自由な王女、アリーシャ
「アリーシャ、マージャル王国の王女として蛮族の国、クナート王国へ嫁げ」
生まれて16年、初めて父に呼び出されて言われた言葉がこれだ。
蛮族ってなんだよ、私からしたら16年間も娘放置するお前らの方が蛮族だわ。
◆◇◆
パチリと目を開けると、見慣れない天井が目に入る。
あれ?私、昨日、勉強に疲れて寝落ちして…やばその後の記憶ない。
きっと寝ぼけてるのだろうとおもい、のそのそと立ち上がる。
「あれ?視界が低い」
目の前の鏡を見ると美少女が立っていた。
「胸までの長さの金髪、ちょっと吊り目な紫色のお目目、え?なに?天使…?」
そう叫びながら目の前の天使に駆け寄ると…
「あり?鏡だ。これ」
鏡、鏡ってなんだっけ?鏡って目の前のものを映し出すものだよね?そして鏡の中には私と同じ動きをしてる天使ちゃん。
もしや、これ、願望が可視化される鏡とか…?だって私、黒髪だし…。
ん?おいおいおい、寝起きブリーチドッキリとか洒落にならないだろ。私高校生だ…ぞ…?
そこで、ふと冷静になった自分がいた。
そうだ、目の前の天使ちゃんの衝撃で忘れてたけど、いつもよりだいぶ視線が低い。そして、目の前の天使と似たような髪の長さ、髪の色。
え?外側変わってね?
げ、原因…なんだ?ラノベファンだからな、わたし、な◯うとかめちゃめちゃ読み漁ってたし、大体こういうのって、記憶思い出した!とか、死んじゃって転生、とかだよね?
私昨日寝落ちしただけだしな…。流石に過労死はない。受験勉強で勉強漬けではあったけど、過労死するほどじゃない。
異世界転移ってやつか?せめて受験終わって大学生活エンジョイしてからがよかったなぁ。
怒ってしまったことは仕方がない、と、能天気に考える。
「とりあえず、この体の記憶もあるにはあるから、色々整理しーよっと」
手近にあった紙とペンを用意。机はないので床に寝転がりながらえっちらおっちら書いていく。
教育はちゃんと受けていたのか、この国の文字であろう、ものが結構しっかり書けるし、読める。
部屋にたくさんある本のおかげかもしれない。
子供の手は描きにくい、と思いつつ、えっちらおっちら時系列を考えつつ体の記憶を並べる。
この体の子の名前はアリーシャ。現在7歳だ。魔力至上主義の国、マージャル王国の王族に生まれてしまった魔力なしの子。要はどうでもいい子。
5歳までは魔力の発現の可能性があるから、一応、第二皇女として育てられていたようだ。だが、5歳の誕生日の日、魔力の出現の可能性のかけらもなくなると、離宮にポイポイってされて忘れ去られたっぽい。
あるあると最低を詰め込んだ感じだね。
少し前までは、親切な老婆のメイドがアリーシャを不憫に思い、服やご飯などを持ってきてくれていた。おそらく、このメイドが本を揃えてくれたのだろう。が、ぎっくり腰で仕事を辞めることに。
老婆は娘さんに私の世話を頼んでくれたらしいんだけど娘さんはそんな出世にならないことしないと、3日分くらいの簡易的なご飯を持ってきて以来来てない。
そして、ここからアリーシャの記憶は暗点。そして、今。
いや、これアリーシャ、一回死んだな。うん。多分死んだ。いや国がゴミすぎる。
「とりあえず、この状況で、生き延びる方法を探さなきゃ」
残念ながら、前世の私は偏差値は70いかないくらいあったが、義務教育や受験のための勉強しかしてこなかったから、これといってサバイバルに使える知識がない。
しかたないから、庭に生えてる薬草を食べて食べれる草とそうでない草を覚えた。
ついでに老婆のメイドが用意してくれた幅広い対象年齢、幅広いジャンルの本を読み漁り知識や常識を得た。少し成長すると、メイドの服を得て場内を散策した。
そんなこんなで、生き延びて、16歳の誕生日を迎えた日、メイドがきた。
私を見てあからさまに顔を顰めると、
「国王様がお呼びです。謁見の準備をいたします」
ぶっきらぼうにそういうと、私を引っ張って風呂に入れ、煌びやかなドレスを着せられひっぱって、王宮へと連れて行かれた。
全部雑やねん!!いたいねん!!エセ関西弁使ったろか??ああ?
と私は終始内心ブチギレだった。
はぁ、やってらんねぇ、急になんなんだよ。
超絶不機嫌のまま、ついたのはめちゃめちゃ大きな扉の前。扉の前に立っていた男の人から
「国王陛下との謁見です。くれぐれも粗相のないように」
と言われた。はい、もうかっちーん。お前らがなんも教えてないのに私に礼儀もクソもあるわけねぇだろ、礼儀のれの字も知らない感じで言ったろうか?とも思った。
けど、踏みとどまった私の理性。私の中でここで取る態度で分岐点が二つあって
①政略結婚とか政治の道具にされることがもう決定してる
決定してるなら、どれだけ失礼な態度取っても、殺されないし、アリーシャちゃん殺したやつに礼節重んじる必要ないから、態度悪くてオッケー
②政治的に使えるかどうか見定められている場合
これで、使えないって判断されて打首!!とかになったらたまったもんじゃない。
②だったら最悪だもん、と思い学んでない割には頑張ってますよアピールをしながら国王陛下、多分父親なんだろうね、アリーシャの記憶が言ってる、に挨拶する。
「マジャール王国の太陽へご挨拶申し上げます」
「ほう、こいつ、使えるな」
やっぱ値踏みかい!!あぁ、もうまじやってらんねぇわ。
で?なに?何が来んの?竜への生贄?褒美としてヤバい噂しかない貴族へ嫁げ?あとは、あ!友好の証として他国へ嫁げ、もあるか。なんだろーなぁ、
私の中で、異世界系小説のオタク知識がフル稼働されている。
「アリーシャ、マージャル王国の王女として蛮族の国、クナート王国へ嫁げ」
はい、他国へ嫁げ系ね。いいよ、受けてやんよ。どこだって私は幸せになるんだから!!
そこから2ヶ月、最低限の礼儀マナー的なのを頭にパンパンに詰め込まれた。そして、二国間の友好の証として私はクナート王国への輿入れをした。
◆◇◆
「本当にマジャール王国の第二皇女娶るんですか?娼婦とか、なんかいろんな噂ありますが…」
「知ってるよ、ただ、噂通りの人物かどうかは目の前で話を聞いてからだ。どの噂にも一貫性や具体性がないしな」
「火のないところに煙は立たないけどね。あ、あれやるんですか?」
「やるに決まってんだろ。あの王国の王女だ。一応な」
◆◇◆
ガタンゴトン、という表現が正確かはわからないが、馬車に揺られて数日。目の前は、マジャール王国の人が蛮族の国とよぶカナート王国についた。
通されたのは、私の婚約者になるカナート王国王太子、トマスの執務室。いるのは、私と、トマスともう一人の男のひと。
カナート王国は獣人国家らしく、みんな耳がついてたり尻尾が生えてたりと結構可愛い。
王族はライオンの獣人らしい。そういう価値観は日本と変わんないんだな。もう一人の男の人はヒョウっぽい感じ。足早いのかな?
「お前が、マジャール王国の皇女、アリーシャだな?今からいくつか質問をする。俺がする質問には正直に答えろ」
「めんどくさ」
(かしこまりました)
あれ?心の声と言葉が逆になった?あれ?
だが、戸惑う暇もなく質問がくる。
「お前はなんのためにこの国に来た?」
「え?行けって言われたから」
(二国間の友好の基盤となるためです。)
ん?やっぱおかしくない?言ってることと思ってること逆なんだけど?
「お前母国のことどう思ってる?」
「死ぬほどどうでもいいから罪なき人が死なないなら、国が潰れようが王族が死のうが知ったこっちゃない。だから、二国間の友好とかぶっちゃけクソどうでもいい!!てか、魔力がないだけで子供放置できる王族だもん。何か不正とかあるだろ絶対。中枢機関腐ってるだろ、なんなら国の民が苦しまないなら王族なんかいなくなっちゃえ」
思いの丈をはあああ、っとはいたところで気がつく。
なぜか、トマスの目をると、思ったことが口から滑り落ちる。
「あれ?これ不味くね?」
「まずいな」「まずいですね」
と、いう二つの声がかぶさって聞こえる。
「だよねえ」
「まぁ、、お前も大変だったんだな」
「うんめっちゃ大変だった」
「これは、」
「とりあえず、」
「「様子見か(ですね)」」
二人が台本あるの?って並に息のあった会話を見せる。おぉ、これが従者と主人の絆ってやつか。
「まぁ、なんか、警戒する気も失せたよな。とりあえず、よろしくな、俺はカナート王国王太子のトマス。こっちは俺の専属執事のザリックだ」
「よろしくお願いいたします」
「あ、こちらこそ」
反射的に会釈をする。これは完全に元日本人としての習性だ。
「で?お前」
「は?お前って呼ぶなし」
「で、アリーシャ、お前、俺らに何か聞きたいこととかないか?」
「結果お前って呼んでんじゃん。聞きたいこと、ねぇ、あ!二つある!獣化、みたいな感じで本物のライオンとかになれたりするの?あと、ザリックってぱっと見ヒョウ系の一族なのかな?って思ってるんだけど足速い??」
わたしが純粋な疑問をぶつけると、二人が呆れたように顔を見合わせる。
え?なんか変なこと聞いた?
「はぁ??もっとなんかあったろ、疑問に思わなかったのか?なんで思ったことがそのまま口から出ちゃうのか、とか」
「まぁ、目を見ると多分催眠的な作用があることは予測できたし、トマスの力?そんなことよりわたし的には、もしやライオンとか、前世でもふれなかった、あの、触り心地良さそうな毛をもふもふできるのでは?とか、そっちの方が大切」
わたしの答えにトマスはため息をつきながら答える。
「まじでお前は警戒する気を無くさせるな。獣化は人によるな。先祖返りが強い奴はできる」
「私はちなみにヒョウじゃなく、チーターです。そうですね、マジャール王国基準で分かりやすくいうなら100メートル5秒程度ですかね。獣化したら3秒程度です」
まじか、すご。いいなぁ、同じもの食べたらちょっとは近づける?そんなわけないか。たしかに、ふくらはぎの筋肉とかすごそう。長ズボンだから全然見えないけど、きっとムッキムキなんだろうなぁ。
いいなぁ、わたしもムキムキマッチョマンになりたい。ドヤ顔で上裸になれる人間に…って、流石にそれはまずいか。公然猥褻で捕まる。
「へぇ、すご、いつか走ってるとこ見せてね!!」
「まぁ機会があれば」
絶対見せてくれないやつやん。悲しみ。
そのあとは、まるで学力試験かのようにトマスとザリックから各国史や各国の情勢、貿易状況などを聞かれた。
各国史とか情勢なんかお手のものよ!!二ヶ月の詰め込み学習の成果見せてやんよ!!という気持ちで挑んだ、けど、今世の知識というよりは、前世の日本史とか、世界史とかの知識に助けられた。勉強不足で面目ない…
と思ったけど、わたしよくやってる方だよね?二ヶ月の詰め込み学習でここまで対応できてるわたしが天才。うん、わたし、悪くない。え…?悪くない…よね?
◆◇◆
「まじであいつなんなんだ?」
「いや実に面白い方でしたね」
「あれが面白いですむかよ」
「ですが、いいではありませんか?あの感じならマジャール王国を滅ぼすと言っても協力してくれそうですし」
「知識も十分だ。しかも俺らが知らない知識を持っているから、俺らと着眼点も違うしな。非常に面白い」
「トマス様、新品のおもちゃを与えられた子供のような顔をしないでください。怖いです」
「実際ありゃ、めちゃめちゃ面白い新しいおもちゃだろ。何言い出すか、何考えてるか、面白すぎる」
ザリックは思った。この人は途中から、自分の能力フル活用して、半年に一回しか使えない心読みの能力まで使ったんだろうなぁ、と。
そして同時にザリックは哀れみの感情を抱いた。トマスは普段何にも執着がない。からこそ、一度執着したら死んでも離さない。そしてその対象になるだろうアリーシャに対して。
トマスはそんなザリックの思いを知ってか、知らずか、一旦ザリックに呆れた目を向けた後、ずっと上機嫌であった。
◆◇◆
どうやらカナート王国は王族に他国からの人物が嫁いできた時、数ヶ月は手を出さずに妊娠していないことを確認するんだって。
ということで、結婚式終わった初夜も、普通に寝て終わり。まだ信頼されてないからか、トマスとは部屋は別々だしそんなに近くもない。
結婚式が終わった後に伝えられたのは二つ。不便があったら専属のメイドに伝えるように、外に出たい時は部屋の外に待機している護衛に伝えるように、この二つだった。
嫁いできてから五ヶ月。
2〜3日に一回、トマスが来て、わたしを揶揄いに来ては帰っていく。それ以外にはやることがない。
わたしなりに、結構我慢したんだよ。もちろん王族として、あらためて色々授業とかもあった。それは楽しかった.それでも、でも、外に出たい。
前勇気を出して護衛の方に伝えようとした時に『いやぁローテーションにアリーシャ様の部屋の護衛がついたの最高だよな。部屋の前で座ってればいいから、休息の時間だわぁ』と言っているのを耳にした。
わたしの外に出たいという小さな欲望でこの人たちの休憩となってるわたしの護衛の時間に余計な仕事を増やすのは、まぁよくないか。と思った。
でもやっぱ、外に出たい。
トマスとかザリックに相談しようにも、忙しそうなんだよな。ふと現れてわたしを揶揄いにする時も、めちゃめちゃ隈とかがあるんだよね。流石に余計な迷惑かけられないしなぁ。
専属メイドになってくれた人に頼み込み、メイドの服を持ってきてもらい、メイドはしばらく部屋にいてもらう。その間に、メイドの服を着て外に出て、外を散策してメイドとして部屋に戻る。何回かやったら、メイド服姿をトマスに見つけられ怒られた。
護衛のシフトのローテーション観察し続けると、週に一回午前3:00〜3:05と、午前4:00〜4:05の間は護衛が一瞬いなくなることが発覚。その間だけ外出してたら、朝の鍛錬中のトマスに遭遇。
流石にもう怒られるのはやだな、と、思いつつ、少しでも外を感じようと、部屋につけられたバルコニーから外をのぞいていると、裏庭的なところを見つけた。手入れがいい届いてないらしく、結構雑草が生え放題だった。
これは、外に出なさい、という神様の思し召しだろう、ちょうど昨日トマスが来たから、今日はわたしの部屋には来ない。タイミングまで完璧。
こっそり部屋を抜け出し、裏庭で雑草を集めた。マジャール王国とは気候が違うから植生が違う。見たことのない雑草を集めた。部屋に戻ってから毒になるか、薬になるか、色々調べてみようと思い、ふんふんと鼻歌を歌いながら集めていると、後ろから凄まじい怒りのオーラを感じる。パッと振り返ると、そこには満面の笑みのトマスと呆れ顔のザリックが立っていた。
「我が妻はこんなところで何をしているのかな?」
「薬草探し」
すごい笑顔、すごい笑顔なんだけど、めちゃめちゃ怖い。
わたしの答えに対し、トマスは、はぁとため息をつきながら
「一応、お前のドアの前には護衛を置いておいたはずだ。その護衛から何も連絡がなかったが、どうやって部屋から出たんだ?」
何を聞いてるんだ。上を見たらわかるだろう。というか、わざわざ遠回りをする必要がなかろう。
「え?普通に窓からぴょんって」
「鳥族じゃあるまいし、窓からぴょんで済むレベルじゃないでしょ。怪我はありませんか?」
ザリックが呆れ声でいう。いやまぁ、確かにわたしの部屋3階だっから結構怖かったし、若干足も痛い気がするけど
「うん、まぁ大して問題なし」
「問題ないわけあるか、足首腫れてんだろ」
そういうと、トマスはわたしを担ぎ、文字通り、担いだ。お姫様抱っこじゃない、米俵のように担ぎ、宮内へと戻っていった。
◆◇◆トマスside◆◇
友好の証、としておかしな王女、アリーシャが嫁いできてから一ヶ月。二国間の友好は早々に崩れかけている。マジャール王国がアリーシャが嫁いできて我が国が油断していると踏んで、戦争を仕掛けようと水面下で画策しているからだ。
俺としては、面白い妻を揶揄いに行きたいが、立場上そういうわけにもいかない。マジャール王国との戦争に対して他国への根回しなどで忙しく、多くて2日に一回、ひどい時は3日に一回しか会えない。
不便があればメイドや俺が来た時に話すように言ってある。毎回あいつの元に行った時は、困ったことはないかと聞くが笑いながら祖国よりよく使い良すぎて神、と返されるだけだった。
暇なのは嫌いそうな性格なのはわかってたから、勉強も嫌いではなさそうだったし、知識は武器になるしな、と、経済学などの家庭教師をつけたり、本や最近カナート王国で流行りのゲームなどを渡したりしていた。
アリーシャがきてから五ヶ月、戦争が始まる日程がなんとなくわかった。一応アリーシャにも報告に行こうと思い、ほぼ、初めてではないだろうか、2日連続でアリーシャの部屋に訪れた。
ノックをしても返事がない。耳を澄ませても中からアリーシャがいる音がしない。寝ている時にたまに部屋の前に来て寝れているか、確認することもあるがそれともまた違う、無音。するのは風の音。
「アリーシャ!!」
アリーシャの部屋のドアを開けるが、バルコニーに続く窓が開いていて、そこにアリーシャはいなかった。
焦ってバルコニーから身を乗り出し、嗅覚や聴覚、視覚を研ぎ澄ませる。
と、ふんふんと楽しそうな聞き覚えのある鼻歌が聞こえた。よく目を凝らすと手入れの行き届いてない裏庭で嬉々として草をむしっている変な女がいた。
ほっとしたと同時に、流石に苛立ちも覚えた。
俺、部屋出る時は護衛に伝えればいいから言えよなって、いったよな?
いやでもそれは俺が悪いな、あいつは自分の意見はズカズカという割に妙に人に気を使うところがある。おそらく俺や護衛に気を遣って言い出せなかったのだろう。そこに気づいてやれなかったのは俺が悪いから。
だからといって、だからといってな、
「バレなそうだからとか思って外に出たんだろうけど、流石に危機感たりねぇだろ」
「ほんとですねぇ、困った王太子妃ですね」
ザリックも呆れ顔だ。
「ザリック、迎えいくぞ」
「かしこまりました」
アリーシャと対面すると、アリーシャは窓から飛び降りたらしく怪我をしていた。
勝手にまた部屋から出られるくらいなら、いっそのこと同じ部屋にしてしまおう。前々からいう部屋を同じにしようと、タイミングを見計らっていたが、もう、聞くのもやめた。
足首を怪我しているアリーシャを担ぐと、そのまま部屋に連れていった。
◆◇◆アリーシャside◆◇◆
トマスに担がれたまま、知らない部屋の前で下ろされた。
「?ここは?」
「俺の執務室と続きになってる俺の寝室」
「ほへぇ。なんで執務室と寝室つながってんの…?トマス、もしや朝苦手?」
「な訳ないだろ、王太子も王も番と一緒の寝室になった途端、朝部屋から出てこなくなるんだよ、蜜月までは許されるが、流石に王族だと毎日毎日寝室にこもってばっかもいられないからな。部下が入ってきた気配を感じ取りることで仕事に戻らなくてはいけない、という意識を持たせるために、執務室の隣にあるんだよ」
ようは、やりすぎ防止ってこと…?
トマスの相手は、わたしで…?えっと、えっと…?いや蜜月ね、意味はわかるよ。夫婦が愛し合うために設けられてる期間だよね。えっと、うん、ああぁ
想像と許容量のキャパを超えた結果、頭から湯気が出そうになる。頭のどこかではちゃんと理解してる自分もいるようで顔も真っ赤だ。
「なに顔赤くしてんだ。手当てしてやるから足出せ」
トマスがニヤニヤしながらいう。誰のせいだと思ってんだ!!
「こんくらい放置しときゃ治るからいいよ」
何をそんなに心配しているんだ、折れているわけじゃない、言ってて軽い捻挫だ。前世ではよくしていたから何も問題はない。
と思っていると強引に足を掴まれそのまま薬を塗られ包帯を巻かれる。
「あ、ありがとう」
「あ、多分明後日からお前の母国と戦争になる」
「あ、そう」
なんの感慨もわかねぇ、まじで
「ま、国力は雲泥の差だ。2日で型はつく。で、戦争終わったら俺も落ち着く。確認期間も経ったし、ゆっくり蜜月だ」
「は?」
わたしは顔を真っ赤にしたまま呆然とするしかなかった。
部屋に戻ろうとすると、
「お前の部屋は今日からここだ。仏の顔も三度まで。流石に隣の部屋から人がいなくなったら俺も気がつけるからな」
と言われた。
2日後、戦争が始まったという話を朝聞き、終戦したという話を夜に聞いた。
爆速すぎだろ。
色々落ち着いたのだろう。お風呂上がりのトマスが部屋に入ってきた。そーいや、あまり意識したことなかったけど、イケメンやなぁ。としみじみと思った。
母国がどうなったのか、とか、お疲れ様、とかの言葉を発話するまもなく、口を口で塞がれると、そのまま私たちは蜜月に入った。
流石に王族、普通の人なら一ヶ月は取るがトマスが取れた蜜月期間は3日間。
あれが一ヶ月あったら身も心も耐えられないからよかった。と心から思う。人をいじめてニヤニヤするところはあまり変わらなかったが、トマスの発する言葉が甘いのなんの流石にドキドキして死ぬかと思った。
後日聞いたら、最初攻めてきたのはマジャール王国だったが、カナート王国軍にあっけなく敗れ、王都まで退避。カナート王国はマジャール王国へ侵攻を開始。国境沿いの国などは無血開城。ほぼ怪我人もなく、王都まで辿り着き、圧倒的な戦力差でマジャール王国は敗れたらしい。
国民から多量の税を納めさせた王族は死刑。マジャール王国はカナート王国の属国に降り、トマスのいとこが改革を始めているらしい。
◆◇◆
カナート王国に嫁いで5年。意地悪だけれども優しい旦那と、誰に似たのやら、根本的には優しいものの好きな子ほどからかいたくかる精神を持ち合わせる長女と思い立ったらすぐ行動、後先考えずに動く長男、そして、これから生まれてくる双子に囲まれた、幸せな生活を送っている。
個人的には、トマスとザリックの獣化のシーンが書きたかったのですが…力不足で…かけませんでした…(´・_・`)
ブックマークが過去一多い作品で…(*゜∀゜*)
読んでくださった方々、この作品を気に入ってくださった方々、本当にありがとうございます!