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純文学・幻想小説

双生の星

作者: 網笠せい
掲載日:2025/12/24

 母馬がいななきと共にぶるりと首を震わせると、ワラの上に仔馬が生み落とされた。

 仔馬は震える脚に力を入れて、懸命に立ちあがろうとしている。母馬が仔馬の毛づくろいをしはじめた。

 一部始終を眺めていた少女は、仔馬が立ち上がったのを見届けてから、馬小屋の外に出た。


「生まれた?」

「生まれた」


 少女は双子の兄にならって、夜空を見上げる。

 星の光が瞬いていた。


***


 地平線に太陽が上る。朱金の輝きが荒野を照らし出す。

 馬の群れが駆け出して、砂塵を巻き起こしていく。


「生まれた仔馬も、いずれああなるのかな」


 吹き渡る乾いた風に少女がそっとまばたきをする横で、双子の兄は足元を眺めている。

 砂に埋もれていた古代の剣がわずかにその姿を見せる。

 大地に広がる砂は、ときに山となり、谷となり、なだらかに風の模様を映している。

 吹き抜ける風が、剣を再び砂の中に埋没させた。


「おやすみ」


***


 川のせせらぎの中で、小魚が跳ねた。

 遠くに見える山はうっすらと雪化粧をしている。

 シロツメクサやタンポポの生えた高原で、少女はブランコに揺られている。

 双子の兄は、すぐそばの森から切り出したばかりの木材に座って、妹の様子を眺めている。


「楽しい?」

「わからない」


 そう言うと、少女はブランコから飛び降りた。

 少女の足元に生えていたタンポポの綿毛が、一斉に空へと飛んでいく。

 白い綿毛が飛んでいった後には、誰もいない。

 ブランコだけが、揺れていた。


***


 遠くからウミネコの鳴き声と、船の汽笛が聞こえる。

 少女は波打ち際に立っている。

 砂浜と白波が少女の素足に絡みついては、戯れるように逃げていく。

 少し離れた場所で、双子の兄はその様子を静かに見守っている。

 潮騒と共に波の動きがくり返され、潮の匂いを漂わせる。


「心臓みたい」

「海は生命の根源だからね」


 寄せては返す波が、脈動のように砂浜を覆い、戻っていく。


***


 しんしんと降り積もる雪の気配がある。

 大きなステンドグラスの奥から、雪灯りが差し込んでいる。

 ガラスの色をまとった光が教会のオルガンに当たっていた。

 双子の兄はそっと妹の手をとり、ポケットから指輪を取り出すと、妹の手のひらに乗せた。

 吹き込んだすきま風に、ろうそくの炎が揺れる。


「結婚式みたい」

「違うよ。これは、君が誰のものでもなく、君自身のものであるための指輪」


 少女はくすぐったそうに笑うと、手のひらの指輪を自分の指にそっとつけた。

 教会の中央に敷かれたやわらかなじゅうたんを踏みしめて、少女は扉を開けた。

 雪が降り積もっている。

 全てのものを覆いつくすように積もった雪は、白く輝いていた。

 少女が歩くと足元からざくざくと音がする。

 雪の結晶のような指輪の清廉な輝きが、その指にはあった。

 雪に残った足跡は、一つきりだ。

 少女の吐き出した白い息が、雪原に流れて溶けていった。


<おわり>

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