3話・褒められたら嬉しくなる
居酒屋の狭い個室で向かい合って座り、飲み物と料理を注文する。緊張はするが俺の方が年上だ。ここはまず俺が会話を盛り上げなくては。……とは思うものの、サクラちゃんの正体が男だったことに混乱してうまく言葉が出てこない。
そんな俺を見て、彼は笑顔で学生証を見せてきた。
「紛らわしい名前ですいません。でもコレ本名なんですよ」
学生証には『恵住 朔良』と表記されていた。初対面のおじさんに個人情報見せていいのか。てか良い大学通ってんなあ。
「こんな名前だから女だと勘違いされやすいんですよね。SNSにもよくナンパ目的のダイレクトメールが来ます」
「そ、そうなんだ……大変だね」
かくいう俺も性別を勘違いしていた内の一人だし、なんなら今日も若干の下心があった。急に申し訳なくなってくる。
それにしても綺麗な金髪だ。彼の整った顔立ちによく似合っている。カリスマ美容師がいるようなオシャレな美容院で染めてるんだろうな。男の俺でも思わず見惚れてしまうほどだ。
「えーと、あの、いつも感想ありがとうね」
大学生と盛り上がれる話題なんか分かるはずもなく、とりあえず日頃の感謝を伝えてみた。すると……
「いえっ、とんでもないです! こっちこそ、いつも読ませてもらってありがとうございます! オレ、ずっとキタセさんのこと好きだったから会えたの嬉しくて」
「う、うん」
「先日アップされた短編、すっごく好きで! あの世界観でもっと色んな話が見てみたいって思ってて! 主人公の仲間に焦点を当てた話も面白そうですよね。続編書く予定ありますか?」
見た目はチャラいけど、彼の言葉使いやテンションはSNSと全く同じだった。危惧していた身代わりとか成りすましとか冷やかしとかではなくて安心した。その後も堰を切ったように過去作に対する熱い思いを語られ、本当に俺の作品が好きなんだっていうのが伝わってきた。
投稿サイトに公開しても、流行りのジャンルではない俺の小説は閲覧数もブクマ数も伸びない。感想を貰えるなんて滅多にない。WEB作家仲間が義理で読んでくれるだけ。
そんな中、サクラちゃんだけは毎回誰よりも早く読んで、素直な感想をくれて、SNSで紹介までしてくれて。『また書こう』って気持ちを奮い立たせてくれた。
こんな風に直接顔を合わせて作品について語られる日が来るなんて思わなかった。思い描いていたような可愛い女の子じゃなかったけど、そんな些細なことがどうでもよくなるくらい嬉しい。
──だから、飲み過ぎてしまった。