18.味変
「混ぜて~、混ぜて~、また混ぜて~……」
――グツグツグツグツ……。
幾つかのロウソクを灯した薄暗い一室で、鍋いっぱいに作っている緑の液体を煮詰めながら、ブツブツと口ずさむ。
カリエルとお兄様に続き、最後はお父様にもブチ切れた私は、深夜に魔国へ転移した。
転移できたのは、古代遺物とされている転移魔法具を持っていたから。
魔法具は魔国の王だと名乗ったザケルバードが、念の為にと持たせてくれていた。
どうやら魔国は今、政権争いが激化しているらしい。
なのに攻撃に特化した魔法を使えない私は、中和魔法で魔国に侵入できてしまう。
ザケルバードが侵入するなと命じても、私の性格上、侵入しかねない。
前回カリエルにブチ切れた私が、ザケルバードを求めて魔国へ二度目の侵入を果たした際、そう判断したらしい。
うんうん、正しい判断よ。
それならいっそ自分の邸の中でも一番安全な、地下の研究室に転移先をセットした転移魔法具を持たせよう。そんな風に考えたザケルバードが持たせたのが、私の服の下に隠れているペンダント型転移魔法具だ。
ちなみに現在、古代遺物とされているこの魔法具は、ザケルバードのお手製である。私の目の前で、所要時間約三十分で作ってくれた。びっくりだ。
魔国の魔法文化が凄いのか、ザケルバードが凄いのか……いえ、きっと両方に違いないわ。
なんて思いつつ、憤怒の気持ちを入念にこめながら煮詰めている液体が、鍋に焦げつかないようヘラでゆっくりとまぜる。
転移場所が研究室だったからか、必要な素材はすぐに確保でき、こうして順調に作業している。
材料は無断拝借しているものの、きっと許してくれるはず。
私が研究室に転移したら、ザケルバードが気づく仕掛けが施されていると言っていた。そのうちザケルバードが研究室に来たら、その時に事後報告するつもりだ。
というのも実は前回、魔国に侵入して早々にザケルバードに見つかり、この研究室に連れこまれた。
その際ザケルバードも含め、魔国の住人達は呪いに侵されていると知った。
だからザケルバードには、私が呪いを解呪できるポーションを作る事を提案し、ポーションに必要な材料を揃えておくよう頼んであった。
前回の研究室に無かった材料があるという事は、私の提案をのむという事だと思う。
それにザケルバードは、きっと子供好きに違いない。
私の婚約者になってくれと言ったら、口では嫌々と言いつつもなってくれた。モフッと可愛い子山羊姿ではあったけれど。
確かに解呪ポーションと引き換えの提案ではあったのだけれど……。
「本当に凶悪な魔族なら、私を捕まえて拷問するでもして、ポーションを作らせようとしてもおかしくないのに……。鼻血を拭えと綺麗なハンカチを差し出したり……優しいんだから」
――グツグツグツグツ……。
加えて美形だ。細身マッチョだ。タミョルと一緒に美形ウォッチングして磨かれた、私の琴線に触れる超絶美形だ。
確かにザケルバードには角もあるし、人間の姿からはほど遠い。
けれど角など、美を可愛く彩るチャーミングポイントにしか見えない。回帰してからずっと探しているケモックと、本当によく似た角でもある。嫌悪など抱くはずがない。
そんな美形で優しいザケルバードだからこそ、きっと無断拝借は許してくれる。なんて無駄に確信している。
「おっと、いけない。美形に心を馳せてちゃ駄目。今はこのポーションにしっかりと憎しみの味を植えつけて……」
私が作る解呪ポーションは、私の気持ちで味に差が出る。ちなみに効果は変わらない。
「あぁ~ら、ドロドロしてきたわ~……」
私の気持ちが通じたように、緑がほの暗い黒さに変色し、ドロドロとした粘り気が出始める。
その時、背後のドアが開く音が聞こえた。
けれど今は、目の前で煮る鍋に全集中だ。




