第一章 夏の扉
誰もが日々淡々と平凡に過ぎていく毎日。もし何か変化を求めるなら行動に移しますか?
行動することで高校2年生の亜子も生きる変化を求め動こうとします。コンクリートジャングルの東京から自然豊な長野にむかいます。
「亜子ちゃん、起きてよ」
わたしは母、千恵の声で起こされた。
「新幹線に乗り遅れるわよ」
そうだった明日からおばあちゃんが入院するのだった。
しかもおばあちゃん家で夏休み期間の約1ヵ月間住むのだ。
「亜子ちゃん起きてるの?」
母がわたしの部屋をノックした。
「今、降りる!」
「早く朝ご飯食べてよ」
まるで学校の生活と同じだ。
せっかくの夏休み初日なのに朝くらいはゆっくり寝たい。
それでも大好きな長野に住むおばあちゃんのためだ。頑張って起きて準備しなきゃ。
亜子は朝ご飯を食べ荷物をまとめた。
わたしは蒲田駅から東京駅までスーツケースを引きずるように人混みをかき分けた。スーツケースは重たくて朝の通学ラッシュより大変だ。この人混みだけで本当に今日から夏休みなのかと錯覚までしてしまう。
本来は羽田から長野まで飛行機が便利だ。だがわたしは飛行機が嫌いだった。
上昇する時の耳に気圧がかかる。その時、あの耳奥でキーンとするのが嫌いなのだ。何度唾を飲みこんでもキーンは取れない。わたしはその耳なりにうなされそうになる。
だから自分では特殊能力を持っているかもしれないと思いこむようにしてる。
東京駅からの高層ビル群が新幹線の速さで、わたしの視覚から一瞬で消えて行く。時の早さも肉眼で見えたらこんなスピードなのかと、センチメンタルに脳が自然と考えさせた。
多分最近TikTokで沼る自分がいるからだ。何でも視覚に映ったらシリーズの見過ぎた影響だ。
人間頭の中で強く描き続ければ、心体が究極になると見えるらしい。わたしには、まだ無理だった。なんせ2学期提出する進路決定すら決めれない優柔不断だ。
1年の時は何も考えず、ただ流される学校生活だった。2年の今も大学か短大かそれとも専門に進学するか悩んで決められない状況だ。
夏休み前に周囲は進路先を決めると妙に焦ったが、わたしは決められなかった。ただ頭の中をメリーゴーランドがぐるぐるとエンドレスに回り続けただけだ。
逆転の発想で思いきって就職するのも選択も考えた。いやいや、こんな調子ならまず社会人としては無理だ。そこには冷静なわたしが立ち塞がった。その結果、進学して親のすねかじりをしてやろうとわたしなりに1学期に考えた結論のはずだ。だか優柔不断のわたは今も迷っている。
でもここで気持ちがブレたらだめだ。強い気持ちは、すぐに弱くなり継続できないから、その先に辿り着けないのが困ったことだ。
特に何かやりたいことも興味を持つこともない。それは中学時代から今だに変わらない。入学して16か月経過しても何も興味がわかない。いや、いや、わたしは変わる変化が嫌なのかもしれない。
結局これでいいのかといつも思うが、これでいいのだと結論を出しては、ため息の日々を送る毎日だ。
今日は好きなあいみょんの音楽すら耳に入ってこない。
イヤホンを耳元から外し、わたしは不意に視線を車窓に向けた。車窓からは表面的に景色は映るが、わたしの目に映ってこなかった。ただ通り過ぎるだけだ。いったい今のわたしには何が映っているのだろうか? ボーとしながら車窓からの景色はただ単に目が追うだけだ。
「これ亜子ちゃんの」
母がペットボトルのお茶をくれた。
「ありがとう。お母さん仕事1か月よく休めたね」
「職場には介護休暇があるの。それを申請したのよ。 何かあってもデスクワークが、できるようにパソコンも持参してきてるし」
保険会社に勤める母はシャキシャキしすぎで要領もいい。 逆に父は公務員のわりにだらしない。洗濯やご飯もお母さんに指示を受けた。
特に生ゴミだけは毎週捨ててとまで言われた。
多分、その姿を見る限りわたしは父親似だろうと察した。 そんな時、握るスマホから着信のLINEが鳴った。親友の波留からだ『亜子、もう長野?』『新幹線移動中』『そうなんだーー』波留とは中学からの親友だ。
同じ高校を選び、何でも喋れる間柄だ。
『亜子は、いいなぁ田舎があって。わたしなんて帰る田舎がないんだよ。だから田舎を知らない』波留は両親とも東京出身だ。
田舎に帰る感覚が分からないらしい。ただ逃げる場所があっていいなぁと羨ましいがられた。
わたしは波留の言う逃げる意味が分からない。けど確かに東京から脱出してた時はうれしいかった。小学生までは、おばあちゃん家は自然がいっぱいでワクワクし非現実的だった印象が強かった。
けど今は、めんどくさい気持ちの方が上だ。何だかんだ言って東京が住みやすいからだ。
スマホで、おばあちゃん家をマップ検索した。
一応コンビニは、何とかありそうでまずは最低限度安心した。東京ならこんな心配しなくていいが地方あるあるだ。
まぁ不便でも1か月の辛抱だとわたしに言い聞かせた。
「亜子ちゃん長野駅に着いたわよ」
やっと長野駅に着いた。けどここからおばあちゃん家は電車で90分もかかった。
しかも快速電車すら止まらない駅らしい。わたしは中毒性の高いTikTokの何でも視覚に映ったらシリーズをまた見ていた。もはや沼ではなく沼から足が抜けない状況だ。