スプラウト・コネクション
店番をまかされた亜子。緊張と不安が入り混じる中、色々なお客に対応しながら店番をこなしていた。
そんな店番をしている時に、ピアノを見つけ夜に弾いた。 以前に比べ指がなめらかに動き心まで落ち着いた不思議な現象だった。亜子はその日からピアノを弾くようになる。
すると少しずつ亜子の周囲も変化する日々に動きだした。
ビーリアルの通知が鳴った。わたしは起きてビーリアルの写真を撮った。
波留がせっかくの夏休みだと、ビーリアルをしようと言い出した。わたしも誘われるままオッケーしてしまった。
これが結構大変だ。いつ通知があるか分からなし、二分以内に撮影しないとダメだ。ましてや自分の写真をシェアしないとグループ内の写真も見れない。しかも撮影も外、内レンズのデュアルだ。
昨日はレジの最中だったので、常連客のけんたくんと映した。隣にいた小四のけんたくんは、思いっきりどアップのピース写真。もう一枚は外レンズで駄菓子のくじ引きが写っていた。そして今日はこんな時間(えーー、今日は、こんな寝起き。しかも外側レンズは、布団が写っている)加工や映えることができない。(最悪だ!)朝から、わたしに試練だ。
なんだかビーリアルの撮影が終わると今日の一日が半分済んだ気がした。
それでも店番してから今日で四日目だ。
ドンキーの冷し焼いもやスタバの新作フラペチーノが恋しいよ。コンビニもローソンばっかで飽きた。たまにはセブンの金シリーズやファミマのファミチキも食べたい。想像しただけで、よだれが出そうだ。
けどここで頑張らなきゃ。わたしなりにポジティブになる練習だ。店番もだいぶ慣れて店に来る客の顔も覚えるようになった。
ただ今も疑問だ。おばあちゃんが入院中なら閉店しても問題ない気が今もする。どうしてそこまでして、店を開くのかはいまだなぞだ。それでもわたしはテンション上げて店番するだけだ。
今日は、げんさんが一番にやって来た。
「亜子ちゃん今年もこれ貼らせてね」
「これは?」
「盆踊り&花火大会のポスター。毎年店の入口に貼らせてもらってる」
わたしはポスターを広げた。小学生が書いた手作りポスターだ。
「神社の広場でするんですね」
「毎年だよ。今年は特に神社がきれいに建て替えたから」
そう言えば、神社に行った時、足場が神社の周りに取り付けられてた。あれはまだ工事中だったのか。
げんさんはこの地区の自治会長らしい。毎日店で、よっちゃんいかを買って、入口の長ベンチに腰掛け二袋食べるのがお決まりだ。
次の来客はナミちゃんだ。ナミちゃんは小五だ。
「あこねえ」
わたしはナミちゃんに初対面の時からそう呼ばれている。
「なに?」
「初潮がきちゃったの? どうしたらいい?」
急に心の準備もなく生理の話しだ。
「お母さんに話した?」
「お母さん、お兄ちゃんのことで頭がいっぱいなの」
ナミちゃんのお兄さんは、確か中二で不登校らしい。
「今度お兄ちゃんも連れておいでよ」
わたしはナミちゃんに笑顔で答えた。
「うん。お兄ちゃんに聞いてみる」
その後わたしはナミちゃんに簡単に生理について説明してから、YouTube動画で生理についてをナミちゃんに見せた。
「亜子ちゃん、聞いてよ」
次に来たのは、おばあちゃんの友だち、みどりさんだった。みどりさんも毎日散歩の途中で店に寄って話しをする常連さんだ。
「今日ね」
また、義理嫁の悪口から始まり、最後は息子から犬を飼う許しがもらえない話しだ。毎日来ては、その話しでグチをこぼした。
おばあちゃんは毎日対応してたと思うと病気にもなる気がした。
それでも誰もが駄菓子を買って帰ってくれた。
店は夕方まで入れ替わりで、お客がやって来た。今日は60人分の正の字だ。売り上げも三万円超えた。夕日が店の中まで照らし、あと三分で店を閉める時だ。
「あの、まだ店大丈夫ですか?」
4日目にして見慣れない人だ。
坊主頭が伸びた髪型の四角顔の少年だ。洋服も白いTシャツに太ももまでの短パンにサンダルだ。
ちょっとひと昔前のファションだ。
「もしかしてナミちゃんのお兄さん?」
「えっ!」
駄菓子を選んでいた少年の手が止まった。
「違います」
思ってた以上に声は低くかった。少年は餅太郎と鈴カステーラーを2個ずつとラムネを買った。
「七時過ぎてゴメンなさい」
少年は時計を大きな目で、にらむように見た。
「大丈夫です。まだ十分程度過ぎただけですから」
「入口の長ベンチ腰掛けてもいいですか?」
わたしは少年にうなずいた。
「ラムネ飲んだら空瓶をベンチの下に置いといて下さい。明日片付けますから」
「わかりました」
わたしは少年が出ると扉のカーテンを閉めた。店を閉めると最近無性に弾きたくなるピアノに向かった。あんなに当時は嫌だったはすだ。でも今は指先から思いが落ちて行くように弾いている。
乾いた心から潤った心に戻っていきそうだ。久しぶりに弾く革命は、わたしの中でも革命を起こしてくれているのか。人間って不思議な生き物だ。
「今日も弾いてるの?」
ママが店に顔を出した。
「ママ、お帰り!」
「最近、熱心にピアノ弾くわね」
「うん。なぜか弾きたくなるの」
「そうなの。これが、もう十年早ければピアニストも夢じゃななかったのに」
ママの一言は、わたしに重たく息苦しい衣を着せられ身動きが鈍くなるような言葉だ。わたしはママの期待を裏切ってばかりだった。
「長ベンチにお客さん座ってなかった?」
わたしは、これ以上言われるとディフェンスが崩れそうなので、話しをそらした。
「誰もいなかったわよ。さあ、ご飯にしましょ」
わたしは何気なく今日のビーリアルを見た瞬間だった。
「なんで、宏樹の写真? しかも茶髪になってる。しかも図々しく友だち追加までなってる」
「どうしたの?」
急に食事時に声が出てしまい皿に盛り付けるママが振り返った。
「なんでもない」
わたしはすぐに波留にLINEした。
今週も閲覧していただいてありがとうございます。
人間って不思議で、亜子はあれだけ嫌だった店番や少女時代のピアノ。それに向き合うようになると、自分でも気づかない心の変化が生まれていた。まだその変化に気づいてない亜子は、今後どう進もうとするのか?