19.気持ち一つ
「ほぉ~ら、練って~、練って~、また練って~……」
「フィ、フィデリカ? 転移してきたと思えば……暗黒の気配を纏って一体、何を大釜で煮ておる? ふぐっ、なんという臭い!? 鼻がもげそう……」
声の主は予想通り、ザケルバードだった。フガフガと鼻声になっているから、きっと鼻を押さえているに違いない。
呪いを体に宿しているからかしら? 私には青臭いとしか感じない臭いなのに、ザケルバードの声音は、心の底から臭いと言っている。
こちらにゆっくり近づいてきたらしく、視界の端に長身のザケルバードを捉える。
けれども、やはりここは無視。次の作業へと取りかかる。
「……ふぇっふぇっふぇっ、ここに果てしなき憎しみのエッセンス~、ほぉら、ギンギラ~……」
液体に向かって魔力を注げば、暗緑色から暗紫色に液体の色が変わった。
その時、視界の端にいたザケルバードの背が一瞬、しゃがんだのかと思うくらい低くなった。
「は、はあ!? 何故に我が獣化を!?」
ザケルバードの驚きの声に、うっかりそちらを見やる。
狼狽えるザケルバードが獣化していた。それも前回見た、モフモフキュートな子山羊姿ではない。
「その……姿……」
驚きが口を突いて出る。ザケルバードの姿は私が探し求めていた、凛々しい貫禄さを備えた黒山羊姿になっていた。
そうして合点がいく。
「そっか……ケモックは……でも、あの子は人語を喋れなかったけれど……そっか……きっと……」
私の可愛いケモックは、ザケルバードと名乗った魔国の王が変化した姿だったのね。
やっと会えた感激に、ケモックと呼ぼうとした。けれど口を噤む。
時間が巻き戻り回帰した以上、このケモックは回帰前のケモックとは違うんじゃないかしら。
そもそも彼が人間らしい意志を持っている以上、魔獣とは似て非なる存在よ。回帰前と同じ類の庇護欲や愛情をぶつけるのは、何だか違う気がした。
「ふぅん……わかったわ!」
「いや、絶対、何もわかっておらぬ! 妙な解釈をしたのであろう!」
「ふふふ、いいの! 今日からザケルバードが獣化した時は、ケモック二世って呼ぶから!」
そう判断した私は、二世呼びを決めた。
「清々しい顔で結局、前回同様の二世呼びではないか! やはりわかっておらぬ!」
「はいはい。そんな可愛くない事言ってたら、味を改良してあげないわよ~」
言いながら鍋を持ち上げ、出来上がったばかりの液体を見せる。
「ふん! そんな怪しいポーションなど……」
「コレ、呪いの解呪ポーションよ?」
「な、なにぃ!?」
ザケルバードが目を白黒させて叫ぶ。
「注ぐ魔力は同じよ。ただ作っている時の、私の気持ちに左右されるみたいなの。回帰して、んんっ、小さい頃、呪いっぽい何かを離れた相手から消すとしたらって考えて、ポーションを思いついたわ。けれどどうしても、むかつく奴らを解呪するポーションだと思うと、味が劇的に不味くなっちゃうのよ」
そう。回帰した私は虚弱体質のお母様へ、体力回復ポーションを作る側ら、解呪ポーションを研究していた。
「けれど家族の万が一に備えてと考えて作った時は、突き抜ける辛さか胃もたれする甘ったるさかのどちらかで終わるわ」
「うぐっ、結局どちらも……」
「ちなみに今は当然、人生2回分相当の負の感情をこめにこめたわ。色々な味を一度に堪能できる、ちょっぴりゲロっぽい風味がマックスレベルの【激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンク】ね!」
「ちょっぴりがマックスレベルって、おかしいだろう……」
細かい事にツッコミを入れるザケルバード、いや、今はケモック二世の言葉を無視して続ける。
「つまりね……」
「つ、つまり?」
「私の気持ち一つで味が変わるわ!」
エッヘンと胸を張った。
「お、終わった……究極の選択てはないか……しかしゲロ風味よりはマシ……」
ガックリ項垂れるケモック二世を横目に、小瓶にポーションを封入する作業に移る。
見てなさい! 恨みをしこたまこめて、呪いを解呪してやるんだから!




