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ぶち切れ聖女は激マズポーションを置き土産に逃亡する  作者: 嵐華子@【傾国悪女】3/5発売予定
1章〜ブチギレるまで

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14.ケモック二世~カリエルside

「え〜っと?」


 麗らかな陽気の中、僕は改めてフィーと話をすべく対峙する。


 しかし僕は今、とても戸惑っている。


「ケモック二世です」


 僕の戸惑いなど、まるで気づいていないかのように、冷めたような表情のフィーが、真っ黒な毛玉の両脇に背から手を差し入れて紹介する。


 ケモックとやらは、短足な……魔獣かな? 四つ足で立つと、真っ黒な毛に足が埋没してしまいそうだ。


 二本の角が頭の左右から生えている。角の形状から、子山羊のようにも見える。


「…………ケモケモ?」


 ケモックは小さな声で、いかにも言わされてる感満載の鳴き声を発した。


 というか、普通にケモケモ言ってないかい?


「ん、んん〜?」

「ケモック二世」


 僕が首を捻っていると、フィーが言外に鳴け、と命令したかのような口調で名前を呼ぶ。

「ケ、ケモケモ……」

「それは……魔獣、かな? 喋ってるよね?」

「人畜無害の、スペシャルに可愛らしい、新種の生命体、ケモック二世です。喋ってません。鳴いてます」

「……ケモケモ」

「し、新種……一世はどこ……」

「はい、ケモック二世です。昨日殿下とお別れしてから、即刻、兄の目を掻い潜り、大急ぎで捕獲してまいりました。可愛らしく仰天チェンジした黒丸モフな二世とは対照的に、黒艶凛々しい一世も絶対に見つけます」

「……そ、そっか。一世を見つける前に、二世を捕獲したんだ? それでね、僕と婚約……」

「嫌です。私は昨日、こちらのケモック二世と婚約しました」

「人じゃない、よ?」

「二足歩行すれば、立派に人です。ね、ケモック二世」


 フィーに同意を求められたケモック二世は、フィーの膝上でスクッと立ち、地面に飛び下りた。


 二足歩行を見せつけるかのようにして……ねえ、フィー? ケモックは今、この場を去ろうとしてないかな? 全身で放つオーラが、関わりたくないって言ってない?


 ――ヒュンッ。

「ウヒョォッ」


 フィーが瞬時に投げ縄を一回(ひとまわ)しして、ケモック二世の胴に引っ掛ける。問答無用で引き寄せたフィー。


 縄をどこからだしたのかとか、つっこみたいけれど、スカートの中に縄をしまったね? そこに隠してたんだ?


 いや、それより……。


「ねえ、ケモック二世から男の声が……」

「逃さないから、ケモック二世。昨日、約束したでしょう? 今、僕を置いてったら、末代までモフッて腹吸いしにつきまとってやる」

「お、おい……」

「ケモック二世?」

「くっ、ケモケモ……」


 フィーとケモックの会話の合間に、明らかな人語が混ざってる気が……。


「王子殿下、気の所為です。ね、ケモック二世」

「……っく……ケモケモ……」


 ケモックの何かを堪えるような、とんでもない不承不承感が伝わってくるよ?


 魔獣か動物かは置いておいて、表情が豊かすぎない?


「それでは、婚約者との語らいがあるので失礼します」

「待って。逃さないよ。その魔獣ごと、僕がフィーを娶るって言ったら?」


 そうだ、ケモックは()()()()()()()()()()()


 もっとシュッとした感じだったけれど、きっと同じ魔獣……あれ?


 まただ。また……既視感を感じている。


「何、それ……え、気持ち悪。夜も三人でって事!?」

「ケモォ!?」


 既視感に驚いていれば、フィーから思ってもなかった、複数アブノーマル方向での夜をでっち上げられる。


 ケモックはマジかよ、的な驚きと、ドン引きと、拒絶と、悲壮感が混合した悲痛な叫びを上げた。


 ちょっとケモック二世! 動物的つぶらな瞳に非難を載せて、僕の方を見るの止めてくれない!?


 フィー、女の子は精神的に大人になるのが早いって言うけど、おませさんが過ぎる……。


「それは……」


 流石にフィーと獣と一緒に、夜を営みたいなんて、思うはずがない。


 そもそも12歳のフィーには、まだまだ早すぎる!


 大人になっても、夜のフィーを獣の皮を被った◯◯なんかに渡さない。僕だけのものだ。


 あれ、また? ◯◯? まるで僕は、ケモックが人であるかのように、ライバル視する感情が芽生えているみたいだ。


 密かに湧いた嫉妬心に戸惑いつつも、平常心を心がける。


「ケモック二世をアレコレ好きにしていいのは私だけよ、変態!」

「ケモケモケモ!?」


 フィー、言い方。


 ケモック二世が、お前は俺に何するつもりだ的な焦りをフィーに見せ、それとなく抵抗するケモック二世。


 しかしフィーは意に介さず、ケモック二世を抱き上げ、問答無用で走り去っていく。


「待っ……」

――ドクン。


 心臓が大きく波打つ。ジワジワと広がる鈍い痛み。


 ()()だ。この()()()()心臓の痛み。


 え? 懐かしい? 僕はいつ、こんな痛みをあじわった?


 そう思う間もなく、視界が暗転し始める。両膝から力が抜けて、ガクンと膝から崩れ落ちる。


「おい、カリエル! しっかりしろ! 誰か来てくれ!」


 僕が地面に頭をぶつける前に、厳つい男の手がすくい取る。声からしてガルヴァウだ。


 フィーと僕の成り行きを、隠れて覗き見ていたんだろう。

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