4.貧乏くじ
「この国の王位継承は、基本的に長子制。唯一、継承順位が覆るとすれば、長子が王妃の生んだ子供でない場合よ」
森の奥へ進みながら、誰もいないのをいい事に、不敬と取られそうな言葉をどんどん口にしていく。
「カリエルの実母は、子爵家出身の側妃だけれど、既に亡くなっているわ。だからカリエルには、これといった後ろ盾もない。王妃の血を引く、第三王子だっている。つまりカリエルの王位継承権は、第三王子の下。だから第二王子とはいえ、カリエルは骨肉の王位争いとは一番無縁だった。なのに、どうしてあんな事になったのかしら?」
実はカリエルを呪った人物の目星は、ついている。だからこそ犯人が、カリエルを呪っていた理由がピンとこない。
回帰前、カリエルは最終的に王太子となった。けれど、それは成り行きでしかない。
ある日カリエルの異母兄が、13歳の第三王子を城の一室で殺害してしまったのだ。
第三王子は、私と同い年。つまり第三王子が殺されるのは、来年という事になるはず。
ただし大事件のはずなのに、回帰前の王家では、この件は闇に葬られた。
第三王子殺害の目撃者は、侍女が一人だけだったらしく、第三王子は事故死として処理された。
国王にとって第一王子は長子だし、王妃が生んだ息子。その上、13歳の第三王子は、未成年だ。
「更に国王は、持病が徐々に悪化しているとかで、この事件が起きる前……あら? 確か今頃からじゃない? 体調を崩しがちになったのよね」
だからこそ国王と王妃は、既に成人していた第一王子を取った可能性が高い。
「とはいえ実は、第一王子が第三王子を殺害したのは、突発的な衝動だったに違いないと、カリエルは言っていたわ」
同母兄弟の仲は良好だったと、カリエルは14歳で妻となった私に、ある日そう話した。
『第一王子は、精神を病んでんじゃねえか? 第三王子を殺したのも、既に症状が出てたからかもな』
と、後にお兄様がお父様に話していた。
『うーん……もしかすると第三王子は、本当に不慮の事故死か、偶発的な何かが理由で亡くなったのかもね。その際、第一王子が側にいて、責任を感じた第一王子が、次第に精神を病んでいった可能性も捨てきれないよ』
とは、お父様。
2人が話していたのを、私はこっそり聞いていたのは、秘密にしておいた。
回帰前の私は、王都の学園に通う事もなかった。カリエルを含む家族からの情報以外で、王家の込みいった諸事情を知る術は持っていない。
だから回帰前の私には、何が真実か判断する材料が明らかにし不足していた事は否めない。
「カリエルは元々、学園を卒業すれば継承権を破棄し、臣籍降下すると明言した上で、学園に入学していたはず。入学後、その準備も着々と進めていたのよね? しかもカリエルは倒れて1年もしない内に、ベッドから離れられない状態になっていた」
なのに精神を病んだ第一王子は、同母弟が亡くなって暫くして王太子となったにもかかわらず、カリエルを敵認定し、命を狙うようになっていた。
「精神を病んだからって、本当に第一王子はカリエルの命を狙ったのかしら? 第三王子が生きていた頃は、カリエルとの仲も悪くはなかったと聞いていたけれど……」
カリエルが病で亡くなるのも、時間の問題だろうと医官が結論付けた頃、王妃が動いた。
このままではカリエルも第三王子のように、第一王子に殺されてしまうのではないかと、危惧したらしい。
「お兄様から聞いた話ですもの。それに私、王族は二度と信用しないわ。お兄様は王妃が血の繋がらないカリエルも、我が子のように想っていたと言っていたけれど……」
カリエルが城に留まる事で、第一王子がカリエルを狙い続ける。そうなると闇に葬った第三王子の死の真相が、いつか表立ってしまうかもしれない。
回帰前のアレコレで、すっかりひねくれた私は、王妃がそう憂慮した可能性の方が高かったんじゃないかと邪推している。
「結局、お兄様の計らいで、うちの領がカリエルの静養を進言した事にして、王家から争いの芽となるカリエルを押しつけられたわ。私との婚姻命令って形でね。婚約期間もなく、14歳で成人した途端、婚姻よ? 今考えると、貧乏クジでしかなかったわ」
何だか、やっぱり腹が立つ。王命だったから、もちろん拒否はできなかったけれど。
その上、回帰前のうちの領は、超がつくド貧乏だった事も、お父様が王命を受け入れた大きな要因の一つだ。




