6.クソ女
「なのに……家族皆がカリエルと王家の為に、尽力したのに……あんな酷い仕打ち……あんな……裏切るにしたって、あんまりよ」
いつ思い出しても、憤怒と悲嘆に涙腺が崩壊してしまう。
2回目の人生が始まってから、この12年間。思い出さないように努力した。
やっとの思いで忌まわしい回帰前の記憶も、激情も、頭の奥底にまで追いやれたのに……。
「酷すぎる……」
1回目に20歳で死んだ自分が、心の奥底で慟哭する。もう……止められない。
「……っ、うっ、うっ、うわーん!」
回帰した今は、12歳の子供。感情が激しく揺れてさはまったら、もう泣き叫んで心が勝手に落ち着くのを待つしかない。
1回目の、あの悲劇。王都の寂れた邸で過ごす私にとって、あまりにも突然だった。
お父様とお兄様が、反逆者として処刑されてしまったのだ。
しかも私が知ったのは、神官達を引き連れた神官長が、二人の生首を届けた時。
あのニヤついた、頬が痩けた神官長の顔は、未だに忘れられない。
邸に突然やってきた神官長は、神官に耳打ちし、テーブルに二つの木箱を置いた。
神官が木箱から赤黒く染まった布包みを取り出して、布を解いた。
中にいたお父様とお兄様が露わになり、腕を伸ばして触れようとしたところで、視界が大きく揺れ……その場で気を失っていたと、後から思い至った。
気を失った私は、そのまま放置されたかと言えば、そうではない。
シンとした邸の中、一人きりだったけれど、ベッドの中で目を覚ました。
使用人の誰かが、さすがに気の毒に思って運んでくれたんじゃないかしら。
絶対、今思い出してもいけ好かなすぎて、吐き気を覚える神官達じゃなかったはずだ。
痛む体に鞭打って、小さくなったお父様とお兄様を連れて、領へ戻ろうとした。
けれど、それは叶わなくて……邸から出してくれなかった。
一人でお父様とお兄様を荼毘に付し、庭に小さな石を並べて埋葬した時の、悔しさと憤り、情けなさったらない。
僅かな使用人も、その日を境にいつの間にかいなくなっていた。
けれど家族でもない人達がいなくて、むしろ良かったのかもしれない。
ケモックだけが、側で寄り添ってくれていた。
それでも一人で見送りが終わった時には、寂しさに体が竦んで、暫く立ち尽くしていた。ただただ、涙が止まらなかった。
「お父様は領民の為に、一生を捧げたの」
掠れた声で、誰にともなく訴える。
回帰して、領地経営は私が担うようになった。だからこそ、ぶっちゃけ経営は下手くそだったと思う。けれど魔獣対策には手を抜かず、お金もかけて領民を守っていた。
そんなお父様だからこそ、今もたくさんの領民に慕われている。
「お兄様は、正直、脳筋馬鹿ね。けれど不思議と人を集める魅力があって、学園では友達もたくさんいたはずだわ」
妹である私とカリエルの婚姻だって、友であるカリエルを守ろうとしたからこそ、私にも頭を下げたの。婚姻を了承して欲しいって、頼んできたのよ。
「父子二人して、あんな寂れた場所で、寂しく逝かせて良い人達じゃなかった」
家族を見送った後も、カリエルはやっぱり邸外に出る事を許さなかった。
1度だって、私には何の説明もせず、カリエルが私につけたと主張する監視者達に、邸へ閉じ込められる日々。
唯一良かったのは、彼等は邸の外に張り付いていても、中の事に何も干渉しなかった事くらいだ。
あの時は呪いを移してやろうかと、本気で憎らしくかったけれど、今なら……いや、無理。
人としてあり得ない。今なら間違いなく暴れて、蹴り倒している自信しかない。
「それから一年くらいしてかしら。私が死んだのって……ふふふ……そう、殺されたのよね」
森の中、ケモックを求めて彷徨い歩きながら、1度目に迎えた自分の最期を思い出す。
「……あんのっ、クソ女っ」
思い出して呟けば、我ながら貴族令嬢が出すような声じゃないなと、頭のどこかでつっこんでしまった。
それくらい自分の声には、怨嗟が混じっていた。
ある日、ピンク頭のクソ女は、ケモックを引き渡せと言いに来た。
きっとケモックに気づいた監視者の誰かが、チクッたに違いない。
片方が折れてはいたけれど、ケモックには立派な角が右側に残っていた。人畜無害なペットとは無縁の、まさに魔獣的外見。
下等魔族とも言われる類で、人類の敵認定される種だった。
魔獣は赤い目がセオリーだ。けれどケモックは澄んだ金目だった。もしかすると魔獣の亜種だったのかもしれない。
「亜種だったから、仲間の魔獣に傷つけられたのよ。うちの可愛いケモックに、なんて事してくれてんだか」
ケモックの可愛らしい外見が浮かんで、涙が止まる。
その分、今度は感情がむかつく方へシフトして、頬をプクリと膨らませた。
正直うちの領では、魔獣だって減らし過ぎは良くないとしている。つまり、食物連鎖の一つ扱いである。
だから王都に来て、魔獣を敵認定する人間が多いと知った時は、ビックリした。
昔から神殿は、魔国の住人を魔族と称し、彼等の存在を許さない方針だった。
その上、あの時期のマルトレ王国は、魔国から出てきた人達を、排除する方向に舵を切っていた。
魔獣どころか邸に現れる鼠ですら、監視者達は嫌悪を顕にしていた。
だからケモックが見つかれば、殺される。
そう考えた私は、うちの領でしか採れない薬草を取って来て欲しいとケモックにお願いして、王都から出していた。
ケモックだけなら、監視の目をすり抜けられる。賢い子だったもの。
監視者達は、そこら中をひっくり返してケモックを探した。けれど見つかるはずもない。
ケモックが邸にいないと、ようやく悟ったあのクソ女は、今度は私に優越感に浸る顔を向けた。
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ヒロインはセクシーな傾国美女なんですが、NG出されて胸や谷間というワードを片っ端から封じられました(≧∇≦)
でもヒロインの愛鳥に関する事で、一カ所だけ胸と谷間のワードをもぎ取ったので、ご購入された方は、どこかなーと探してみて下さい!




