1話・サシオフのお誘い
飲み会で酔い潰れたら若い男にお持ち帰りされた。
「キタセさん、オレずっと貴方のことが……」
「まっ、待て、落ち着け! 話せば分かる!」
「でもキタセさんのここ、もうこんなですよ」
「それはおまえが触ってるからだろーがッ!」
初対面で泥酔した俺が悪い。全面的に非は認める。でも、だからって、なんで男から押し倒されなきゃならないんだ???
***
──話は数日前に遡る。
趣味で細々と一次創作を続けてもうすぐ十年。賞や公募にかすりもせず、ただひたすら書くだけの日々を送るパッとしないWEB小説家。
それが俺、紀多部 聖司。PN『キタセ』。
昼間は会社で働き、夜はパソコンに向かって物語を打ち込み、投稿サイトにアップして馴染みの作家仲間に読んでもらう。それが一番楽しい時間。
……いや、ここ数年で固定の読者が出来た。
少しでも宣伝になればと始めたSNSで、毎回欠かさず反応をくれる子がいる。それがHNサクラちゃん。可愛い桜の写真のアイコンで、言葉使いは丁寧。嬉しいことに俺のファンだと公言し、作品に対する感想をアップしてくれたりする。彼女のおかげで創作出来ていると言っても過言ではない。
そんな彼女を好きにならないわけがない!
でも俺はこの通り、金にもならない趣味だけを楽しみに生きるアラサー会社員。プライベートなことまで突っ込んで話せるようなコミュニケーション能力はない。だから、自分からアクションを起こせずにいた。ていうか、彼女が好きなのは『作品』であって『俺』じゃない。そこんところは勘違いしたらダメだ。
『二十歳の誕生日!やっとお酒が飲めます』
そんな時にサクラちゃんのSNSにこんな投稿があった。居酒屋らしき場所でお酒のグラスが映った写真が一緒にアップされている。
サクラちゃん、二十歳か。
若ぇ〜〜!(苦笑い
差し障りのない誕生祝いコメントを書き込みながら、ふと気付く。この写真に映ってる場所見たことあるな、と。ああ、最寄り駅近くにある居酒屋だ。安いからたまに行くんだよな。てゆーことは、サクラちゃんもこの辺に住んでたんだ。何年もSNSでやり取りしてたのに知らなかった。
そこで、ほんの少し魔がさした。
お祝いコメントに『今度飲みに行く?』と一文足して送信してしまったのだ。普段の俺なら絶対書かないような誘いの言葉。すぐに正気に戻って削除しようとしたが、それより先にサクラちゃんから返信が来た。
『わあ、嬉しいです!是非!(≧∀≦)』
サクラちゃん優し〜!
こんなおじさんの痛いコメントにも笑顔で返してくれてる〜。嫌がられなくてよかったけど、これは社交辞令だから真に受けてはいけない。俺は大人なんだから。
しかし、メッセージには即座に既読マークが付き、あたふたしている間にダイレクトメールが届いた。
『金曜と土曜の夜ならいつでも空いてま〜す!キタセさんとは一度お話してみたかったので、良かったらふたりでお会いしませんか?』
嘘だろ。本当にいいの?
てか、ふたりきり???
えっ、いいの?(二回目
震える手で来週の金曜の夜を指定し、待ち合わせ場所を決めた。場所はやはり写真にあったあの居酒屋になった。