16.この、ロリコン変態野郎!~カリエルside
「うわああああ!」
更に叫び声を上げた僕は、いや、私は飛び起きた。
今度こそ、はっきりした現実的な感覚を体に感じるも、己の意に沿わない愚行の記憶と、冷たくなっていくフィーの体の生々しい感覚に錯乱する。
「おい、カリエル!?」
聞き慣れた声だと、頭のどこかで微かに思う。
けれど同時に、私の体を力強く押さえた何者かの腕を、混乱したまま、振り解こうともがく。
「フィー! フィデリカ! 嘘だ!」
「フィデリカ!? フィデリカなら……って、おい、しっかりしろ、カリエル!」
「私のせいだ! フィデリカが死んだ! 私のせい――」
「カリエル!!」
大声で怒鳴りつけ、私の言葉を遮った相手の顔を、呆然と見やる。
「ガル、ヴァウ?」
「そうだ、ガルヴァウだ。ったく、どんな夢見てんだ? フィデリカは生きて……」
「ガルヴァウ!」
絶望と歓喜が入り混じった感情に任せ、思わずガルヴァウに抱きつく。
「ガルヴァウ……生きてる……」
「お、おい、カリエル?」
「うっ、うっ……良かっ、良かった……ガルヴァウ……」
「ちょっ、待て、泣いてんのか!? って、腕強ぇな。おい、カリエル……あー、もう!」
放すものかと言わんばかりに、ガルヴァウに強く抱き縋り続ける。
ガルヴァウは、私の腕を弛めるのを諦めたらしい。
幼子にするかのように、私の背を雑に叩き、頭を撫でながら私が落ち着くのを待った。
次第に落ち着きを取り戻していく私は、今の状況を正しく認識し始める。
今の私は15歳。衰弱の兆候が出始める頃だ。
そして無二の親友であるガルヴァウと、最愛の妻であるフィデリカは……生きている!
「すまない、ガルヴァウ」
今より遥か未来で起こした、己の所業を詫びる。
「ん、落ち着いたか?」
「……ああ。ありがとう」
きっとガルヴァウは、取り乱した今の状況を謝ったと思ったのだろう。
そう察しつつ、今度はガルヴァウも含めて、カミュリッチ家が遠い未来に私に尽くしてくれた献身への感謝を口にした。
「気にすんな!」
ニカッと笑うガルヴァウは、当然ながら、やはり勘違いしている。
「それで? どんな夢を見たんだ? 取り乱しながらフィデリカが、妹が死ぬって言われると、さすがに気になるぞ?」
妹はからかって守るものだと、ガルヴァウは常々口にしていた。
どこまで伝えるべきだろうかと思案しかけ……。
駄目だ。今はガルヴァウよりも、フィーの生存を直接確かめたくて仕方ない。
もちろんガルヴァウの事は今、思い出す前よりもずっと深い友愛を感じている。
けれど私は、やっぱりフィーが恋しい。フィーが元気に生きているとわかっていても。
何故、過去に巻き戻ったのか。
私の意志を閉じこめ、フィーを殺したあの女が今どうしているのか。
あの首飾りは何なのか。
全て思い出した。だからこそ、これから私がすべき事も頭に浮かんでいる。
それでも今は、生きているフィーに会いたい!
「すまない、ガルヴァウ! 全て話す! けれど先にフィー、フィデリカに会わせて!」
「はあ!? おい、待っ……」
フィーが頑なに私との面会を拒絶するだろう事は、容易に想像できる。
きっと驚かせたんだ。フィーはまだまだ子供だから、突然の婚約話に怖くなったのかもしれない。
ガルヴァウの制止を振り切って、フィーのいるだろう自室へと駆ける。
以前の私は、このカミュリッチ邸で何年か過ごした。邸の構造も、フィーの部屋も覚えている。
そうだ! やっと思い出した! あの忌まわしい女に、フィーは殺された!
まるで私の健康と引き換えにしたかのように、体調を崩していたフィーは、床に倒れたフィーは、驚くほど軽くなっていた。
ぐったりとしたフィーの体は、熱をどんどん失っていった。
それからの事はあまり覚えていない。
腰に差した剣を手にし、あの女を切り殺した。
そのままフィーの側で膝をつき、剣で首を掻き切ろうとして……。
『グワウッ』
突然現れ黒い魔獣に、腕を蹴られて剣を落とす。
そのまま私は、魔獣に肩を強く蹴られ、後ろへ飛ばされた。
『フィリー……』
私とは違う愛称でフィーを呼ぶ魔獣は、涙を流してフィーの頬に、自らの頬をすり寄せる。
悲しむ魔獣の瞳は、ありふれた赤ではなく、金色の瞳。二本ある角の内、一本が折れていた。
『……ケモックか?』
姿は初めて見たが、フィーから聞いた通りの姿だった。間違いない。
その時、不意に魔獣の輪郭が揺らぎ、徐々に人の形を取る。
『魔国の住人、だったのか……ハッ、フィーから離れ、ガハッ』
角の生えた男の異形の姿に、これ以上フィーの体を傷つけられまいと駆け寄ろうとした。
しかし今度は腹に衝撃波を食らい、吹っ飛んで壁に背中を打つ。
『……フィデリカを助けたいか?』
こちらを見ず、静かに問いかける男。
『助けられるのか!?』
思わずその言葉に食いついた。
『答えろ、愚かなる者よ。その命を散らせても、フィデリカを助けたいか?』
『もちろんだ! 私の命など、幾らでも捧げる! どんな苦痛にも耐える! 頼む、フィーを助けてくれ!』
『その言葉、忘れるな』
男はフィーの胸に刺さる短剣を引き抜き、私の首を掻き切った。
記憶はそこで途切れ、次の記憶は、物心ついた頃へと繋がる。
今の今まで、一度目の人生を忘れていたのが悔やまれる。
もしかするとケモックは、私の命を対価に、時間を巻き戻したのかもしれない。そうとしか考えられない。
「カリエル!」
後ろを追いかけるガルヴァウの声が追いつく前に……。
「フィー!」
「ギャー!」
フィーの部屋のドアを勢い良く開け、中にいたフィーを見て歓喜した私は、フィーに抱きつく。
「こんの、ロリコン変態野郎!」
「んんん!?」
フィーの可愛らしい膝が、私の股間へとクリーンヒット。
歓喜の波はそのままに、私は悶絶した。




