第八話 捕虜たち
「そういえば、ロックさんはどこで人間語を学んだんですか?ゴブリンの方はゴブリン語を話すって聞いていたのですが」
真冬には似つかわしくないほどの暖かい日差しの中を、奇妙な三人組が一路北を目指して歩いている。
「ああ、それ、俺も魔王軍に入るまで不思議だったんだよね。入隊した仲間がみんな人間語を喋るようになるからさ。何のことはない、必修だからね」
「必修、ですか」
これにロックが説明してやれ、という目でアレクを見る。
「えっとですね、僕たち魔物は種族ごとに全然違う言語を喋るんです。例えばゴブリンはゴブリン語、オークはオーク語みたいな」
「水のことをミズ、という種族もいるけど、ウォーターと言う種族、中にはオーアって言う種族もいるんだ。まあ、方言みたいに訛っていったんだな」
「でもそれだと命令の伝達も難しくなるということで、魔王軍では人間語を共通語にしているんです。だから、入隊してまず最初にやるのが人間語の集中レッスンなんですよ」
「一応俺たちは魔物語って言ってるが、文字以外はほとんど人間語と変わらないな」
「なるほど、なるほど・・・とても興味深いです!」
マリアはキラキラと目を輝かせて二人の話に食いついている。まるで真面目な生徒が教師の補習を受けているかのようだ。
「故郷の学校では魔物は人間語を解さないと教えられていたので・・・もちろん、サーカスの魔物さんとお話していたのでそんな出鱈目は信じませんでしたけどね」
マリアはそう言っていたずらっぽく笑う。
「まあ、俺たちも人間と話すことがあまりないからな。一応上司の人間と挨拶程度の会話はするが、それでも俺たちみたいな下っ端じゃほとんど話しかける機会もないからな」
「え、魔王軍に人間がいるんですか!?」
マリアが目を見開いて食いつく。言われてみれば随分妙な話ではある。
「まあ、私たち魔王軍も人間の技術が優れていることは認めていますから、たまに物好きな技術者が来たりするので、そういう人たちは結構な厚遇を受けていますよ」
アレクはマリアに言われるまで特におかしいとも思っていなかったが、確かに魔王軍に人間が、それも捕虜ではなく賓客、技術者として所属しているというのは随分と妙な状況だ。
アレクの脳裏には、魔王軍の技術者が開発した新兵器の設計図をちらりと見た時の記憶が蘇っていた。小銃と称する人間の兵器をコピーしたもので、魔力のこもった火薬を使って鉛の弾を撃ち出す新兵器。 今はまだ王宮の警備兵だけが装備しているが、これからは一般兵士にも順番に配備されるとのことだった。 アレクの回想はロックの鋭い警告で遮られた。
「みんな止まれ。何か来る」
三人は木の陰に伏せ、耳をそばだてて様子を伺う。確かに、遠くの方から複数人の争うような声が聞こえてくる。気配から、それが魔物と人間の集団であることが分かった。
「おい、離せ!」
「いいから黙って歩け!」
こっそりと顔を上げると、目の前を数人の魔物と勇者軍の制服に身を包んだ人間の集団が通り過ぎていく。魔物は全員縄で繋がれ、足には金属製の足かせを付けられて、歩きにくそうにそれを引きずっている。
一行はすぐ近くの木の下に集まり、魔物はまとまって木の下に集められ、それを遠巻きにして人間の兵士たちが何かを相談している。
しばらくして、魔物たちは木の前に一列に並べられ、まるでそれが射撃場の的であるかのような態度で、人間たちは彼らの間隔を均等に調整する。
「こりゃあ、処刑だな」
言葉は少ないが、その歯ぎしりから、ロックの心中が荒れ狂っていることはすぐに分かった。 「弾込め・・・用意!」
指揮官と思しき軍人が腕を持ち上げ、配下の兵士は銃口を目の前の標的に向け、命令を今か今かと待っている。 その時だった。さっきまで黙っていた魔物のうちの一人が声を張り上げてこう叫んだ。
「友よ!何としてでも逃げ延びろ!前線は既に北に移動した!」
「撃て!」
間髪入れず、重厚な銃声が森の木々をすり抜け、血なまぐさい硝煙と共に広がった。
煙が晴れると、木の根元には折り重なるようにして魔物たちが倒れ込んでいる。兵士はそこへ近づき、一発ずつ、亡骸に銃弾を撃ち込み、生き返らないか確かめ、それから乾いた枝切れや葉を無造作にかぶせると、火打石で火を付け、その場を立ち去った。




