1.崖っぷちで宣言、からの舌を噛む
「ずぇっったいっ、嫌よ!」
小高目な崖の中腹で叫ぶ。高さ3メートル付近。
岩壁が一部削れて欠けた、大人二人が並んで座れる程度のスペースがあるこの場所は、私の休憩スポットだ。なかなかの絶景である。
「フィデリカお嬢様〜、何もそこまで嫌がらなくても……」
「嫌ったら嫌!」
「お嬢様〜……見上げると首痛いんで、取りあえずそこから降りてくれません?」
自分の首の為に懇願するのは、私の専属侍女。黒髪に焦げ茶色の瞳をした彼女の名前は、タミョルだ。
困ったように、いえ、絶対、ちっとも困っていないのが透けて見える口調だ。
高さもあるから、タミョルが首の痛みを訴える気持ちも、わからなくはない。
当然、落ちると高確率で大怪我をする。大人でも、登っている人など見た事がない。
だからこそ、私的には穴場なのよ! 自分の身体能力には感謝しかないわ!
それにしてもタミョルは、私という伯爵令嬢の侍女をやってる自覚はないの? もう少し、心配してくれてもいいんじゃない?
「タダで降りたら、登り損じゃないの」
だからつい、そんな憎まれ口を叩いてしまう。
私の名前は、フィデリカ=カミュリッチ。
プリプリお肌の12歳。今のところ健康優良児。これでも伯爵令嬢だ。
なお、ちょっぴり背が低いのは、お母様からの遺伝だと思う。
けれど前世……いえ、回帰前の私は、2年後となる14歳から、とある理由によって徐々に病弱令嬢になっていく。
お人好しが過ぎたんだと、今なら思う。
そのせいで回帰前の私の身長は、大して伸びなかった。
「そんな未来には、もうならないわ。絶対、回避してやる。そう、だから……」
「え? お嬢様〜、何か仰いましたか?」
「あら、私ったら。いつから独り言を言っていたのかしら?」
タミョルの言葉に、我に返って呟く。
けれど、ちょうどいいわね! まずは今後も私専属の侍女をしてくれるだろうタミョルに、きっぱり宣言してやろうじゃないの!
「絶対の絶対の絶対に! カリエル第二王子と結婚なんて! お断りよー!!!!」
時刻は、よく晴れた日の早朝。私の宣言は、崖下までしっかりこだました。
「はあ~、スッキリし――」
「お嬢様……結婚じゃなくて、婚約ですよ〜」
タミョルが呆れる。ものすごくやる気のなさを感じさせる口調で、崖下からツッコミを入れられてしまった。
「くっ、一々つっこまないで! それくらい、わかってるわー!」
「だったら早く降りて下さ〜い! あと今回は私、お嬢様のアリバイ工作はしてませんよ〜! さっさと帰らないと、間違いなく旦那様がお嬢様の捕獲に、猟犬ブラザーを解き放つと思いま〜す!」
語尾を間延びさせたタミョルの言葉に、私はギョッとしてしまう。
「何ですってぇ!? 私を迎えに来る際には、アリバイ工作しといてって、いつも言ってるじゃない!?」
「ふふふ、わかってませんね。タミョルはここぞという時の、お転婆を諌めるタイミングは逃しませんよ!」
「侍女なのに、なんて悪い顔してるの!? あ〜、もう! お兄様が迎えに来る前に、帰るわよ、タミョル!」
「お嬢様は自分で思ってるより、チマッとしたドジっ子ですからね。転がらないよう、気をつけてお降り下さい、可愛らしいお嬢様」
くっ! チマッともドジっ子も余計よ! しかも実は礼儀作法が私よりも完璧な侍女が、嫌味のように美しい所作で一礼したわ!
「でも諦めないんだから! プランBを決行してやる!」
「はいは〜い、ほらほら、ロープはどこです? しっかり握って、足元しっかり見極めて降りないと危ないですよ〜!」
私の日々の言動に慣れきったタミョルは、侍女なのに余裕をかましている。
「見てなさい! 最近習得した、この駆け降り技術を!」
「へ? ちょっ、お嬢様!? ロープは!?」
宣言してから、ここ数日で取得した奥義を披露する為、スクッと立ち上がる。
もちろんロープなんて、最初からない。そのまま垂直に近い岩壁を、まずは数歩走る。
「タミョル、慌てるなんてまだまだ、ッガッ!」
私が落下するのを抱き止めようとでもしているのか、右往左往しながら移動するタミョル。
「調子に乗って、舌噛まないで下さ〜い!」
なのに、私につっこみを入れるくらい、余裕があるのね!?
「負けな、ッガッ!」
「また〜!」
くっ、痛いわ! けれどまだまだ、この程度の舌の衝撃なんて、へっちゃらよ! 二度噛みはまあまあ痛いし、鉄臭い味が口に広がるけれども!
もう着地するまで、二度と喋ってやるもんですか!
そう無言で決心し、体のバランスを取ってブーツの爪先を上げ、踵を使ってスピードを緩める。
――ザザザザッ。
動き安さと登り安さを重視して作った、お気に入りのブーツだけれど、踵が磨り減るのは気にしない! タミョルにひと泡吹かせてやるわ!
崖の所々に隆起した、登り下りの足場に使うスポットへ片足を乗せる。
「ほうほう?」
ちょっとタミョル? 感心した声を出したわね! 見守りスタイルに切り替える前に、もっと慌てなさいよ!
同じ要領で、更に下にあるスポットに移動しつつ、勢いを殺しつつ、岩壁を縦移動するだけでなく、横移動もしていく。
徐々に近づく、地面に雑草が茂る地点。
地面までタミョルが二人分という高さの所で、えいっ、とスポットを蹴り、雑草に着地。
からの、即座に落下の勢いで足を痛めないよう、横に倒れて転がった。
「わぁ〜、野生化に磨きがかかりましたねぇ〜」
タミョルはそう言いながら、パチパチと拍手する。
けれどタミョルの視線は、私に怪我がないか目視するのに忙しなく動いているのを確認した。
心配されている事に、気を良くする。
「ええ、無傷だから安心して!」
「でしたら、二度と崖には近づかないように……」
まずい、タミョルの小言が炸裂するわ!
見た目と口調だけは、おっとり美少女風のタミョル。
けれど騙されてはいけない。実年齢は三十路だ。一度火が着いた小言は、とっても長い!
「さあ、帰るわよ!」
「もう〜」
不服そうなタミョルを後ろに従え、邸に帰還――する前にお兄様に捕獲され、邸に連行されてしまったのだった。
お久しぶりです!
本日、投稿タイミングの研究がてら、4話連続投稿していってますヾ(≧∇≦)
しばらくは毎日投稿です(*´∀`*)
ジャンルは最後まで悩みましたが、ファンタジーにしました!
詳しくは活動報告でくわしく書いてるので、良ければご覧下さいm(_ _)m
◆お知らせ◆
3月5日にベリーズファンタジーより、新刊が発売されます!
【稀代の悪女】と作風が似て、シリアスが逃亡する書き下ろし作品です( ´艸`)
規約違反になるので、小説投稿サイトのベリーズカフェでのみ一章まで公開しています。
https://www.berrys-cafe.jp/book/n1773402
noteとはてなブログで販売サイトを勝手にまとめているので、試し読みしてお好みでしたら、ご購入下さい!
◎note◎
https://note.com/arashihanako1/n/n69e8ad362b89
◎はてなブログ◎
https://arahana-ashika.com/entry/2026/02/15/124149
◆ヒロイン小話◆
何故か稀代の悪女の編集様の時同様、ベリーズファンタジー編集様とも
「ヒロインは元々、純粋じゃないので、純粋からの悪女的な過程はありませんよ?中身年食った人間なんで、転生しても最初から悪女寄り、てか人生経験ある普通の人間ですよ?」的なやり取りをしたので、どちらのヒロインも根本性格が似てます(・∀・)




