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第一話 敗残兵

1925年、ヴォルゴブルク。凍てつく廃墟の街で、一人、魔王軍の生き残りが瓦礫の中から這い出した。


「諸君!我らは確かに勇者軍に敗北を続けているが、それも今日までの布石に過ぎない!魔王軍の一員として、このヴォルゴブルクを奪還し、勇者軍へ大打撃を与えるのだ」


上官が声を張り上げる中、男は塹壕の中で街の方向を不安げに見つめている。確かに一対一ならば魔王軍の兵士は人間を簡単になぎ倒せる。しかし、近ごろの勇者軍は毒ガスに新型の爆弾など、様々な兵器を用いて魔王軍を次々と破っている。


「怖いなあ」


びりびりと勇者軍の砲撃が響く中、誰かが小声でささやくのが聞こえる。男も市街に突撃するドラゴンの背中を見つめながら、不安げに命令を待っている。塹壕の中には冷たく、暗い空気が流れており、ささやき声が時たま聞こえるだけで、後は砲撃の不気味な音だけが響いていた。


「今だ!突撃せよ」


上官の金切り声に魔王軍の兵士たちが一斉に塹壕から飛び出して勇者軍の陣地へと殺到する。

男の目の前にいた兵士がヘルメットごと首を吹き飛ばされ、真横にいた上官は地雷を踏んで下半身を消し飛ばされ、うめき声をあげている。あたり中で悲鳴と怒号が響く中、男はとにかく砲弾の飛んでこない場所を求めて地面を這いまわる。

そうこうしているうちに魔王軍は次々とその数を減らし、ドラゴンも次々と人間の撃ちこむ砲弾に倒れていく。男も味方とはぐれ、近くの建物に潜り込んだ。寒さと恐怖でがたがたと震えていると、再び勇者軍の砲撃が始まり、近くに土煙をあげて着弾し始めた。

男は慌てて建物の奥に隠れたが、次の瞬間、耳をつんざくような轟音と、瞼の裏に焼き付くような閃光が走り、男は気を失った。

次に目を覚ました時、男は人間の気配を感じ、息をひそめながら瓦礫の隙間から外の様子を伺った。


「こいつ、どうする?」

「まだ生きてるのか?化け物め・・・」


見れば、すぐ目の前の通りの中央に、砲撃から逃げ延びた魔王軍の兵士が倒れていて、それを三人の勇者軍の兵士が囲んでいる。


「なに、こうすれば化け物でも死ぬだろう」


そう言って兵士の一人が数発、弾丸を倒れているゴブリンに撃ち込んだ。


「頼む、助けてくれ」


必死に懇願するゴブリンを見下しながら、人間たちは繰り返し銃弾を撃ち込み、しまいには笑いながら銃床で彼を滅多打ちにしてしまった。

男はあまりの光景に再び気を失い、目が覚めたのは夕方になってからだった。


男は一路、北へ向かって歩き出す。


男は小さな街で生まれ、他の同世代の若者と同じように勇者との戦争をどこか、遠くて現実感のないテーマパークのような場所だと考えていた。近所の老人が語る戦争は、どこか夢のようで、おとぎ話の主人公のように自身の戦争を語る老人に他の子どもたちと同じように釘付けになった。絵の具で塗りつぶしたような青空を飛び交うドラゴンに、白い山肌を染め上げる真っ赤な炎。

男は戦争を知らなかった。いや、今でも知らない。男の思い描いていた戦争は、絵画や映画のようなものだった。


靴底に泥がこびりつき、真っ白な瓦礫の大地の上にぽつりぽつりと足跡を残す。呼吸するたびに、冬の凍える空気が男の肺を貫く。廃墟と化した家々の窓が男を黙って見つめている。

男はなぜ生き残ったのか、自分でも分からなかった。

背中に背負った剣がずしりとのしかかる。男はしゃがみ込んで、少し考えてから雪の上に魔王から下賜された、その鉄の塊を置いた。


男は立ち上がり、再び歩き出した。北へ。幸いにも、手元には魔法コンパスが残っており、大まかな方角だけは分かっていた。真冬の敵地を男は歩く。ただ、北へ。帰るべき場所へ。

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