けた。
合計で千近い兵士たちに槍やら剣やらを向けられた王と王子、令嬢は慌て出す。
「貴様らなんの真似だ!」
第一王子が武器を手に怒鳴り、立ち向かうが努力虚しく最も近い場所にいた下級兵士に攻撃を弾かれ剣は宙を舞って地面へと刺さった。
「おのれレピュドゥス、裏切ったか!!」
「それだけじゃないぞ」
地獄はまだ続く、俺はそう口にする。
グルリと周囲をみれば、集まっていた官僚たちは全員、三人に目を吊り上げていた。
いつもであれば彼らは王に恐れをなしヘコヘコしていたが、ヴィンセントが彼らを金で買収していたのだ。
「おのれ、おのれおのれおのれ!」
「入ってこい!」
まだ余興は続く。
ヴィンセントの一言で、再び大扉が開かれる。
清楚を絵に書いたような装いの女性と、屈強な体をしている戦士の二人が入ってきた。
その後ろには、歯ぎしりをしながら平民たちが来る。
先頭を行く戦士の名前はロビン、僧侶はセーニャだ。
ともに勇者パーティーで苦楽を共にした竹馬の友。 王の大きな後ろ盾になっている者は数多いが頭ひとつ抜けているのがレピュドゥス家。
昨夜、二人と平民達にレピュドゥス公爵家に闇討ちを仕掛けさせ、当主を暗殺させた。
だが、兵士たちには利用価値があるため余興を演じさせた。
「全く無茶させんなっての」
「すまんな、で例のものは?」
「あぁ、これか?」
そう言ってロビンは手に持っていた丸型の袋を取り出し、手渡した。
誰もが袋に注目する中、俺はそれを王の方へと投げる。ザッザッと絨毯と袋の擦れる音が二、三度目鳴り王の足元へと到達。
怪訝そうに王は拾い上げると、袋の結び目を解く。刹那、後ろで見ていた二人を含め王はその袋を落とした。
すると、中から現れたのは誰かの生首。
顔はこちらに向けていないため特定は難しいだろうが、レピュドゥス公爵家の当主だ。
「な、なんと……!」
「ま、待って父様!」
場の空気を読めない愚かな令嬢が父を呼ぶ。
だが、ヴィンセントはそれに答えるまでもなく、無視をする。
「私たち、血が繋がってるわよね!? お願い、お願いします父様! ごめんなさい、謝るから許して!」
「この後に及んで命乞い……奴隷たちが哀れでならない」
「父様! 何でもする、もう悪事はやめるから! 大人しくする約束するから! あ、あとラーチンス、勇者! 謝る、土下座するから! 宝石は?! わ、私は貴方のな言いなりにな──」
「ちょっと待ちなさいよ!」
ルジェクトルの主張を遮るように後ろから亜麻色の髪を珍しくハーフアップに纏めた魔術師ティナが歩いてくる。
俺の隣に来た、そう思えばギュと俺の右腕を掴み体を押し付けてくる。
「え、ちょ何してんの?」そんな顔で見つめれば彼女は小悪魔的にニッと笑い、ルジェクトルに言い放つ。
「私とラーチンス、結婚するから! そういうのやめてよね!」
「は、はぁ?」
「合わせて(小声)」
「あ、あぁ! 俺とティナは深く愛し合っている。そもそもお前ごときが割って入れる訳がない! それが奴隷であってもお前みたいなやつなんかゴメンだ!」
「そ、そんな……で、でも父様は私を──」
「お前が私の娘だったと思うと残念で仕方ない。お前は私の人生の汚点だ。死んでくれ」
「え、とう、さま……?」
瞬間、平民の中から彼女が散々雑に扱ってきた奴隷たちが飛び出す。
持っていた様々な武器を手に、壇上へと上がっていく。ルジェクトルは目に涙を溜め込み、逃げようとしたが出来るはずもなく、奴隷たちに暴行をされ、気絶した。
それが開戦の狼煙と言わんばかりに、鬱憤の溜まっていた兵士、臣下、平民、誰かれ構わず残った王と王子目掛けて走り出す。
阿鼻叫喚、一人の人間からあれほどの血液が出るのかと思いながら俺たちは惨状を静観した。
「おい、いい加減はなせよ」
「やーだね。もう結婚宣言したから夫婦だよっ!」
「いや、あれは冗談じゃ」
「この鈍感男! 本気に決まってるじゃん!」
鋭いローキックが突き刺さる。
旅期間中ワンチャンとは何度か思ったが本当とは……。
ともかくこうして俺はゲームのエンドを新たに作り出し、生き残ることができた。
それだけでは無い。本来であればハッピーエンドなんて存在しなかったが、幸せな嫁さんまで手に入れる最高な終わり方になった。
正しく人を評価し、重んじる。
俺はその生き方をしていきたいと、そう思った。




