こころ模様
雅矢に誘われお気に入りの展望台に上がった亜子。その山は磁場が流れている珍しい山だった。その日から亜子の感情が無意識になにか動き始めた。
わたしの中で小さな感情が気泡となって絡みあう。 その気泡は気まぐれで、幾度も膨らんでは消えるを繰り返しわたしを惑わせた。
わたしはママに連れられて、おばあちゃんの見舞いに行くことになった。病院までは1時間かかるらしい。
「昨日どこまで行ってたの?」
ママが車のエンジンをかけた。
昨日わたしは夕食を済ますと、すぐにピアノを弾いたのでママとはあまり会話しをしてない。
「たまには街を歩いてみようと思ったの。常連客が色々な場所教えてくれるから」
「常連客ってげんさんでしょ」
ママがわたしの顔を見てきた。
「まぁーー」
わたしは濁すような返答しかしなかった。ふとわたしは思う。いつからこんなに、うそがうまくなったのだろうか自分でも不思議だ。
「まぁ東京では、こんな近所付き合いないから。亜子もいい経験ね」
『明日、長野に行くね』波留からのLINEだ。『祭りの時じゃないの?』『今、大阪で専門のオーキャン』
「明日波留が長野にくるって」
「そう波留ちゃん久しぶりに会うわね」
「店番どうしよう?」
「何時にくるの?」
「まだ未定」
車道沿いの両サイドに山並みが広がる。高い壁みたいな山々だ。この山々と同じくわたしの壁を越えたらどんな景色が待っているんだろう。わたしには超えらるだろうか。そしてこの山には磁場まである。そんな山があるとは驚きだ。 山は全部同じものだと思っていたからだ。わたしにも潜在的になにかあるのだろうか。
「ママ、磁場がある山って知ってる?」
「急になに? 知らないわね。その磁場がどうかしたの?」
「ううん」
わたしはそれ以上聞くのをやめた。スマホを握る指先に力が入る。なぜ昨日、雅矢に連絡先を聞かなかったのか帰ってから思った。ほんとにわたしは、気がつくのにとろい。
あれからわたしの体内の磁場もぐるぐる回って止まらない。いったいこの感覚はなんだろう。考えれば考えるほど解決できない。
「ママ、車運転できるんだーー」
ひとまずママに意識を向けた。
「ええ。東京では無理だけどね。このレンタカーの軽自動車で田舎ならなんとかね」
ママに意識を向けても、わたしの視線は勝手に昨日の展望台を探していた。昨日の余韻をまだ求めているかのように、あんなことは、もうないんだ。何度も自分にいい聞かせた。
「なんだか亜子、ソワソワしてるように見えるわよ」
「ううん。なんでもない」
やばいママに見透かされそうだ。わたしは目をつむり眠ったふりをした。
「亜子着いたわよ」
ママにおこされた。ほんとに眠っていたようだ。見上げた病院は総合病院で大きかった。こんな大きな病院で入院するおばあちゃんは大丈夫だろうかと心配してしまう。
「亜子ちゃん」
ほほがやすれたおばあちゃんがベッドから起き上がった。
「おばあちゃん、入院はどう?」
「うん。このとおり元気よ。来週には退院するわよ」
「おばあちゃん退院するの?」
「お盆の時だけの一時退院よ」
ママが、着替えを起きなながら付け加えた。
「そうなの?」
「でも八月終わりには退院する予定よ」
おばあちゃんが笑顔になって少し安心した。
「それより店番どう?」
わたしは、げんきやにくる様々な客の情報を教え、そして色々聞いた。けど1人だけ聞けない人がいた。雅矢だ。なぜか聞く勇気がなかった。
「それだけできたら店番大丈夫よ。さすが亜子ちゃん」
おばあちゃんの一言で妙に照れた。帰りの車内で、もしかしておばあちゃんはこのまま••••••。ダメダメそんなことを考えたら。ひとまず常連客の情報を聞いたから明日から対応だ。帰りの車内は静かだ。行きと違ってママもあまりしゃべらない。なんだか鉛の空気が流れている。そんな中、LINEがきた。波留からだ。『明日昼に長野駅に着くよ』波留からのLINEの続きだ。『残念だけど宏樹はこないよ』そうだ! 宏樹に誘われているディズニーランドの返事しなくてはならなかった。
(どうしよう。優柔不断が顔を出す)一度気持ちを整理した。 宏樹は、わたしが優柔不断を知ってるからいじって言ってるだけだ。ほんとはわたしのこと好きじゃない。じゃあ、わたしは? わからない。
ならこの磁場のように揺れ動く感情は雅矢なの?
でもあんなダサイ昭和の小学生みたいな格好をしてる人を好きになるわけがない。
帰る車内で大声で叫びたかった。でもママがいる。 だから帰ってからスッキリしよう。
「わぁーー!」
家の裏山から叫んだ。こんな行動東京では、したことない。少しずつ山の子に染まっているんだ。
「亜子ちゃん」
背後からげんさんが声をかけて驚いた。
わたしの叫び声が聞かれたのか内心ドキドキだ。
「げんさん。こんな場所でなにしてるんですか?」
「夏祭り用の竹を切ってたんだよ」
「もうすぐでしたね」
ひとまず聞かれてないようだ。
「亜子ちゃん。大変だね。ばあさん末期の胃がんらしなぁ」
「そんなこと誰が?」
「見舞いに行ったみどりさんが本人から。今年が最後の祭りだって言ってたらしいぞ」
そんなの初耳だ。おばあちゃんがもうすぐ死ぬだなんて。 ママもそんなこと一言も言ってない。(うそだーー、うそだーー)わたしは裏山を走って降りた。こんなに足が速かったのかと思うくらいのスピードで降りた。
顔中、汗なのか涙なのか分からないぐらいぐちょぐちょだ。夕暮れ時に、げんきや近くのイチョウの木からひぐらしが鳴いていた。••••••悲しくなる泣きそうだ。意味なく泣くな亜子! と何度も自分に言い聞かせた。
「今日は休みなの?」
定休日の店前で雅矢が立っていた。
「日曜日休みなの」
全身で笑顔になろうとした。
「そうだっけ?」
恥ずかしそうな雅矢が照れ笑いをした。
「どっ、どうしたのーー」
気がつくとわたしは雅矢の胸で泣いていた。あんなに泣くのを我慢してたのに雅矢の前では、なぜが素直になる。雅矢は、なにも言わず無言で背中をさすってくれた。
今回も閲覧してありがとうございます。
生きていると色々やるせなさや理不尽なこととも遭遇します。亜子も色々と自分では、解決できないことでも、なんとか懸命に前に進もうしてます。