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ぶち切れ聖女は激マズポーションを置き土産に逃亡する  作者: 嵐華子@【傾国悪女】3/5発売予定
1章〜ブチギレるまで

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15.女の首飾り~カリエルside

『フィデリカだけは、守ってくれ。頼む』


 真っ暗な闇の中、そんな言葉と共に浮かび上がったのは、ガルヴァウ。


 今より年を経た風貌のガルヴァウは、手を後ろ手に縛られている。服は薄汚れて所々破れ、殴られたような痕も体のあちこちに見て取れた。


『殺せー!』

『聖女を傷つける奴は死ねー!』


 更に観衆の声がどこからともなく聞こえる。


 するとガルヴァウの後ろに巨大なギロチンがそびえ立った。


 この光景を見たのは、2度目。だから少し冷静でいられた。


『怖いわ』


 けれど不意に、そんな声と共に、見た事のある白金髪の女が、腕にしなだれかかる。


 途端、激しい嫌悪感に胸中が占められていく。


 特に女の首に着けた飾りの宝石。この宝石が放つ怪しい光が、不快で仕方ない。


『聖女……』


 なのに()の口から出たのは、女を慈しむかのような声。 


 身の毛もよだつ程、悍ましい。


 見つめ合うと、女の水色の瞳に浮かんだ私の顔は、今より幾らか年を取っていて、女への愛が見て取れる。


 違う! 私の聖女はフィーだけだ! 止めろ! 早く止めろぉ! ガルヴァウ! 早くガルヴァウを、親友を解放しなければ!


『やれ』


 なのに私は女のピンクの髪をひと撫でして、刑の執行を命じた。


 心の中では激しく抵抗するのに、ガルヴァウを助けろと叫ぶのに――。


 ――ガシャーン!


 ギロチンの刃が落ちた。


 私と女の足下には、おびただしい血が流れ始める。


 この血は、ガルヴァウの血だけじゃない。


 私を匿い、守る為に最愛の娘であるフィーを私の妻にしてくれた、義父の血。


 そして領主の娘であるフィーを慈しんでいた、カミュリッチ家が治める領民達の……。


『あ、ああ、ああああ! フィー! フィデリカ! 助けないと!』

『行かせないわ、私の王様』

『あ……あ……私、の……』

『そうよ、貴方の聖女』


 取り乱し始めた私は、女の声に反応したかのように、思考がまとまらなくなる。


 視界に映ったピンク色の宝石が、禍々しい輝きを放つと共に、ゆっくりと黒ずむ。


 いつしかグワンと目が回り始め、突如、辺りは真っ暗な闇に包まれた。


 違う、お前じゃない! フィー! フィーこそが私の聖女だ! 私の唯一無二の妻なんだ! 助けなければ! 側にいなければ!


 暗闇の中、何度も叫ぶ。なのに私は、私の意識は暗闇の中から出られない。


 いつしか空間の天井には、ある光景が映る。


 父王により王太子妃を宣言され、歓喜する女。


 夜、私の部屋の寝台の上で、共に時間を過ごした女。


 いつも女の首飾りが怪しく光っている。


 この首飾りのせいだ! 私の自我を閉じこめ、女の操り人形にしている!


 ふざけるな! 動け、動け、動け!


 うずくまりそうな自分を叱咤し、暗闇の中を彷徨い続けた。


 そうやって、どれだけの時間を過ごしたかわからない。


 唐突に、闇が終わる。空間全体が、真っ白い光に包まれた。


『体が、動く……』


 願いが叶ったのか?


 自分の意志で己の肉体を動かす感覚に、喜びかけ、ハッとする。


 私を城に止めようとする騎士達を払い除け、フィーのいる邸へ馬を走らせた。


『フィー、今行く!』


 フィーのいるはずの邸は、酷く寂れていて、しんとしている。


 フィーがいないなら、逃げたなら、それならそれで良い。


 あの女を廃して、カミュリッチ家の汚名を拭おう。必ず探し出すけれど、まずはフィーの安全確保が先決だ。


 フィーは……きっと許してくれない。私が最愛の家族を殺したんだから、当然だ。


 全てが終わった時、探し出したフィーが誰かと幸せになっていたら……いや、きっとそれは許せない。


 自分勝手なのは百も承知している。それでもフィーを手放す事はできない。


 やっぱり先に探し出して……。


 そこまで考えた時、微かだが物が壊れる音が聞こえた。


 まさか……フィー?


 走り出す。次第に物が壊れる音と、聞き覚えのある女の声が大きくなる。


 フィーじゃない! この声は、あの首飾りの主! 私の意識を閉じこめた、あの女の声だ!


 何故あの女が!?


 心臓がドクドクと嫌な跳ね方をする。全力で駆けた。


 音は邸の最奥にある、末端の使用人が使う小屋から聞こえた。


『アンタよせいよ! 何て事をしてくれたの! 操れなくなったじゃない!』


 開いたままのドアの向こうから、怒声と暴力的な物音が響く。


 あの女がフィーに何かしているのか!?


『フィー!』


 叫んで駆けこめば、ピンクの髪を振り乱したあの女がビクッと動きを止めた。


 女は正に今、床の何かを蹴ろうとしたかのような状態で……。


『カ、カリエル……』


 呆然としながら私を呼ぶ女の声には、不快感しか感じない。


 女が何を踏みつけていたのか確かめようと、机の向こうに歩を進める。


 椅子が倒れ、物が散らばる床。その中には、砕けたマゼンダピンク色の宝石もある。


 すぐに察した。私がこうして動けるようになったのは、この宝石が壊れたからだと。


 しかし私の思考は、床に広がる赤紫色の髪を視界に入れた途端、停止する。


『あ、の……カリエル?』

『どけ!』


 驚愕した顔で呟く女を突き飛ばす。


 ドスンという音と、女の非難が聞こえたが、そんなものが私の耳に入るはずがない。


 黒い短剣を胸に刺し、ピクリとも動かないのは……。


『……フィー?』


 震える声で名を呼び、床に倒れたフィーの横に膝をついて上半身を起こす。起こした体は、あまりにも軽かった。


『フィー……起きて……ねえ、フィー……』


 初めこそ、フィーの体を揺する。まだ温かいフィーの体。


 けれど……。


『あ、ああ……ああああ!』

「うわああああ!」


 脳裏に響く少し低くなった自分の叫びと、耳に直接響く聞き慣れた自分の叫びが、同時に聞こえた。

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