4話・酒は飲んでも飲まれるな
サクラちゃんとのサシオフで、面と向かって作品に対する感想を熱く語られ、調子に乗ってつい飲み過ぎてしまった。
「キタセさん、大丈夫ですか?」
「ん〜だいじょぶだいじょふ」
「こんなんで帰れます?」
「へいきへいき〜」
浮かれて深酒して千鳥足になってる俺の体を支えながら、サクラちゃんは困っているようだった。ごめんな。年上なのに、こんなにだらしなくて。
「そこら辺のベンチで酔い冷ましてから帰るから、サクラちゃんは先に帰っていいよ〜」
「泥酔してる人を繁華街の道端になんか置いていけません!」
「酔ってない酔ってない」
「まともに歩けないクセに何言ってんですか」
確かに、駅から一本入ったこの通りは治安があまりよろしくない。酔い潰れていたら置き引きに遭うかもしれないし、無理やり変な店に引きずり込まれて高額請求されるかもしれない。寒い季節ではないが、もし帰りそびれて朝までベンチで寝こけたら風邪をひいてしまう。
「オレのアパート近いんで、良かったら酔いがさめるまで休んでいってください」
そんなワケで、急遽サクラちゃんの家にお邪魔することになった。
アパートに着くまで、彼はずっと肩を貸してくれた。細身に見えるけど意外とがっしりしてるし腕力もある。イケメンだし気遣いも出来るし、これはモテるんだろうな。酔いの回ったアタマでそう思いながら、すぐそばにあるサクラちゃんの横顔を眺めた。金髪だから最初はビビったけど、受け答えは丁寧だし、見た目ほどチャラくない。今もこうして酔っ払った俺の世話をしてくれている。見た目だけで判断してごめんな、と反省した。
それなのに、なぜ押し倒されてるんだ???
「ごめんなさいごめんなさいキタセさん。キタセさんとふたりきりなんだと思ったらガマン出来なくて」
硬く冷たい床に転がされた時点で俺の酔いは完全に醒めた。アパートに入るなり、電気を点ける前にいきなり抱き着かれたのだ。薄暗い室内に響くのはサクラちゃんの荒い息遣いのみ。
「い、一旦落ち着こう、ね?」
「だって、憧れのキタセさんがオレの部屋に……こんなの耐えるなんて無理」
「サクラちゃん、酔ってるよね!?」
「酔ってません!」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよ!!」
俺もさっきそんな感じだったからな。
とにかく離れようと足掻くが、サクラちゃんの腕の力が強過ぎてビクともしない。体格差はそんなにないはずなのに、鍛え方が違うのか、はたまた年の差が出たか。無理やり体を離すことは諦め、別の路線から攻めることにした。
「あ、あのさ、居酒屋じゃあんまり突っ込んだ話出来なかったから、ちょっと話そうか。ホラ、次の新作の構想があるんだけど」
「聞きたいですッ!」
予想通り、新作の話をチラつかせたら凄い勢いで食い付いた。さすが俺のファンを名乗るだけあるな。