小さな騒動 1
※ラジェラース視点です。
コンコンッ
「ラジェラース様、おはようございます。朝食の準備が終わりましたのでお迎えに上がりました」
「あぁ、分かりました。今行きます」
「恐れ入ります」
私の名前はラジェラース・ディ・ヴィオール。
ここ、エルフの国 ライトムーン帝国の元第二王子で今は公爵になっているハイエルフ族の父と黒豹族・族長の娘でヴィオール公爵夫人という肩書きを持つ母の間に長男として生まれた。
私は昨日からライトムーン帝国の中枢であり皇族が住んでいる城...セレネ城の皇族居住区の一室にいる。
勿論、父、母、弟のエーリネルも同じ階に泊まっている。
皇族ではない私たちが何故このようなところに?と思われるかも知れないが、一応私にも半分だけ皇族の血が入っているからという理由で特別に許されている。
まぁ、十中八九、父上と従兄弟殿たちのお陰だろうがな(笑)。
どうやら食堂に着いたようだ。
叔父上、叔母上、従兄弟の2人、父上、母上、弟が既に席に着いていた。
相変わらず早い面々である。
残りは皇帝陛下と皇后陛下、それからもう1人の従兄妹である。
「おはようございます。叔母上、叔父上、ルイラーダ兄上、リシャルカ、父上、母上、エーリネル」
「あぁ、おはよう」
この場の中で一番身分が高い叔父上が私の挨拶を返してくれた。
叔父上は情熱的な父上とは違い、いつも落ち着いていて笑っている。私はそんな叔父上が大好きだ。
叔父上の隣でにこやかでどことなくふわふわしている感じの笑みを浮かべた叔母上も私に声を掛けてくれた。
「ご機嫌よう、ラジェラース。あなたも大きくなったわね、ふふふ。スーザンにそっくりになってきたわ」
「やめてくれよ、ティサーナ。君の息子たちだって君とヒュデルファスにそっくりじゃないか。特にミシュタリカなんて特に君と瓜二つでとてもかわいらしいよ」
「ふふふ、ありがとう」
「そういや、ミシュタリカ遅いな」
「あぁ、あの子なら今頃・・・」
叔父上と父上が私のもう1人の従兄妹、ミシュタリカ・エヴァ・リナ・ムーンライトの話をしていた時だった。
「ご報告致します。ミシュタリカ・エヴァ・リナ・ムーンライト殿下は只今、騎士団訓練所にて訓練をなされております」
「「「「「・・・」」」」」
叔母上とルイ兄上、リシャルカがにこやかで聞いている中、3人以外の全員が固まった。
一番最初に硬直が解けた叔父上が呆れた顔で呟く。
「・・・はぁ...やっぱりか....」
「・・・あっはっはっ」
「あははははは。ミシュタリカは面白い子に成長したようだな!」
父上と母上が豪快に笑い声を上げた。
そして母上の最後の言葉に反応するように、リシャルカが興奮気味に
「えぇ!そうなんですよ、叔母上!!」
「ふふふ、見ていて飽きないのですよ。私の可愛い妹は」
そして上品で美しい顔に頬をほんのり赤く染めながらルイ兄上が言った。
このルイ兄上の顔に周りにいたメイド達が一気に倒れるのか............と思いきや、流石は皇族付き侍女達である。表情をなんとか保ち震えながらも気合いで立っているのが見受けられる。
こうまでしないとハイエルフ族特有の色気に当てられてしまうのだろう。
学園に行ったらどうなるのか...ルイ兄上もそうだが、特に心配なのがミシュタリカだ。
ルイ兄上とリシャルカはどことなく父であるヒュデルファス様に似ている。だが、ミシュタリカは母であるティサーナ様に似ているのだ。
どうやら本人は気づいていないようだが、笑っている顔やふとした表情が瓜二つだ。
学園に行ったら男女問わず、彼女の虜になるに違いない。
もしかしたら私の番かもしれない彼女のことが今から心配である。
それに...ルイ兄上の情報によると、奇想天外な行動を起こすことがあるらしい。
ただでさえほわほわしていて美人すぎると言うのに....。
「皇帝陛下、皇后陛下のご到着でございます」
扉の前に立っている騎士の声に座っていた皆が一斉に立ち、扉の方に体を少し斜めに向けて待つ。
私たちの周りで待機していた侍女や侍従、料理人達は一斉に腰を90度に曲げ、頭を下げた。
その直後に扉の前で待機していた騎士達が扉を開ける。
ギギィィィィ という音を鳴らしながら重い扉が完全に開いたと同時に皇帝陛下と皇后陛下の姿が完全に見えた。その瞬間、私たち男性は頭を下げ、女性は綺麗なカーテシーをした。
「皆、楽にせよ」
皇帝陛下の言葉が聞こえた途端、一斉に頭を上げる。
横でエーリネルが座り掛けたので、『まだだよ』と念話で教えてあげる。
皇帝陛下と皇后陛下を横目で見ながら御二方が着席するまで待つ。
皇帝陛下と皇后陛下が席に着いたので、私たちも席に座る。それも一斉に。
ここまでよく揃うよなと毎回思う。
まぁ、でもそれもそうかと毎回思い直すのだ。
何しろ王侯貴族は礼儀作法等を幼い頃から叩き込まれるのだから。
早い家だと、4歳には習わせているという。何とも言えないが、教育熱心な家だなと思うことにする。
その点、我が家は上級貴族では遅い方だろう。エーリネルは6歳だが、礼儀作法に関しては最近習い始めたばかりなのだから。私は公爵家嫡男という立場から少し速めの5歳になったばかりの頃から習いだした。
そのおかげか今では礼儀作法はお手のもの。最近ではエーリネルの練習相手になっていることが多い。
「して、ミシュタリカはまだか?」
「はい、父上。申し訳ございません」
皇帝陛下の言葉に叔父上が返事をする。
というか ミシュタリカ、本当に遅いな。皇帝陛下よりも遅いとは...自由人だな....。
「はっはっはっ。よいよい、別に責めるつもりで聞いたのではない。どうせ、いつもの朝練じゃろうて」
「えぇ、まぁ...その通りです」
「うふふ、良いではありませんか。元気な証ですよ」
上から皇帝陛下、叔父上、皇后陛下が言った。
どことなく叔父上は気まづそうだ。
叔父上はあまり表情を崩すことはないのだが、家族の前だと表情が少し崩れやすくなるらしい。
特に叔母上とミシュタリカに関することになると百面相をしていることが多い。
叔父上を見ていて、最近発見した。
そうこう考えていたら扉の前で待機していた騎士が再度言葉を発する。
「ミシュタリカ・エヴァ・リナ・ムーンライト殿下、ご到着でございます」
『はぁ、やっと来た...』という顔を叔父上がした直後、扉が開き、この国の第一皇女が姿を現した。
少しウェーブのかかった美しく長い銀髪の大部分を後ろに1本の三つ編みにして流し後毛の部分を薄く1束だけそのまま垂らしている。薄めなピンク色と金色と見紛うような明るく薄い黄色がグラデーションしている不思議な瞳は感動しているように輝いており 頭の上には、ミシュタリカの瞳と同じ色をした宝石が付いているマリアティアラを被っている。その身を包む服は少し変わった洋装をしておりこの場にいる皆が興味津々だ。
騎士や使用人達、ルイ兄上とリシャルカ、エーリネルはミシュタリカを見て頬を染めており、皇后陛下と叔母上、母上は『なんだ、その服は!?』という思いが伝わってくるようだ。そして叔父上はホッとし頬を染めながらもその視線は鋭く『何故ここまで遅くなったのだ!?』と思っているのがビンビン伝わってくる。皇帝陛下と叔父上は『ほぉ...』と何かに感心したようだ。恐らくミシュタリカの着ている服に興味があるのだろう。
だが、皆の思いや視線に本人は気づいていないようだった。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや、良いぞ。さぁ、ミシュよ、お主も席に着くのだ (ニコニコ)」
「「「「「「「「「・・・(ウンウン。ニコニコ)・・・」」」」」」」」」
「はい」
『なんだ、この可愛い生き物は!?!?!?』と皆の心が一致したであろう瞬間だった。
ミシュタリカが来るといつもその場に華が大輪に咲いたような心にされるのだ。これは私だけではなく、ミシュタリカに関わったことのある人たち皆が感じていることだろう。
ふと叔父上の顔を見たらいつの間にかニコニコしていたのに気がついた。
もうニコニコではなく、ニッコニコだ。
そこで改めてミシュタリカは皆に愛されているのだと感じる。
「...うむ。皆揃ったな?では食事の祈りをしようぞ」
「「「「「「「「「「"神よ自然よ。我々にお恵みを与えてくださり感謝します。精霊よ妖精よ。常に良き隣人となり、我々を支えてくれて感謝する。民よ。我々王侯貴族のために働き、精を出してくれ感謝する。また自身のため己の家族のため毎日一生懸命働いておるのは尊敬に値する。これからもより良い国を共に作って行こう。皆の働き・努力に敬意を表し、食事を頂きます。"」」」」」」」」」」
古代語で食と民に感謝をした後、皇帝陛下の
「それでは、今日も民たちに感謝し、己の職務で精進しよう」
という言葉の後、食べ始めたので私たちもそれぞれで食べ進めた。
皆が食べ終わった後、しばらくしてから皇后陛下がミシュタリカに声を掛けた。
どうやら陛下は食事中もずっとミシュタリカの服装を気にしていたらしい。
叔母上と母上、侍女達も興味津々だ。どうやら騎士の中にも数人、気になっていた者がいたらしい。
その者達も叔母上達と一緒になってミシュタリカの話に耳を傾けていた。
ミシュタリカの話によると、どうやら自作らしい。それも魔法で、だ。
魔法で服を作る技術は確かに存在する。
しかし、広大な領土を持つこの国でもその技術を扱える者はたったの5人だけだろう。
それ程までに魔法で作る服...魔法服を作るのは難しいのだ。それをたった6歳の子が成したというのはとても衝撃的だった。
ルイ兄上とリシャルカはとても誇らしげな表情をしているが、叔父上と叔母上、父上と母上は驚きのあまり固まってしまっている。
皇帝陛下と皇后陛下は流石と言えるだろう。一瞬、動揺こそしたようだが直ぐに立ち直っていた。
エーリネルは何なのかよく分からない表情をしていた。だが、ミシュタリカが異常なことをしたのだろうことは周囲の反応を見て察したのだろう。直ぐに顔が引き締まっていた。
ははは、我が弟ながら反応が面白い。
皇后陛下の声かけに硬直していた大人達も現実に帰ってきたようだ。口々に感想を述べている。
皇后陛下の最後の一言にミシュタリカが歓喜したのが分かった。
その瞬間、この場にいた者たちの心が『ぐっ。ミシュ((ちゃん))、天使』と一致した。
本人は相も変わらず、気づいてないようだった。
9話を読んでいただきありがとうございます!
今回はここで区切らせていただきます。
次回もよろしくお願いします。