2.未来では違っていた
「……もう一度言って」
「はっはっはっ。若いのに年寄り臭い聴力だな、妹よ! 父上、もう一度聞かせて、フィデリカの腰を抜かさせてやってくれ!」
出会い頭に私を肩に担ぎ、お父様が待ち構える書斎に向かった猟犬ブラザーこと、3歳上のガルヴァウお兄様。
暑苦しく吠える前に、いい加減、私を肩から下ろしてくれないかしら。
私が住むこの場所は、王都から早馬で駆けても一週間はかかる辺境領。
だから普段なら、まとまった休みがない限り、お兄様が帰ってくる事はない。
なのに2日前、珍しく帰って来たと思えば……。
あの時は、お兄様がいるなんて露程にも考えず、お父様からの呼び出しで、執務室のドアを開けた。
そうしたらお兄様がいて、お父様は突然、第二王子との婚約について話を始めた。
あの時の私こそ、腰を抜かしそうになったわ。
もちろん今も再び、腰を抜かしそうになっている。
「そうだね、ガル。でも、まずはフィデリカを下ろそうか。さあ、フィー。そこの椅子に座って、もう一度聞きなさい」
方から下ろされた私が、促されるまま椅子に腰かけると、お父様はそう言って、一つ咳払いをした。
キラキラした目、高揚したかのような頬をして――。
「なんと! このマルトレ王国の美男子中の美男子! カリエル第二王子殿下が! こぉ〜んな辺境の、こぉ〜んなお転婆令嬢フィデリカに! 2日前、婚約を拒否したフィデリカに! 直々に! 会いに来ると言ってくれたんだよ!」
こぉ〜んなって、何よ。大体、お転婆令嬢だなんて失礼すぎる。健康体に感謝して、日々、体を動かしているだけよ。
口を真一文字に引き結んだ私は、心の中で悪態をつく。
必死に誤魔化しているけれど、血の気が引いてしまって、卒倒しそう。手先が、どんどん冷えていくのを感じる。
それにしてもお兄様からお父様に、暑苦しさでも伝染したのかしら? お父様のテンションが高いわ。
一応、この国の南の砦と称される、カミュリッチ伯爵家当主なのに。
「却下」
2日前同様、私は短く断固拒否した姿勢を貫く。
「はっはっはっ、若いのにチャレンジ精神がないのかな、妹よ!」
「そうだよ! まさかフィデリカなのに、気後れしたのかな? わかる! わかるよ! なんたって第二王子殿下は、我が国の深窓の麗人! 顔がとんでもなく良いと評判の、王子様だよ! 今ならタダで、ご拝顔し放題なんだよ!」
なのに私の心からの拒絶は、男達の耳を掠めもしていないらしい。
というか深窓の麗人って、女性に向ける言葉ではない? 確かにカリエルが美人寄りの顔立ちなのは、とっくに知っている。
「お兄様、やる気がそもそも無いのでチャレンジもしないわ。お父様、男は顔より中身よ。イケメンの叩き売りみたいに言わないで」
内心、お父様のおかしな言葉につっこみつつも、根負けせずに断固拒否する。
「はっはっはっ、何を言う、妹よ! お前がイケメン麗人に弱いのは、俺も父上もお見通しだ!」
「タミョルと近隣領へ、イケメンウォッチングを敢行し、今ではイケメンを愛でる会の怪しい集会を開いているだろう。お父様はお見通しさ」
「くっ、何てこと!? 発足したばかりだというのに、もうバレた!?」
指先の冷えは、足先にまで伝わっていく。
なのにお父様の暴露に、思わず反応してしまったわ!?
「ゴホン、見くびらないで。見ず知らずの殿方に興味はないし、中身だって重視しているもの」
思わず出てしまった反応に、一つ咳払いをしてから、断る方向に話をしてみる。
「はっはっはっ、カリエルは俺の学友だ! 見ず知らずではないぞ!」
「ご兄弟の中では誰よりも誠実な人柄だし、それなら婚約者候補としてどう……待て待て、話の途中だよ! フィデリカ? うお〜い、どこに行く?」
けれど、駄目だった。男共に聞く耳はないみたい。だとしたら、話すだけ無駄じゃない。
そう判断したからこそ、お父様の話の途中でスクッと立ち、そのままドアの方向に足を進める。
すると慌てたように、男達がドアの前に立ちはだかる。
お兄様の学友だから、何? 今の私にとって、見ず知らずの人よ。
誠実な人柄? 確かに今はまだ、誠実な人柄かもしれない。
けれど未来では、違ってたもの! そもそも所詮、あの王子達の中ではって話じゃない! 比べる対象が酷すぎる!
「とにかく、私は関わりたくありません。誠実? ふふっ、笑わせるわ」
思わずこれから起こる未来を思い出して、走った胸の痛みに泣きそうになる。
柔和な顔だけど、中身は熱い性根をした、真紅の髪のお父様。
顔も性格も勝ち気。けれど裏表のない真っ直ぐな性根をした、お母様と同じく紫がかった黒髪のお兄様。
回帰前のお母様は、私を生んですぐに亡くなっていた。
赤紫色の髪をした私はもう、愛する肉親二人の髪が、くすんだ血の赤に染まった、あんな変わり果てた姿を見たくない。
爆発しそうになる怒りと哀しみ。そして何よりも大きな虚無感。
それらを胸に押しこめて、笑みを浮かべる。
「二人共、私の言葉をちゃんと聞いて。王子と関わるくらいなら、私は命を断つわ。決して、何があっても、関わるつもりがないの」
自分のような特殊な煌めきはないとはいえ、同じ色をした大切な家族達の薄緑色の瞳を見据えてから、静かに告げた。
そうして、やっと私の言葉が耳に届いたらしい。
二人が息を飲むのを見届けてから、私は部屋を出た。
お久しぶりです!
本日、投稿タイミングの研究がてら、4話連続投稿していってますヾ(≧∇≦)
しばらくは毎日投稿です(*´∀`*)
ジャンルは最後まで悩みましたが、ファンタジーにしました!
詳しくは活動報告でくわしく書いてるので、良ければご覧下さいm(_ _)m
◆お知らせ◆
3月5日にベリーズファンタジーより、新刊が発売されます!
【稀代の悪女】と作風が似て、シリアスが逃亡する書き下ろし作品です( ´艸`)
規約違反になるので、小説投稿サイトのベリーズカフェでのみ一章まで公開しています。
https://www.berrys-cafe.jp/book/n1773402
noteとはてなブログで販売サイトを勝手にまとめているので、試し読みしてお好みでしたら、ご購入下さい!
◎note◎
https://note.com/arashihanako1/n/n69e8ad362b89
◎はてなブログ◎
https://arahana-ashika.com/entry/2026/02/15/124149
◆ヒロイン小話◆
何故か稀代の悪女の編集様の時同様、ベリーズファンタジー編集様とも
「ヒロインは元々、純粋じゃないので、純粋からの悪女的な過程はありませんよ?中身年食った人間なんで、転生しても最初から悪女寄り、てか人生経験ある普通の人間ですよ?」的なやり取りをしたので、どちらのヒロインも根本性格が似てます(・∀・)




