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わたしの中のわたし

 東京から長野に着いた亜子は様々な気持ちがうずまいた。 そんな時、祖母から駄菓子屋の店番をお願いされる。亜子は断るが強引に引き受けることになってしまった。亜子は急にゆうつになり東京に帰りたくなる。

「おばあちゃん」

  わたしは、おばあちゃんを見下ろす身長になっていた。これだけで月日を感じてしまう。しかもすっかりおばあちゃんは白髪になっていた。

「久しぶりね亜子ちゃん。すっかりお姉さんになんさって」

「おばあちゃん入院するの?」

「ちょっと内臓が悪いんよ」

「大丈夫。死なない?」

「検査するだけ。心配してくれてありがとうね」

  おばあちゃんの笑顔でわたしは安心した。いつもそうだ。 ママと違って、おばあちゃんの笑顔は太陽のような暖かなぬくもりある安らぎで落ち着く。

 それは6年経ってもいまだに変わらなかった。

「亜子ちゃんに頼みたいことがあるんよ」

 おばあちゃんは笑顔から真顔になった。

「なに?」

「この駄菓子屋をおばあちゃんが戻ってくるまで、変わりに開いてほしいんよ」

「えっーー! わたしが店番するの」

「あら、千恵言ってくれんかったの?」

 おばあちゃんはママの顔を見た。

「色々忙しくて、亜子には言いそびれたのよ」

「ママ知ってたの?」

  ママが気まずそうにうなずいた。

「どうしてママ言ってくれなかったのよ」

「そんなこと言えば、長野に着いてこなかったでしょ」

  ママの発言はズバリだった。何でわたしが店番をやるために、長野まで行かなくてはならないか意味不明だからだ。

「おばあちゃんが退院するまで、駄菓子屋は休業にしたらだめなの?」

 おばあちゃんは困った顔に変わった。あまりおばあちゃんを困らせたくない気持ちもある。だがわたしには荷が重く無理だ。

「みんな楽しみに待ってんのよ」

  たかが駄菓子屋の店を開く程度で楽しみ? わたしには理解不能だ。

「やっぱ、わたしには無理だよ」

「亜子ちゃんならできるんよ。できない人には最初からおばあちゃんも頼まんよ」

  おばあちゃんの顔が困り果てた。わたしはなんて、おばあちゃん不孝なのかと思ってしまう。

 けれどできないものはできないのだ。

「この店を1か月も閉めると、みんな行き場をなくしてしまうんよ」

「みんなって? 」

 おばあちゃんは、それ以上喋るのを辞めて、うつむいてしまった。

「亜子そこまでよ」

「ママ」

「わたしもできる限り手伝ってあげるから、1か月ほどよ。きっと亜子も社会勉強になるわよ」

  ある意味ママは強引だ。けど今更東京に引き返すわけにもいかない。わたしは仕方なく、いやいや引き受けるしかなかった。それが長野に来た意味だ。

  おばあちゃん家は築80年、瓦屋根の和風作りだ。 これも田舎あるあるの城みたいな建物だ。その建物横に駐車場を建て替えた駄菓子屋が建っていた。

 玄関の廊下からは、みしみしと歩くたび床から奇妙な音がした。みょうに誰かを踏みつぶしてる声に感じてしまう。そのまま奇妙な音を引きずって、わたしは2階に荷物を置きに行った。

 部屋は 染みついたカビ臭が、わたしの鼻をくすぐる。小5に来た夏休みの思い出が過去の引き出しから蘇ってくる。すっかり忘れていた感覚だ。

 わたしは窓を開けた。外の景色は田んぼや畑ばかりだ。東京なら何百軒建物が建つか分からない広さだ。

 窓から時々生温い風が部屋に入って居心地を悪くした。

「やっぱり長野も暑いわね。エアコンするわよ」

 ママが中央のふすまで部屋を2つに仕切りエアコンをオンにした。仕切った部屋でも、わたしの住むマンションより広く感じてしまうのはなぜだろう。

 強い日差しが真っ白なわたしの肌を焦がす勢いで夏の太陽が照らした。

 窓を閉め切ってもセミの大合唱は部屋に響いた。これも東京では聞けない自然の音色かと思ってしまう。

「亜子ちゃんお腹空いたでしょ。お昼にしましょう」

「うん」

  わたしは2階の踊り場から返事した。

 わたしがテーブルに行くとママとおばあちゃんはわたしを待っていた。

「わぁーー、すごぉ!」

  テーブルにてんぷらやそばなど、いっぱい並んでいた。

「これ、おばあちゃんが全部作ったの?」

「そうよ」

「すっごーーい」

「せっかく東京から来てくれるのだから、これくらいしなくちゃ」

 おばあちゃんが、わたしたちが来るのをいかに待ってたのかこの料理で分かる。

「いただきまーす。おいしい。こんなおいしいざるそばを食べたのは初めて。てんぷらもおいし過ぎる」

 わたしは意識せずに食べていた。その結果いつも以上に食べてお腹がいっぱいで動けない。

「この片付けが終わったら、明日からの店番の引き継ぎしましょうね」

 最も聞きたくない言葉で胸までいっぱいになった。 

 長野の夕方は静かすぎてわたしは落ちつかない。早く東京に帰りたい。どうしてこんな場所までついてきたんだろう。 これもわたしの主体性のなさだ。だんだん落ち込むわたしがいた。

 ママには迷惑かけれない。 ましてやおばあちゃんにも、けど••••••なんだか。

「ちょっと街探検してくる」

「気をつけるんよ」

 わたしは適当におばあちゃんにうなずいた。

 外に出た瞬間、倦怠感と惨めさが全身襲い涙が流れた。  なにの涙かもわからないまま流してる。東京と違って人混みがないから泣けた。

 わたしは工事中の神社を見つけ座った。孤独感に潰されそうだ。まるで小6の時、学校に行けず、不安の闇をさまよった時に戻りそうだ。(いやだっ! いやだっ! )あの時に戻りたくない。チクリチクリ針でわたしの弱い個所をつく。薄っぺらい自尊心は今にも粉々になりそうだ。

 必死に闇に引っ張られる心をわたしは戻した。どんどんわたしは、また壊れていきそうだ。

 呼吸器も苦しくなり、過呼吸のまえぶれなのか。

「大丈夫ですか?」

 急に遠くから声がした。

 わたしは、こんな姿を見れたくない。

「大丈夫です。向こうに行って下さい」

 まだ見せかけだけは世間体を気にする余裕があった。

「でも、ずいぶん苦しそうな呼吸が••••••」

「大丈夫ですから向こうに行って下さい」

 わたしは多少、声を出して落ち着きを取り戻した。

「よかったらこれ置いとくから使って」

 すっかり辺りは暗くなっていた。境内もうっすらと街灯ランプで照らしてあるだけだ。そんな時ママからLINE電話だ。 わたしはママからの電話をなにもなかったかのように簡単に終わらせた。

 もう落ち着いてすっかりわたしに戻っていた。これでひとまず大丈夫だ。

 神社から帰る時、鳥居の下に四つ折りしてある桜紋柄の手ぬぐいが置いてあった。

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