21.生き物は投げちゃいけません~カリエルside
「な、何が起こったんだ!?」
ガルヴァウの逞しい腕の中、思わず叫んだのは私だ。
ガルヴァウに庇われなければ、飛んでくる壁や床の破片で大怪我をしていただろう。
背筋が薄ら寒くなる。
「……え?」
しかし土煙が引き、目にした光景に呆けてしまった。
「あー……やっぱ思った通りだったかぁ」
一方、髪から小さな破片を溢しつつ、私に回していた腕を外して立ち上がるガルヴァウは、至って冷静だ。
流れるように私の腕を引き、立たせた。
「たのもぉー!」
すると今度は、吹き飛んだ窓からドスの利いたような、逞しい叫び声が!?
聞き覚えのある声に、まさかと思いつつ見守っていると、窓の残骸を跨い入ってきたのは、長い髪をポニーテールにしているフィーだった。
腕には少し前のお茶会で婚約者だといった、黒い子山羊を抱えている。
「……えーっと……ね、ねえ、フィー?」
そんなフィーの背後が気になり、戸惑いつつも声をかける。
だって見晴らしが随分良くなった元窓枠の向こうには、翼をはためかせて空中に浮かぶガーゴイルがいるんだもの。
まさかまさかと思いつつ……。
「ひょっとしてフィー、アレに乗ってきた?」
理性なのか本能なのかわからないけれど、とにかく否定しようとしたくとも、そうとしか考えられない。だってココ、校舎の三階だよ? フィーは窓を破壊して入って来たんだよ?
状況はわかるけれども……え、どういう事?
私の頭の中は現在進行形で、大パニックだ。
「あぁ〜ら、そこにいらっしゃるのはお兄様かしら?」
そんな私の胸中など知る由もないフィーは、まず初めにガルヴァウに向かって、いかにもな感じでわざとらしく声をかける。
「それから……」
フィーはそう言うと、今度は私に向かって真っ直ぐに鋭い視線を突き刺してきた。
「……フィー」
壁が吹き飛ぶ事態。そして壁に外づけされたガーゴイル。
それらが何をどう考えても、自分の惚れているこの少女によるものだという、衝撃の事実。
そのせいか私は、鋭い視線を正面に受けながら、愛称のみを口にするので精一杯だ。
なによりフィーは、とある舞台で見たような悪役令嬢……いや、悪役そのもののような顔をしている。
正確には、顔だけじゃない。可視化できないけれど、全身からも黒い何かをほとばしらせているかのようだ。
ほんの12歳の女の子なのに、もう極悪人にしか見えない。
「ターゲット・ロック・オン! 行け! 私の可愛いモケック二世!」
んん!? フィーは今、何て言ったの!?
なんて思っている間にも、フィーが黒い何かをボールのように持ち、投棄スタイルに入る。何の躊躇もなく、ケモックを私に向けてビュンッと投げた。
気のせい……じゃ、ないよね!? ケモック二世……いや、それ回帰前では、角が片方折れてたケモック本人じゃないかな!?
「ケモケモォ~!?」
投げられたケモック二世は、明らかにケモケモと喋りなが、逞しい黒山羊へと変化しながら飛んでくる。
うわ、ケモック泣いてるよ!? 無抵抗に、フィーにされるがままだけれど、ケモック泣いちゃってるよ!?
なんて言葉の数々が、浮かんでは消える。
もう何を何から話していいのか、全然わからない! 大大大パニックだ!
しかし何度でも言おう。フィーは、そんな私の胸中など、知る由もない。慮ってくれるはずもない!
飛んでくるスピードが速いよ!? ケモック、投げていいの!? 未来のフィーはケモックの事、可愛がっていたよね!? 一応、ケモックは魔族なんだけど、生き物! 生き物、投げちゃ駄目!
しかし私に当たる前に、ガルヴァウがサッとケモックボールをキャッチした。
斬新な兄妹のキャッチボールスキンシップだ。
「フィデリカ、止めとけ。さすがに王子に向かって物……生き物か。そもそも生き物は、投げちゃいけません」
ガルヴァウ、よく言ってくれた! 流石、お兄さんだ! 私もガルヴァウの意見に大賛成だ!
ガルヴァウの腕の中で震えるケモックも、ウンウンと頷いている! ケモックはガルヴァウの腕にしがみついて、二度と離さないでと全身で訴えている!
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
ちょっと電動ドリルで親指を爪の上から掘り、地味な痛みで集中力が途切れてしまって毎日更新が隔日更新になかも知れません(;・∀・)
※Xに証拠画像を投稿中…グロい掘り痕は見えなくしてます(^_^;)




