22.激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンク〜カリエルside
「フッ、お兄様。婚約者同士の戯れには、口出し無用よ!」
フィーは勝ち誇った顔で、婚約者同士って言った!? あれだけ嫌がっていたのに!? フィーの中で何があったの!?
ちょっと、いや、かなり嬉しい! 我ながら感情のアップダウンが激しいけれど、嬉しい!
「はあ!? 婚約者同士って、まだそんなに時間は……」
「既に婚約は成立したのだから、時間なんて関係ないわ」
フィーの言葉に驚くガルヴァウ。
私も驚きだ。フィーの気持ちの切り替え、早すぎる。
「フィー、それじゃあ……」
けれど切り替えてくれるなら、それはそれで……うん?
フィーが私の方へ一歩踏み出したのだけれど、どうしてかな? フィーから、やけに威圧感を放つ、見えないオーラ的な、圧のような何かが、「フオォォォ」と聞こえない音と共に放たれている気がしてならない。
フィーがまた一歩、ゆっくり私に近づく。
ゆっくり? 違うな。
大型肉食動物が、貧弱な獲物を前に、絶対強者の足取りで悠然と近寄る。
そんな言葉がピッタリだ。
もしかしなくても、フィーは怒り心頭なんだろうね! 全身で訴えているよね!
けれどフィー? 私の思うように事が運んだという事で……合っている……よね?
不意にフィーが片方の手を、私の頬に触れた。次いで柔らかく微笑む。
そんなフィーに、私の心臓がドキリと跳ねた。
「フィ、フィー……モァグ!?」
と思ったら、フィーがいつの間にか空いていた方の手に持っていた小瓶の口を、私の口に突っこんだ!?
逃げようとした。けれど頬に触れていたフィーの手が、私の顎をガシッと掴んで離さない! すごい力だね! やっぱりずっと魔法で身体強化しているんだよね!
「ほらほら、飲みなさい! そんなに婚約したかったのなら、婚約者が丹精こめて作った、激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンクを飲み干しなさいな! ほらほらほらほらー!」
「ふぉぐっ、んぐっ、うぉえっ、んぐっ、んぐっ」
黒い笑みを貼りつけたフィーが叫ぶ。悪役どころか、完全に破落戸だ。目が血走っている。
小瓶の色は透明。液体の色は青緑紫色。
何という、毒々しい液体色なんだ。
今すぐ吐き出さねば死ぬ。そんな本能的回避欲求が湧き起こる。
しかしフィーの『婚約者が丹精こめて』という言葉を聞き、どうにか理性を総動員して、本能を抑えこむ。
「俺の妹が、破落戸……いや、もう輩だろう。輩にしか見えねえ……味を想像できる限りの表現した後のワードが、ゲロドリンク。ゲロ……俺、絶対飲めねえわ。飲んでるよなな、カリエル。なあ、もう婚約者やめたら?」
ガルヴァウ。解説はいいから、フィーを止めて? 遠巻きに、というか、フィーの奇行に恐れをなして後退してないでさ。お願い、いや、お願いします。
ガルヴァウとケモックは、互いにギュッと抱き合っている。
けれど君達が恐れをなしてるのは、親しい間柄のはずのフィーだよ?
ちなみに液体の味は、お察しだ。とんでもなく不味い。不味いという表現では足りない、突き抜けた味だ。
その上ドロッとしている。スライムが自分の意志を持ち、私の舌を一々刺激してから、喉を這って体内に侵入しているかのようだ。恐ろしく陰険な喉越しだ。飲みこめている自分が、むしろ恐ろしい。
「ほらほら! 最後の一滴まで、しっかり飲み干せー!」
「んぐっ……ん……ぐ……」
フィーの声援(?)に応えて、死ぬ気で最後まで飲み干した。
吐き気と口中の異物感に加え、脱力感に襲われて膝から崩れ落ちる。
倒れこみそうになるのだけは、なんとか堪えた。
「ふん!」
「オエェ゙ッ」
その時フィーが突然、私の腹に渾身のグーパンチ。
表現したくないが、飲み干したはずのスライムがオロロロ〜と口から出てきた。
「やべえ……俺の妹がやばすぎる。輩なんて言葉が可愛らしい……もう、魔王だな……」
ガルヴァウ、お願い。君の妹のフィーを止めて……止めて下さい……。
「って、何だ、その色?」
けれど不意にガルヴァウの声音が変わった。
嫌がるケモックをフィーに押し付け、私に駆け寄ると、屈んで私の背中を擦ってくれる。
私はその間も、スライムを吐き出し続けた。
意識が朦朧とする中、気づいた時には私の眼前に、黒いスライム溜まりができている。
涙で霞む私の視界が黒溜まりを捉えたところで、暗転した。




