14.ケモック二世~カリエルside
「え〜っと?」
麗らかな陽気の中、僕は改めてフィーと話をすべく対峙する。
しかし僕は今、とても戸惑っている。
「ケモック二世です」
僕の戸惑いなど、まるで気づいていないかのように、冷めたような表情のフィーが、真っ黒な毛玉の両脇に背から手を差し入れて紹介する。
ケモックとやらは、短足な……魔獣かな? 四つ足で立つと、真っ黒な毛に足が埋没してしまいそうだ。
二本の角が頭の左右から生えている。角の形状から、子山羊のようにも見える。
「…………ケモケモ?」
ケモックは小さな声で、いかにも言わされてる感満載の鳴き声を発した。
というか、普通にケモケモ言ってないかい?
「ん、んん〜?」
「ケモック二世」
僕が首を捻っていると、フィーが言外に鳴け、と命令したかのような口調で名前を呼ぶ。
「ケ、ケモケモ……」
「それは……魔獣、かな? 喋ってるよね?」
「人畜無害の、スペシャルに可愛らしい、新種の生命体、ケモック二世です。喋ってません。鳴いてます」
「……ケモケモ」
「し、新種……一世はどこ……」
「はい、ケモック二世です。昨日殿下とお別れしてから、即刻、兄の目を掻い潜り、大急ぎで捕獲してまいりました。可愛らしく仰天チェンジした黒丸モフな二世とは対照的に、黒艶凛々しい一世も絶対に見つけます」
「……そ、そっか。一世を見つける前に、二世を捕獲したんだ? それでね、僕と婚約……」
「嫌です。私は昨日、こちらのケモック二世と婚約しました」
「人じゃない、よ?」
「二足歩行すれば、立派に人です。ね、ケモック二世」
フィーに同意を求められたケモック二世は、フィーの膝上でスクッと立ち、地面に飛び下りた。
二足歩行を見せつけるかのようにして……ねえ、フィー? ケモックは今、この場を去ろうとしてないかな? 全身で放つオーラが、関わりたくないって言ってない?
――ヒュンッ。
「ウヒョォッ」
フィーが瞬時に投げ縄を一回しして、ケモック二世の胴に引っ掛ける。問答無用で引き寄せたフィー。
縄をどこからだしたのかとか、つっこみたいけれど、スカートの中に縄をしまったね? そこに隠してたんだ?
いや、それより……。
「ねえ、ケモック二世から男の声が……」
「逃さないから、ケモック二世。昨日、約束したでしょう? 今、僕を置いてったら、末代までモフッて腹吸いしにつきまとってやる」
「お、おい……」
「ケモック二世?」
「くっ、ケモケモ……」
フィーとケモックの会話の合間に、明らかな人語が混ざってる気が……。
「王子殿下、気の所為です。ね、ケモック二世」
「……っく……ケモケモ……」
ケモックの何かを堪えるような、とんでもない不承不承感が伝わってくるよ?
魔獣か動物かは置いておいて、表情が豊かすぎない?
「それでは、婚約者との語らいがあるので失礼します」
「待って。逃さないよ。その魔獣ごと、僕がフィーを娶るって言ったら?」
そうだ、ケモックはいつもフィーの側にいた。
もっとシュッとした感じだったけれど、きっと同じ魔獣……あれ?
まただ。また……既視感を感じている。
「何、それ……え、気持ち悪。夜も三人でって事!?」
「ケモォ!?」
既視感に驚いていれば、フィーから思ってもなかった、複数アブノーマル方向での夜をでっち上げられる。
ケモックはマジかよ、的な驚きと、ドン引きと、拒絶と、悲壮感が混合した悲痛な叫びを上げた。
ちょっとケモック二世! 動物的つぶらな瞳に非難を載せて、僕の方を見るの止めてくれない!?
フィー、女の子は精神的に大人になるのが早いって言うけど、おませさんが過ぎる……。
「それは……」
流石にフィーと獣と一緒に、夜を営みたいなんて、思うはずがない。
そもそも12歳のフィーには、まだまだ早すぎる!
大人になっても、夜のフィーを獣の皮を被った◯◯なんかに渡さない。僕だけのものだ。
あれ、また? ◯◯? まるで僕は、ケモックが人であるかのように、ライバル視する感情が芽生えているみたいだ。
密かに湧いた嫉妬心に戸惑いつつも、平常心を心がける。
「ケモック二世をアレコレ好きにしていいのは私だけよ、変態!」
「ケモケモケモ!?」
フィー、言い方。
ケモック二世が、お前は俺に何するつもりだ的な焦りをフィーに見せ、それとなく抵抗するケモック二世。
しかしフィーは意に介さず、ケモック二世を抱き上げ、問答無用で走り去っていく。
「待っ……」
――ドクン。
心臓が大きく波打つ。ジワジワと広がる鈍い痛み。
まただ。この懐かしい心臓の痛み。
え? 懐かしい? 僕はいつ、こんな痛みをあじわった?
そう思う間もなく、視界が暗転し始める。両膝から力が抜けて、ガクンと膝から崩れ落ちる。
「おい、カリエル! しっかりしろ! 誰か来てくれ!」
僕が地面に頭をぶつける前に、厳つい男の手がすくい取る。声からしてガルヴァウだ。
フィーと僕の成り行きを、隠れて覗き見ていたんだろう。




