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ぶち切れ聖女は激マズポーションを置き土産に逃亡する  作者: 嵐華子@【傾国悪女】3/5発売予定
1章〜ブチギレるまで

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13.守らなくちゃいけない~カリエルside

「フィー……」

「カミュリッチです、殿下」


 目を覚ませば、冷めた目をした愛しいフィーが僕を見ていた。


「目を覚まされたのでしたら、私はこれで失礼――」

「待って!」


 とりつく島もなく、部屋から出ていこうとするフィーの腕を掴む。


「話が! 話がしたい」


 今度こそ離しちゃいけない!


 何故かそんな焦りが湧いてくる。荒げそうになる声を、どうにか抑えて伝える。


「……私にはありません。それに初対面ですよ。私にこだわる理由もないでしょう。婚約のお話は伺っておりますが、お断り――」

「ハイハイハイ、そこまで〜」


 話す事も拒絶され、婚約の話も断固拒否しようとするフィーの言葉を遮ったのは、ガルヴァウ。


 もしかしたら、外で聞き耳でも立てていたのかな?


「二人共、落ち着けって。カリエルは、フィデリカ掴んでる手を離せ。力を入れすぎ」


 ガルヴァウの言葉にハッとして、手を離す。フィーの細腕には、僕の手の跡が残っていた。


「ご、ごめん……」

「……」


 憮然としたフィーは、無言でそっぽを向いてしまう。


「フィデリカ=カミュリッチ」

「……はい」


 フルネームで呼ぶガルヴァウは、恐らく伯爵令嬢として礼を正せと、フィーに暗に告げる。


 するとフィーがスン、とした令嬢らしい顔つきになった。


「明日、改めてカリエル第二王子殿下との場を正式に設ける。必ず明日、決められた時間に殿下と会うように。わかっているな、フィデリカ=カミュリッチ」


 ガルヴァウは最後に、もう一度フルネームで呼ぶ。これは強制だと伝える意図を持って。


 ガルヴァウは元々、誰かに強制なんてする人間じゃない。


 理由を考えて、もしやと思い当たる。


 領主の邸へ正式に訪問した第二王子()を、フィーは害してしまったから?


 思わずガルヴァウを止めようと、口を開きかけた。


 けれど僕を拒絶するフィーと、もしまともに話す機会があるとすれば……。


 そんな風に考えて、ずる賢くも口を噤んでしまう。


 フィーは、ガルヴァウの顔をじっと見つめていた。


「畏まりました」


 やがて一言だけ言葉を発して特に表情を見せないまま、静かに出て行った。


「はぁ〜、カリエル」

「うん、ごめん。腕を力任せに掴んだ事も含めて」

「わかってんなら、いい。だけど妹との婚約は、難しいかもしれない。妹は何もわかってない子供じゃないんだ。その妹があそこまで拒否してんなら、父上も妹の意志を尊重するはずだ」

「……そうだね。けれど、それでも諦めきれないんだ」

「何でそんなに? カリエルのそれは、執着じゃねえか?」

「僕にも、本当にわからないんだ。それでも……手段を選べないくらい、フィーを求めてる」

「……王命にするつもりか?」


 恐らくガルヴァウは初めから予想していたんじゃないかな。


「強制はしたくない。でも、なりふりも構ってられない」

「そっか。なあ、カリエル。俺はフィデリカの兄だ」

「邪魔するつもりかな?」


 正直、僕はガルヴァウを傷つける命令はできない。それだけはしてはならないと、本能が警告する。


 けれどフィーを手に入れる為なら、ガルヴァウと縁を切るくらいはできる。


 うつむいて、苦渋の決断を下しそうになった時。


「だけどカリエルの友でもある」


 予想外の答えに思わず顔を上げれば、清々しくニカッとガルヴァウが笑う。


「だから考えて、決めた! 俺はどっちの味方にも、ならねえ! どっちの邪魔も、しねえ!」

「……そっか。フィーを口説き落とせるよう、まずは明日頑張る。ガルヴァウ……ありがとう」

「ああ! うちの妹は手強いぞ! 傷つけるのは許さねえけど、せいぜい頑張れ!」


 フィーの腕を力任せに握った事に、しっかりと釘を刺すガルヴァウは、今も昔もフィーを……。


『フィデリカだけは、守ってくれ。頼む』


 不意に、掠れた男の声が頭の中に響く。


 直後、脳裏に、縄で後ろ手に縛られた男が座りこんだ姿が浮かぶ。


 男の服は薄汚れ、体のあちこちに殴られたような痕が見て取れる。


 しかし僕が驚いたのは、男の顔だった。


 まるでガルヴァウが、幾らか年を経たような顔の造作に、絶句する。


『殺せー!』

『聖女を傷つける奴は、死ねー!』


 更に観衆の声が、どこからともなく聞こえた。すると男の後ろに、巨大なギロチンがそびえ立つ。


 ギロチンの脇には、先に刑を執行したらしき遺体が倒れていた。


 そして……刑の執行者が掴む頭部。


 壮年と思しき男の頭部は……黒ずんでいるが……カミュリッチ辺境伯と同じく、深紅の髪で……。


「……い。……おい! おい、カリエル!」


 肩を強引に揺さぶられる感覚に、ゆっくりと我に返る。


 目の前には、血色の良い少年――ガルヴァウが心配そうに、焦っているかのように、僕の顔を覗きこむ。


「……ぁ……あ……」


 言葉にならない声が口を突き、ガタガタと体が震える。


 初めて見た光景。けれど僕には、まるで未来で見た光景かのように、随分と現実味のあるものに感じる。


「落ち着け。大丈夫だから、ちゃんと息しろ。ほれ、ゆっくり息吐け〜、吸え〜。そうだ、それで良い」

「ガルヴァウ……僕は……」


 どうしてこんな光景を見たのか、全くわからない。


 けれどこれは、未来で起こり得る事だ!


「僕は……フィーを守らなくちゃいけない」


 もちろん……ガルヴァウも。


「そりゃ、兄としちゃ心強いけどな! とりあえず寝ろ! 病み上がりのくせに、こんなとこに慌てて来るから、具合が悪くなるんだぞ! 妹との会談をもう少し延ばすか?」

「そう、かも……しれないね。でも……明日で頼むよ。本当は今日でもいいくらいだ」


 けれどこの時、フィーを見誤っていた。


 フィーは大人しく、ただ普通に王子と面会する気は、端からなかったのだ。

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